黒猫のミゥ
黒猫ミゥは元気なオスの猫。子猫でもないがまだ
大人でもない。そんなお年頃。毎日の普通に楽しい日常 は突然奪われた。そんな時、謎の魔女に出会い自らの運命を知る。そして別れや出会いを経験しながら少しずつ成長していく。
「いつまでもくよくよしていられない。僕には大事な友達だっているんだ。」
黒猫ミゥの新しい毎日が始まる。
窓から射し込む柔らかな朝の日射しが
ポカポカと身体を暖めて
すごく気持ちが良くて
まだまだ寝ていたい春の朝。
ぐぐーっと背筋を伸ばして眠そうに
アクビをしながら目覚めた僕。
窓際の出窓のスペースが僕の寝床だ。
お気に入りの寝床からストンっと飛び降り
トコトコと、美味しそうな匂いのする
一階へ降りて行く。
この匂いはパンを小さくちぎって食べやすいサイズにして、おばあちゃん特製の美味しいスープがたっぷり染み込んだ、僕の大好物に違いない。
にゃーにゃー 「おばあちゃん、おはよう。」
「おはよう、ミゥ。ご飯お食べ。」
そう。 僕はネコなのだ。
自己紹介をしておこう。
僕は黒猫のミゥ。
ここの時計屋さんを営む老夫婦に
お世話になっている黒猫だ。
僕とおばあちゃんのやり取りを聞いて
おじいちゃんも僕に気がついて頭を優しく
撫でてくれる。
「ミゥいっぱいお食べ。」
にゃー 「おじいちゃん、おはよう。」
口数は少ないが優しいおじいちゃんだ。
僕はこの時計屋のお家も、おじいちゃんも
おばあちゃんも大好きだ。
ここで大事に飼ってもらえて感謝している。
僕はご飯を食べ終わり、いつも通りペロペロ顔を洗った。満足して気分が良くてのどをゴロゴロ鳴らした。
にゃにゃーん
「あぁ~美味しかった~。ごちそうさま♪」
そう言ってから、いつも通りに外へ散歩に行こうと
ドアのほうへと歩いた。
「ミゥ気を付けて行っておいで。」
おばあちゃんは、にこにこ笑顔で見送ってくれて
おじいちゃんは、頭を優しく撫でてくれた。
本当に優しい二人が僕は大好きだ。
にゃうにゃー 「いってきまーす。」
僕は外へ出てすぐ横の塀の上へ飛び上がり
そのまま塀の上を少し歩いて隣の屋根の上へ
飛び上がった。僕のいつもの散歩コースなのだ。 この辺りは同じような高さと同じような色の
家が並んでいて屋根から屋根へ飛び移れば
どこまでも行ってしまえるくらいずっと遠くまで
建物が並んでいた。城下町で建築基準などが
決まっていて厳しいからだろう。
ずっと遠くに見えるお城まで、道も建物も
真っ直ぐ綺麗に揃っている様子はいつも見る景色
とはいえ壮観だった。
僕は屋根の上から見るこの景色が好きだった。
ここに来て、お城を眺めているとなぜだか解らないけど、なんだか懐かしい気分になったんだ。
満足行くまで景色を楽しんだら、街中をあちこち
パトロール。屋根の上からいろんな人を見たり
野良猫の後を追いかけてみたりするのが僕の日常なのだ。この街、王都グランフォードは世界でも有数の豊かな国で様々な人種がひしめいていて人口も多かった。
街の側を流れる大河のおかげで農業や牧畜も盛んで
他国との貿易などもこの国の経済を支えていた。
おじいちゃんとおばあちゃんの時計店も外国製の
珍しい時計なんかも売ったりして、小さくて貧しいながらも、なんとか、やりくりできていたんだ。
決して楽な生活ではないだろうけど、僕のことを
すごく大事にしてくれて毎日が、楽しかった。
でもなぜか想いだせないんだ。
おじいちゃん、おばあちゃんに出会った時のこと。
この家に来たときのこと。
お父さん、お母さんのこと。
産まれたときのこと。
どうしても想いだせないんだ。
それは僕が小さかったから覚えていないとかではないような気がするんだ。
なぜだかわからないけど…
それに僕には、秘密がある。
僕は普通の猫ではないのだ。
なぜかと言うと、僕には人間の言葉が理解できる。
猫の言葉は解らないのにだ。
近所で暮らす野良猫の言葉は解らない。
コミニュケーションの取り方だって解らない。
他の猫逹には違いが解るのか僕に近づいて
来ることは無かったんだ。
だから僕は普通じゃない。普通の猫じゃないんだ。
だからと言って、何かをどうにかできるはずもなく
毎日それなりに楽しく過ごしていたんだ。
あんな悲しい日が来てしまうまでは・・・
ある夜のこと。
風がなくて月も出ていない真っ暗な夜だった。
いつものように、二階のお気に入りの出窓の寝床で
眠っていたんだけど、何か知らない気配を感じたし
知らない足音を聞いたんだ。
僕はネコだから耳もよく聞こえるし、人間より
何かの気配に気が付くのだって早いはずなのに
僕が気付いた時には、もう何者かの侵入を許して
しまっていたんだ。
もちろん、もっと早くに気が付いていても
どうにもすることは、できなかっただろうけど。
「だ 誰だ!お前たちは?!」
おじいちゃんの怒鳴り声が聞こえた。
おじいちゃんは普段、声を荒げるような人ではなかったし聞いたこともなかった。
「なに?あなたたちは?欲しい物なら何でも
あげるから出て行って!」
おばあちゃんの怯えた声が聞こえた。
僕は大急ぎで寝床から飛び降り
階段を駆け下りた。
にゃぉ にゃぉー 「おじいちゃーん !おばあちゃーん!」
階段を駆け下りて最初に目に入ったのは
知らない男が、ナイフでおじいちゃんを
突き刺した瞬間だった。
「あぁ おじいさん!何てことを!」
おばあちゃんは倒れるおじいちゃんを抱きかかえる
ように一緒に倒れた。
僕は恐怖とショックで身体が動かなかったんだ。
「顔を見られたからには生かしてはおけねぇ。」
知らない男が低い声でそう言った。
「悪いがばあさんにも死んでもらう。お前ら
やれ!」
仲間か子分らしき男が他にも二人見えた。
そのうちの一人の背の小さめの男が
おばあちゃんも刺そうと迫る。
僕は無意識に、背の小さめの男に飛びかかった。
ザクッ!!
「ギャー いてぇー 目がぁー!」
男は情けなく叫んだ。
僕は男の左目をおもいっきり引っ掻いた。
「ミゥ!!早くお逃げ!」
おばあちゃんは、僕に逃げるように言ったけど
僕は男が、おばあちゃんに近づけないように
必死で立ち塞がったんだ。
フゥー ウゥー ワォー
「おばあちゃんに近づくな!」
次の瞬間、仲間か子分のもう一人の痩せた男が
僕のお腹を激しく蹴りあげたんだ。
「このっ!、くそネコがっ!」
蹴り飛ばされた僕は壁に叩きつけられて
床に落ちた。
ドンッ
ドサッ
鈍い音と共に僕は床に倒れた。
カハッ ゲホゲホ
かなりの量の血を吐いて息が苦しくなる。
意識が、もうろうとして目が霞む。
どこか折れてはいけない骨が折れたのか
それとも内蔵が破裂したのか僕はそう感じた。
遠のく意識の中でおばあちゃんが僕の名前を
呼ぶのが聞こえた。
「ミゥ・・・ミゥ 何も猫までそんな・・・」
リーダー格らしき男が言った。
「金と金目の物を集めろ。ばあさんもさっさと
始末して、店には火をつけろ。」
僕は呼吸ができなくなり、痛みのせいもあって
やがて意識を失った。
何時間、いや何日眠っていたのだろう…
ずいぶん長い間眠っていた気がする。
意識もはっきりしないし身体も上手く動かせない。
目を開けようと、がんばってみたものの眩しくて
なかなかまぶたを開けることができない。
そのうちどこか遠くから声が聞こえてきた。
遠くから聞こえてくる声はだんだん近づいてきている気がした。
身体は上手く動かせないが、まぶただけなら
なんとかなりそうだ。
だんだん光が見えてきたけど、なかなか目を
開くことができない。それでもぼんやりと周りの
景色が見えてきた。
そして僕は目を覚ました。
「お!?目が覚めたか?何か欲しい物あるか?」
まぶしいながらも、なんとか目を開けて
声の主の姿を見ることができた。
なんと声の主は真っ黒なカラスだった。
「俺の名前は、フゥってんだ。よろしくな。
何か欲しい物あるか?水や多少の食べ物ならあるからな。意識が戻って良かったよ。」
フゥと名乗った真っ黒なカラスは優しく僕を見下ろしてそう言った。
「もう六日も眠ったきりだったんだよ。喉渇いたでしょ?お水でも飲みなよ。」
そう言いながら器用に水の入ったお皿をシッポの上に載せて運んできたのは、とてもきれいな白い蛇だった。白といっても光の当たり具合いで白にも銀色にも見えるようなパールホワイトだった。
白い蛇は僕の寝ているすぐ横に水の入ったお皿を置いてくれた。
「私はスゥ。よろしくね。具合はどう?お水飲めそう?」
僕は、ありがとうくらい言いたかったけど
声が出なくて、うなづいて応えた。
身体がまだあちこち痛くて、熱っぽく感じる。
僕は水を少しだけ飲んで、またすぐに丸まって眠った。
初投稿ですので
下手ですが楽しんで読んでもらえたらと思います。
よろしくお願い致します。