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08 ソフトクリーム

 下校中のファーは、僕に気づくと手を上げて寄ってきた。

 彼女からは最近、徐々にだが機械らしさが抜けてきたように思う。彼女の学校生活の目標である『感情プログラムの修正』は上手く進んでいるのだろう。

「今、コンビニで友達の分もアイス買ったとこ」

「今日は気温が高いですから」

「ほんと、暑くて参るよ。あ、多めにあるから、どう?」

 僕は返事を待たず、コーンに盛り付けられたソフトクリームのパッケージを破って手渡した。

「味は分かりますが、こんなに沢山は無理です。残してしまいますから」

 いつもは食事を取らない彼女だが、味覚自体はあるらしい。ファーは受け取りながらも、戸惑ったように首を傾げた。

「残ったら僕が貰うよ。……あ、変な下心とかじゃなくて」

 アイスと彼女の顔、それに地面に視線をさまよわせながら、止せばいいのに弁解する。それとは対照的に、ファーは静かに目を細めた。その笑顔に限りなく近い表情に、僕は一瞬見惚れてしまった。

「では一口だけ貰って、あとはテスさんにお任せしますね」

 宣言どおり味見だけすると、ファーは礼を言って去った。残された僕は食べかけのソフトクリームが溶けるまで、複雑な思いで立ち尽くしていた。

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