完璧な先輩、黒木春
BLを不快に思われる方は、見ない事をお勧めします。
俺の名前は名取規一(なとりきいち)、漢の中の漢。
だからこそ、俺には大きな声で言えない悩みがある。
それは、男に恋をしているという事だ!
あ、誤解してほしくないんだけど、男を好きになった事が悩みなのではない。
男との、直接的に言えば、ヤり方がわからない事が悩みで。
高校に入学して、初めて仲良くなった友人、柴野優(しばのゆう)に恋をして一年と少し。
そんな俺は、今、三年生校舎にきている。
全校生徒の憧れ、容姿の良さはもちろん、学業もトップ・クラスの、黒木春(くろきしゅん)に会いに!
何故かって?
ふふん、それは、俺が衝撃的な場面を見たからだ。
その黒木先輩が、体育館裏で男とキスしている場面を!
だから俺は、彼ならそういう事を知っていると思って、ここにきた。
一つ学年が上というだけなのに、二年校舎では感じない居心地の悪さに身を歪めながら、俺は先輩のクラス、三年C組の教室へと足を進めた。
するとその途中、先輩らしき人がトイレから出てくるのを発見した。
うん、あれは確かに黒木先輩だ。
そう思って、俺は足早に距離を縮めた。
「黒木先輩!」
俺がその名を呼ぶと、漆黒に染まった綺麗な黒髪を靡かせて歩いていた彼は、足をとめた。
そして、ゆっくりとふり向くと、何もかも見透かすような鋭い瞳で、俺を見た。
「何か用?」
そう言うと、先輩は俺の方に向かってきた。
全校生徒の憧れの黒木春が、自分のために歩いてると思うと、なんだか不思議な気持ちになった。
いいや、違う!
俺は先輩に、男とのヤり方について聞きにきたんだ。
幸い、周りには虫一匹いない。
「あ、あの!」
「ん?」
俺は、自分の中にある全ての勇気を振り絞って、言った。
「俺に、男同士のヤり方を教えてください!」
「いいよ」
「へ!?」
驚いた。
い、いや、ありがたいんだけど、あまりにもあっさりしすぎというか。
もっと、何で知ってるんだとか、いきなり何を言い出すんだとか、言われると思ってたから、この返答には本当に驚いた。
「いらないなら、別にいいけど?」
「いや!ぜひお願いします先輩!」
やっぱり、あの場面は本当だったんだ。
こんなに格好良くて、女からも嫌ってくらいモテるのに、男と付き合ってるなんて、世界は広いな。
「でも、今日は無理」
「あ、大丈夫です!来週の水曜までになんとかなればいいですから」
「何で水曜なの?」
「好きなやつに告るの、水曜って決めてるんです。だから、それまでにレクチャーしてもらえれば」
俺がそう言うと、先輩は、自分のポケットから小さい手帳を取り出した。
おお、なんか、こういう単純な仕草でも格好良く見える。
「うーん。じゃ、俺、今週の土・日空いてるから、それで良ければいいよ」
土・日って、二日もいるのか?
よくわからないけど、ま、いいか。
「それでお願いします!」
俺が元気よく答えると、先輩は、おそらく女子は確実に落ちるであろう爽やかな笑顔で、俺の頭を撫でた。
「ま、頑張れ」
あ、危ねー、危うく俺も落ちるところだった。
よく考えたら、俺、今すごく恥ずかしい事されてるよな。
身長185㎝の先輩が、172㎝の俺を撫でるって。
俺だって、そんなに低くないんだけどなー。
とにかく、こんな事をさりげなくする先輩だからこそ、モテるんだなと改めて思った。
「あ、俺のメアド教えときますね!」
予鈴三分前になったので、俺は慌ててアドレス交換をし、二年生校舎に戻った。
どうなるのかわからないけど、同性の優に告白するにはそれなりの準備が必要だと思う。
だからこそ、あの黒木春に教わるんだ。
ああ、土・日が待ち遠しくなってきた。