タイトル未定2026/01/04 16:53
※本作は異世界×スポ根×師弟ものです。
拳しか信じてこなかった天才女子ボクサーが、異世界で“教える側”になる物語。
軽めのノリで進みます。
第二ラウンドが始まった。
コロンの呼吸は荒い。
額から血が滲み、頬は赤く腫れている。
(……痛ぇよな、それ)
ベアナックル。
グローブがない分、拳も顔も、全部ダメージが直に来る。
それでも、コロンは前を見ていた。
相手は苛立っている。
体格差があるのに、思ったほどすぐには倒れない。
当たるはずの拳が、空を切る。
「ちっ……!」
雑になったフック。
(今!)
私は、思わず前のめりになる。
——スッ。
コロンが、サイドに動いた。
完璧じゃない。
でも、さっきより確実にいい。
(聞こえてるんだな・・・)
相手の体勢が崩れた瞬間。
——ドン!
コロンの拳が、相手の腹に入った。
浅い。
それでも、確かに効いている。
「おっ……!」
観客席がざわつく。
(そうだ、続けろ)
コロンは、深く踏み込まない。
無理に倒しにいかない。
当てに行くことを意識している。
殴って、離れる。
殴られても、直撃は防ぐ。
ただ、それだけ。
——ドンッ!!
今度は、相手の拳が入る。
「ぐっ……!」
コロンの体が揺れた。
(ダメだ、そこで踏ん張るな)
「バックステップ!」
また、声が出た。
観客の何人かが、こちらを見る。
でも、もう構わなかった。
「顎引け! ガード下げんな!」
コロンは、歯を食いしばりながら、頷いた。
——そして、耐えた。
大きいパンチは距離で外し、
耐えられそうなもパンチはガードで凌ぐ
(……すげぇ)
正直、技術的には全然だ。
日本のアマチュアなら地区大会でも初戦負けぐらいだろう。
それでも。
心が、折れてない。
(……弟だ)
あの頃の弟。
弱くて、泣き虫で、それでも私の後ろを必死についてきた。
——消えてしまった弟。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「……負けるな」
小さく呟いたつもりだった。
——カァン!
第二ラウンド終了。
コロンは、ふらつきながらも立っている。
相手は、舌打ちをしていた。
(勝敗は……分からないな)
第三ラウンド。
体力は、どっちも限界だ。
開始直後、相手が突っ込んできた。
——ドン!
拳が交差する。
コロンの顔が歪む。
でも、踏みとどまる。
(……まだだ)
最後の力を振り絞るみたいに、コロンは前に出た。
——ドン!
——ドン!
二発、続けて。
浅いけど、確かに当てた。
相手が、一瞬だけ下がる。
——カァン!!
終了の合図。
会場が、ざわめいた。
「どうだ……?」
「分からんな……」
判定。
木札が掲げられる。
——相手、二票。
コロン、一票。
負け。
コロンは、その場で立ち尽くした。
肩が、少しだけ落ちる。
でも、泣かなかった。
相手と握手をして、深く頭を下げる。
観客席から、まばらな拍手。
私は、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
(……負けたのに)
(なんで、こんなに……)
控え室の前で、コロンが私を見つけた。
「す、すぎなさん……」
顔はボロボロ。
でも、目は真っ直ぐ。
「……応援、ありがとうございました」
深く、頭を下げられる。
「……気にすんな」
思ったより、声が掠れた。
「負けてない。あんた、ちゃんと戦ってた」
コロンは、目を見開いた。
「……本当ですか?」
「本当」
胸を張って言えた。
コロンは、少し迷ってから、意を決したように口を開く。
「あの……その……」
拳を、ぎゅっと握りしめる。
「……僕に、拳闘を教えてください」
胸が、どくんと鳴った。
「次は……勝ちたいんです」
真っ直ぐな目。
逃げ場は、なかった。
(……あー、もう)
私は、苦笑いする。
「……賞金、出るの?」
「えっ」
「勝ったら、半分な。」
一瞬きょとんとしてから、コロンは勢いよく頷いた。
「は、はい!!」
そうして私は——
異世界で、
“師匠”としてセコンドになることを決めた。
(つづく)




