表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

第3話 拳闘士になりたい? あぁ、無理だね

※本作は異世界×スポ根×師弟ものです。


拳しか信じてこなかった天才女子ボクサーが、異世界で“教える側”になる物語。


軽めのノリで進みます。

コロンに案内されて向かったのは、王都の中心部から少し外れた場所だった。


 石造りの建物が並ぶ中で、ひときわ大きく、そして物騒な空気を放つ施設。


 鉄製の門。

 壁には無数の傷跡。

 建物の前には、筋骨隆々の男たちがたむろしている。


(……あ、ここだ)


 空気が違う。

 完全に、血の匂いがする。


「ここが……拳闘士ギルドです」


 コロンが、少し誇らしそうに言った。


「へぇ……思ったよりガチだね」


 私は自然と背筋が伸びるのを感じた。

 リングの前に立つときと、同じ感覚。


「じゃ、早速登録しよっか」


「え?」


 コロンが目を丸くする。


「す、すぎなさん……本気なんですか?」


「当たり前でしょ。拳闘士になりたいんだもん」


 門の前に立つと、警備らしき男がこちらを見下ろしてきた。


「なんだ?」


「拳闘士の登録を」


 即答した。


 男は、私を上から下までじろりと見て、鼻で笑った。


「……女?」


「そうだけど?」


「無理だな」


 早い。

 一秒も考えてない。


「は? なんで?」


「客が入らねぇ」


 それだけ言って、男は肩をすくめた。


「……は?」


 意味が分からなくて、思わず聞き返す。


「拳闘は興行だ。

 金払って見るのは、血と迫力だ」


 男は、私の体をもう一度見た。


「その細腕で殴り合っても、盛り上がらねぇ」


「——あ?」


 一瞬、拳が出そうになった。


 でも、ここで殴ったら即アウトなのは分かる。


「強さは関係ないってこと?」


「関係ねぇな」


 きっぱり言われた。


「貴族も商人も、見世物として楽しみに来る。

 女の拳闘士なんて、縁起が悪いって嫌がる奴も多い」


 身分。

 偏見。

 そして金。


(……なるほどね)


「つまり、あたしは“売れない”ってこと?」


「そういうことだ」


 男は興味を失ったように、手を振る。


「帰りな」


 横で聞いていたコロンが、慌てて口を挟む。


「で、でも! すぎなさん、すごく強くて……!」


「見たことあるのか?」


「い、いえ……でも……!」


「なら話は終わりだ」


 コロンは、それ以上言えなくなった。


 私は、ふうっと一つ息を吐いた。


「……了解」


 踵を返す。


 悔しくないわけじゃない。

 でも、不思議と冷静だった。


(まぁ……異世界初日で即登録とか、うまくいきすぎだよね)


 ギルドから少し離れたところで、コロンが申し訳なさそうに俯いた。


「す、すみません……」


「なんでコロンが謝るの?」


「僕が……期待させちゃって……」


 私は、ぽんっとコロンの頭に手を置いた。


「いいって。世の中、そんなもん」


 それは、日本でも散々味わってきた。


 才能があっても、女だと舐められる。

 結果を出しても、「女の割に」って言われる。


 リングの上だけが、平等だった。


(……この世界も、似たようなもんか)


 そのとき、コロンがはっと顔を上げた。


「あっ……時間……!」


「?」


「僕の試合、もうすぐ始まります!」


「試合?」


「は、はい! 見習いですけど……一応、正式な試合で……」


 コロンは、少しだけ不安そうに笑った。


「……よかったら、見ていきませんか?」


 一瞬、迷った。


 拳闘士になれなかった。

 登録もできなかった。


 でも。


 ここまで来て、拳を交える世界を見ずに帰るのも癪だ。


「……見る」


 そう答えると、コロンの顔がぱっと明るくなった。


「本当ですか!?」


「うん。あたし、拳を見るの好きだから」


 それは嘘じゃない。


 殴り合いは、言葉より正直だ。

 その人間が、どんな覚悟で立っているか、一発で分かる。


 観客席に案内される途中、私は周囲を見渡した。


 酒を飲みながら笑う男たち。

 賭け札を握る商人。

 貴族らしき人物が、余裕の表情で見下ろしている。


(……なるほど)


 拳闘は、戦いじゃない。

 “見世物”だ。


 コロンが、控え室の前で足を止めた。


「……行ってきます」


「うん」


 小柄な背中。

 細い肩。


 正直、体格だけ見れば不利なのは明らかだった。


 でも——


(……目は、死んでない)


 リングに上がる直前、コロンが振り返る。


「すぎなさん……」


「なに?」


「……見ててください」


 その一言が、胸に引っかかった。


「……あたしが見るなら、ちゃんと戦いな」


 コロンは、力強く頷いた。


 ゴングが鳴る。


 異世界で初めての拳闘が、始まろうとしていた。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ