第2話 パン一個で命拾いしました
※本作は異世界×スポ根×師弟ものです。
拳しか信じてこなかった天才女子ボクサーが、異世界で“教える側”になる物語。
軽めのノリで進みます。
「だ、大丈夫ですか!? 立てます!?」
必死な声だった。
視界が揺れる中、私はなんとか顔を上げる。
「……今ちょっと……空腹で……」
「えっ、じゃあ、これ!」
差し出されたのは、丸いパン。
温かい。
小麦の匂い。
正直、神に見えた。
「……いいの?」
「はい!」
遠慮なく受け取って、かぶりつく。
——うまい。
「……生き返る……」
少年が、ほっとした顔をした。
「よかった……」
年下。
小柄。
目が大きくて、人懐こい。
(……子犬だ)
「すぎな。万丈すぎな」
「コロンです。コロン・エルフィード」
丁寧に頭を下げる。
「コロン。助かった、ありがとう」
改めて周囲を見る。
「……ここ、どこ?」
「王都です」
「国は?」
「リューネ王国です」
「……はい、完全に異世界」
コロンは「?」って顔をしたけど、深くは突っ込まなかった。
素直だ。
「その……すぎなさん、その格好……」
「仕事着」
「……え?」
「拳で殴り合う仕事」
一瞬、沈黙。
「……拳闘士ですか!?」
目を輝かせるコロン。
「拳闘士?」
「はい! 僕も……見習いです!」
胸が高鳴る。
「ねえコロン。その拳闘士、どうやったらなれるの?」
コロンは、少し言いづらそうに視線を逸らした。
「……正直に言うと……女の人は、雇われにくいです」
「規則?」
「いえ……その……」
言葉を選びながら、コロンは続ける。
「拳闘って、興行なので……
お客さんが“見たい”って思わないと……」
ああ、なるほど。
身分差別。
偏見。
そして、金。
「……つまり、客が呼べないと思われてるわけね」
コロンは、申し訳なさそうに頷いた。
納得はしてない。
でも、理解はできた。
「……ま、世知辛いね」
そのとき、鐘の音が鳴る。
「あっ……僕、試合です!」
「試合?」
「はい、拳闘士の!」
胸が、どくんと鳴った。
「……ねえ、その試合、見ていい?」
コロンの顔が、ぱっと明るくなる。
「はい! ぜひ!」
こうして私は、
異世界で初めての“拳闘”を見ることになった。
——それが、私の人生を変えるとも知らずに。
(つづく)




