『勇者』
剣を握る手が微かに震えていた。
恐怖、なのか_。
それは自分でも分からなかった。
「勇者様?」
呼ばれてようやく意識が戻った。仲間の視線が俺に集まっていた。
「…練習はもう辞めよう。今日は解散だ」
「かしこまりました」
そこにいた全員が頭を下げた。
期待に満ちた顔が俺を『亡き父親』に縛り付けてくる。
俺には未練なんてとうになくなっている。あの人は俺を捨てて、魔王を悪だと言って殺しに行ったんだ。
「はぁ。俺は一体なんのために剣を握っているんだ…」
勇者なんてなった覚えもない。
「では私のために戦ってください」
「は?誰だ?」
澄んだ美しい声がした。
桃髪の女はにこりと微笑むと、ドレスの裾を持ち上げた。
「勇者様の手足である魔術師のサラでございます」
「…きれい、だな」
この女を見ていると心臓がどうにかなってしまいそうだ。この感覚は何なんだ。胸が焦がれるほど痛い。
「魔術師と言ったか。魔族との戦いにも出るのか?」
「はい。勇者様のお役に」
「その『勇者様』というのは辞めてくれないか。その、君には名前で呼んでほしい、のだ…」
サラは一瞬だけ驚いた顔をした。だが、すぐにあの笑顔に戻った。
「分かりました、レオン様」
「っ」
「!レオン様、どうされたのですか?どこが体調が優れないのでしょうか?」
「い、いや。大丈夫だ」
なぜこうも胸の高鳴りが抑えられないのだ。
もしかして俺は_この人が好きなのか。
『緊急通達。勇者様一行は至急、王宮へと_』
「行かなければなりませんね」
「そうだな。行ってくる。……サラ、俺にお前のことを守らせてくれ」
「ふふっ。勿論です。私のたった一人の勇者様」




