人間の目的
屋敷の大広間には重い空気が漂っていた。シンプルなシャンデリアに灯された炎が揺れている。
円卓を囲むのはゴブリンとオークを抜かした八種族の代表者たち。
「こっちに向かって人間の小隊が近づいてるよ」
吸血鬼代表のヴァネッサが書類を机に投げた。紙束が音を立てて広がった。
それをリッチ代表のザラヴェが手に取った。
「数は50か。どうやら偵察に来たようだな」
「今はどの位置にいるの?」
天使代表のメイファが震えた声で言った。その横では悪魔代表のドルバが椅子の背もたれに寄りかかってふんぞり返っていた。
「君たちが住む森からだいたい60キロ離れている所」
「祝福の森ですか…」
祝福の森というのは、エルフと天使の住む森のこと。あそこが人間の住む土地から一番近い。
セリスがボソッと呟いた。
「結界は貼ってあるとは言え、この四年で人間がそれほど進化したか分からないままでは」
「ふんっ。どうってことねぇだろ?たかが四年だぞ。人間なんぞ老いるばかりさ」
「ドルバ、軽口を叩いている場合では無いのだ」
ケンタウロス代表のドトノアがドルバを睨みつけた。
「チッ」
「話は戻りますが、60キロですと約3日でこちらに到着するでしょう。対策を練らなければなりません。たとえ、偵察だとしても武力を持ち合わせているでしょう」
「ということは、全滅させるってことか」
デュラハン代表のガラハドとドラゴニュート代表のドレイクがそう言った。
「…………四年前と同じだなぁ」
「「「「「「……………………」」」」」」
ドルバの声にみんなが気まずそうに下をむいた。
あの日の記憶が全員の頭をよぎった。幼かったあたしでも少しは覚えている。
残虐に殺されたみんなの叫び声と大切な人を亡くした悲鳴が。そして、パパとママを殺された日_。
重い沈黙の中、最初に口を開いたのはメイファだった。
「目的は何でしょうか?」
「言いにくいんだけどさ…」
ヴァネッサがチラッとあたしを見てきた。
「いいよ。続けて」
「魔族の殲滅だよ。人間は四年前に行方不明になった『勇者』に酷く執着してる」
「それって」
「そう_先代の魔王様‐リリスちゃんのお父様に殺された勇者のこと。人間は勇者の遺体が発見されないから、まだ魔族側が生かして地下牢に入れているって考えてるらしいわ」
「っ馬鹿な!」
ドレイクが椅子を倒して立ち上がる。その顔は怒りに飲み込まれていた。
「一つ言いたい事があるの」
ヴァネッサがすっと手を上げた。
「たったの四年間じゃない。人間にとっては四年間も、よ。しかも、武器も発達していた。弓矢や剣以外にも『銃』と呼ばれる弾丸を飛ばす武器に、戦争用の魔術も存在していた。…人間の文明はとっくにアタシたちを追い越しているわ」
みんながあたしを見てる。
「魔王様、命令をしてください」
どうすればいいの。
_ううん、やることは決まってる。だから大丈夫。あたしはもう逃げない。
「迎え撃とう。みんなを守るために」
「「「「「「「「仰せのままに」」」」」」」」




