麺龍
濃厚豚骨ラーメンストーリー、お待ち!
長きに渡り修行を続けてき半助はついに一人前のラーメン屋のマスターとして、自身の店を持つ事が許された。
『ラーメンが好き』という単純だが諦めない思いを持ち続け、どんなに厳しい修行にも耐えてきたのだ。
紅いTシャツの背中部分に書かれてある店名である『麺一』の名に劣らぬ精神力を胸に、半助は今、新しい自身の店でラーメンを振る舞う資格を手に入れる事が出来た。
「店長……これまで自分を育ててくれて、どうも……ありがとうございましたあ‼」
「志を持ち続けて思い通りにならない時でも、決して歪まずひたすらラーメン作りのみに専念してきたからこそ、麺の星を掴む事が出来たんだ」
「店長の……おかげです」
「独り立ちする事というは、店の看板を背負うという事だ。
店を背負う役割を持つという事」
店長の言葉には重みが宿り、半助の内側へズシリ……とのしかかる。
「勿論、背負っていきます!
この『麺一』の名にかけまして」
言葉を曲げるものかと、半助の情熱に満ちた瞳が意志を示している。
そんな半助の気持ちを読み取った店長は彼に歩み寄ると、手に握っている物を差し出した。
目に入ってきたのは小さく、そして虹色に光る楕円形をした物だった。
「店長……これ、まさか……!」
「伝説の『麺龍』の鱗を託す。
一人前の証だ」
「……!」
『麺龍』と云うのはラーメン業を営む実力者を守護する『ラーメンの守り神』である。
店長が半助に託すと決めた物は、まさにその『麺龍』の鱗だ。
ところが半助は首を横に降り、鱗の受け取りを拒否したのだ。
「半助……?」
「その鱗を落とした龍は、店長を選んだんです。
自分は鱗は持たずに、自分が自分の守護神になります」
(こんちきしょうが……分かっちゃいたが、やっぱり受け取らないか)
「鱗を受け取る代わりに、自分が作ったラーメンを振る舞わせて下さい!」
店を旅立つ前に半助が作る別れのラーメンで、鱗の受け取りをチャラにしようという考えだ。
「……ああ、この店で半助が最後に作るラーメン、心から味わおうじゃないか!」
「感謝致します。
厨房、借りますね」
「!」
半助の背後に龍の翼らしき欠片が見え、店長は目を凝らしたが、次に見た半助の姿は普通の青年でしかない。
(……麺龍、かもしれねえ。
だけど、漢が一度差し出した物を、おさめられるか……ってんだ)
半助がラーメンを茹でている隙を見て、店長の手は彼の荷物の中に麺龍の鱗を忍ばせた。
店長の動きに半助付かず、ラーメンの茹で具合を計っている。
(麺の茹で方、様になってんじゃねえか)
カウンター越しに見る弟子の姿に、店長は思わず涙腺が緩んできた。
(ん?)
手の中に手応えを感じた店長が手を開いて見ると、銀色に光る鱗があったのだ。
(さっきの翼、麺龍……やりやがって)
鱗を鱗で返された店長の唇の端が、やんちゃっぽくつり上がる。
店長の動きに半助は気付いていたのだ。
「へいお待ち!」
半助から別れの豚骨ラーメンがテーブルに出され、上りたつ湯気が店長の顔を覆い隠した。
実に美味しそうなラーメンだ。
「ん、いただこう!」
「たあっぷり味わって下さい。
さっきの鱗のお返しに、ね」
少年のように云いながら、半助の視線は荷物の中へと注がれている。
「こんちきしょうが!
粋な事しやがらあ!」
「ラーメンの味も、イタズラ心も譲れませんよ。
似た者マスターですから」
麺龍を背負っているのか、それとも半助自身が麺龍なのか、謎だが分かるのは彼のラーメン未来は先が見えないくらい楽しいモノだという事だ。
豚骨スープとラーメン未来、先が見えないという共通点を見据えて書きました




