中年男と少女の出会い
ゴールデンウィークから3日目。
本日晴れのち曇り、気温18度。
ある騒がしい街の中心に、
1人の中年男が立っていた。
若いわけではないが、
特別年をとっているわけでもない。
背は155cmと普通より低めで、
ベルトの上にどっしりと座っている脂肪、
早くも肌色面積が広くなりつつある頭。
もう髪の毛の無い広い額と
背中や脇にはぐっしょりと汗をかいていて、
垂れてくる汗をハンカチでふき取っている。
男は少しサイズが大きめのスーツを着て、
手には重そうな黒いカバンを持っている。
どこから見ても中年小太りサラリーマン。
建物も人通りも多い街の中心で
その男はうろたえている。
男にはここがどこなのか、
そして何故ここに居るのかがわからない。
勇気を出して周りの人に声をかけても
誰もが無視をして通り過ぎていく。
近くのデパートに取り付けられている
大きな時計が午前10時を告げた。
まずい、遅刻だ。
また課長に怒鳴られる。
男はそう思いあせったが、
まず会社がどこにあるのかがわからない。
まったくこの街はどうなっているんだ。
声をかけたって誰一人反応しない。
人一倍マナーや規則に厳しい男は、
そう思うと腹立たしくなってきた。
人に声をかけられたら普通は止まるだろう。
○○会社の場所だけでも聞ければいいんだ。
そう思って手当たり次第に話しかけるが、
誰も耳を傾けず、素通りしていく。
そのとき、男の後ろから
若そうな少女の声がした。
「おっさん、なにやってんの?」
男がやっと気づいてくれたと後ろを向くと、
体中にアクセサリーをちりばめ、
メイクをしっかりとほどこした
いかにもギャルという感じの少女が立っていた。
声をかけてくれたのはいいが
ギャルにも程があるだろと男は思った。
そんなにスカートを短くしているから
セクハラやら痴漢やらにあうんだ。
疑われるサラリーマンの身にもなってみろ。
それに、そんなに早くからピアス穴を開けて、
体中にジャラジャラしたアクセサリーを散りばめて、
もう少し学生らしい制服の着方をしたらどうだ。
男は突っ込みたいところが多かったが、
今はそんなところじゃないと思った。
「○○会社という会社を探しているんだが、
知らない間に変な所に来ていた。
声をかけても返事をしてくれないし
困っていたところなんだ。
それと、言っておくが
わたしはまだおっさんではない」
男は今の状況を説明して、
とりあえずおっさんだけは否定しておいた。
年をとって見えるのは十分承知だが、
気持ちだけはまだまだおっさんには満たない。
「○○会社ぁ?そんなん知らないし。
てかさ~固いこといわないで
仲良くしようよ。
あたしエリカっていうんだ。
よろしく、おっさん」
おっさんを否定しているというのに、
エリカと名乗る少女は呼び方を変えなかった。
男はこのまま定着する勢いだと思い、
そして自分も慣れてしまいそうだと思った。
「それよりおっさんさ~、
どこ行くか分かってんの?」
エリカと問いに、男はもう一度会社の名を言った。
エリカは少しの間ビックリしたような表情をして、
その後ケラケラと笑い始めた。
エリカの高い笑い声は、
中年男の鼓膜にはあまり優しくなかった。
そしてエリカは笑い終わると、
今度は真顔になって男をまじまじと見つめた。
いきなり大笑いしたと思ったら
真剣な顔で見つめてきてなんなんだ。
男はそう思いながら、エリカの返事を待った。
「あのさ~、おっさん。
落ち着いて聞いてくれっかな?」
エリカは改まったように男に言った。
男は唾を飲み込んで、ゆっくりと頷いた。
「気づいてないっぽいんだけどさ、
おっさん、もう死んでるんだよ」