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勇者の十字架  作者: 凪野 晴
第二章

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第36話 願いを込めて

「ミコト、ちょっと渡したいものがある」


「ん? 何?」


「元の世界に戻れる方法を見つけた。これなんだ」


 クロスはバイカラー・トルマリンを取り出し、ミコトに見せた。


「これが? どういうこと? でも、二色の綺麗な宝石だね」


「このバイカラー・トルマリンを調べてみたんだけど、二点間を瞬間移動できる魔法と相性が良いみたいだ。だから、これに『眠れる宝石』で魔力と想いを込めて、寝かせておけば、次元を超えて向こうの世界に戻れる力が蓄えられると思うんだ」


 その話を聴いていて、ミコトの顔が明るくなっていく。


「ってことは、私が想いを込めて持っていればって、イケるってことかな?」


「ああ、持っていてほしい。想いを込めてほしい。そして、強く輝くようになってから魔法を使えば、元の世界に戻れると思う」


 そう言って、クロスは、ミコトにバイカラー・トルマリンを渡した。ミコトは、しばらく手のひらに置かれたその宝石を見ていた。


「クロス君、……ありがとう。方法を探してくれて。元の世界に戻れる魔法が使えるように、肌身離さず持っておくよ。それに、この国で年頃の娘が宝石を持っていないのは、ちょっと肩身が狭かったんだよねー。その点も助かるね!」


 いつも明るいミコトだったが、人一倍の笑顔を見せてくれた。


 その晩、クロスはこれからの旅に緊張することもなく、ぐっすりと寝られたのだった。


 きっと全てが、なんとかうまくいくはずだ。


 *


 翌朝、四人は馬車に乗り、西のミュートロギアを目指して王都レグナレットを旅立った。秋が深まり、木々の葉が色づいている。馬車が通る街道にも、風に舞って落ち葉が並べられて、絨毯のようになっていた。


 馬車の運転は御者に任せて、四人は思い思いに時間を過ごしていた。ミコトとリーゼは、何やら楽しそうな話をしている。王都で流行っている服の話のようだ。ヴィルヘルムは目を閉じている。だが、寝ているようには見えない。考え事をしているのだろう。

 

 クロスは外の景色を眺めていた。一定のリズムの揺れを感じながら、どうして自分は異世界に転移させられたのだろうと考えていた。だが、確信できる理由は思いつくことができなかった。眠気を誘う揺られるリズムで、昨晩のことを思い出す。

 

 昨晩寝ている時に、クロスもミコトが言っていた病室にいる夢を見たのだった。無機質な天井に、LEDの照明が貼り付いていた。自分の部屋ではなかった。不思議な感覚だった。夢を見ていると自覚しているのに、むしろ夢から覚めてまどろんでいるようにも感じたのだ。だが、起きようとしたら、そこはこっちの世界の寝室。リーゼの屋敷の客室だった。窓から朝日が差し込んでいた。


 *


 五日程度かけて、町や村を経由して、ミュートロギア地方に入った。ミュートロギアは王国の辺境の地ではない。目指すは、異常が報告されたテルミヌスの村。ここまでは、魔物や盗賊に狙われることもなく無難な道のりだった。


「ミュートロギア地方に入ってから、町や村の付近でなくても魔物に遭遇しなかった。……少し変ではないか」


 そうヴィルヘルムは言っていた。


 テルミヌスの村は小さな村で、冒険者ギルドはないと前の街で聞いていた。当初の計画を変更し、冒険者に頼らずに、後から来る予定になっているバーナー家の小隊に万が一の避難は任せることにしたのだった。


 リーゼたちは、夕刻、テルミヌスの村に着くと村長と話をした。厄災と思わしき現象が発生している地へ、道案内を頼むことも考えた。だが、道のりを聞き、四人で調査に行くことにしたのだった。何かあった際、四人の方が連携がとりやすく、うまく動けるからだ。


 その日は村長の屋敷に招かれて、一夜を過ごす。丁寧なもてなしを受けた。当然、リーゼは自分の身分は隠し、王都からの依頼で調査しにきた体裁をとった。もちろん、もてなし以上の寄付を、リーゼとヴィルヘルムは用意していた。



 翌朝、クロスが調査の支度を整えて馬車の側で待っていると、ミコトに声をかけられた。


「おはよう。ねぇ、これで良い感じ?」


 ミコトは、バイカラー・トルマリンを見せてきた。


 同居する二色の輝きは、クロスが購入した時よりも遥かに強く光っていた。光の加減なのか、虹色に輝いているようにも見える。


「ちょっと触れてもいいかい?」


 クロスは断りを入れて、バイカラー・トルマリンに触れた。


「ああ、これで大丈夫だと思う。もともと強い魔力が残存していたからか、ミコトの想いがとても強かったからか、思ったよりも早かったね」


「確認してくれて、ありがとう」


 ミコトは、少し悩んでいる様子だった。


「すぐには使う気になれない?」とクロスは聞いた。


「そうだね。急に帰れる手段が手に入ると、次の悩みが生まれちゃうもんだね。こっちの世界にもそれなりにいたからさ」


 ミコトは、肩を落として軽く息を吐いた。


 クロスはかける言葉が見つからなかった。元の世界に戻るということは、リーゼやヴィルヘルム、そしてこちらの世界の人たちを別れるということだ。


「ミコトの彼氏は、どんな人なんだ?」


 何気なく振った話題だった。ミコトが元気になる話題なら、いいかと思ったのだが。


「おー、聞いちゃう? すごくイイ男だよ」

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