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勇者の十字架  作者: 凪野 晴
第二章

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第35話 暗き予兆

 リーゼの屋敷で、四人揃ってのディナーの時間。シチュー、パン、サラダに果物というメニューを楽しい会話と共に楽しんだ後、リーゼが背筋を伸ばして静かに告げた。


「西の地ミュートロギアで、異変が起きているという報告が入りました」


 ミコトとクロスは、驚いてリーゼの顔を見た。ヴィルヘルムは平然としている。王城に同行していたから、すでに知っていたのだろう。


「どんな異変が起きているの? リーゼ」


 ミコトが真顔で聞く。


「冬場にかけて、草は枯れ、木は葉を落としますが、その地では森の木々が立ち枯れ、崩れ落ちているとのことです。黒い煙のようなものが出ていて、森が少しずつなくなっていっていると」


 リーゼも真剣な眼差しで答えた。


「人の被害は出ているのか?」とクロスも聞く。


「いいえ。まだです。ですが、時間の問題かもしれません。遠方からの観測ではありますが、おそらくある地点を中心にして放射状に広がっているというのです」


「古文書に書かれていた厄災の記述と一致する」


 ヴィルヘルムが腕を組んで言った。


「リーゼ。でも厄災だとしたら、おかしいよね。予言だとまだ一年以上先のはず」


「ええ、そのとおりです。しかし、見過ごせない状況が発生していることには、変わりません」


 リーゼはそう言うと、目を閉じて軽く息を吐いてから、顔を上げて続けた。


「西の地ミュートロギアへ、急ぎ調査に向かいましょう」


「ちょっと待ってくれ。俺たちだけなのか? 近隣の村や街が安全かどうか、確認が必要だ。それに避難をする必要が出てきたら、この人数では全然足りない。騎士団を動かすことはできないのか?」


 クロスは、確認したくて問う。


 リーゼは視線を落とし、首を横に振った。ヴィルヘルムがリーゼの代わり答える。


「国民の安全を考慮した案を、リーゼ様はご提案した。しかし、第一王女派と第二王女派は、地方で起きているよく分からない事象に、騎士団は出せないと揃って反対意見だった。そして、厄災の予言では、まだ一年以上は先だから、国難となる事態ではないと。放置しても良いのではという意見すらあった」


「何それ。予言が正しいか調査しろと言っていたのに、なんでいつの間に予言が絶対正しいってなってるのさ」


 ミコトが、噛みつきそうな勢いで言った。


「女王様はこのことは知っているのか? 国の統治者はどう判断したんだ?」


 クロスは、素直に疑問を口にした。


「女王陛下は知らないでしょう。第一王女派と第二王女派が王位継承のために、そのような面倒ごとを、王城の最深部には持ち込まない……」


 リーゼは、寂しそうな顔を一瞬した。そして、続ける。


「厄災と思わしき事象が発生しているところに向かいます。ただし、厄災に対する対処が分からない現状、取れる手段は限られています」


 クロスは思う。この人こそ、女王に相応しいのでは。リーゼは国民のことを真剣に考えていると感じた。


「王都で人を雇うことも考えましたが、それでは迅速な対応が難しいと考えます。なので、被害が出そうな近隣の町や村で、ギルドにて冒険者を雇おうと思います。彼らにやってもらうのは、その町や村からの住民の避難誘導。そして、さらにそこから隣の村などへの行ってもらい、避難勧告の連絡です。もちろん万が一の時の初動です」

 

 クロスは、その方法に納得したが、疑問を口にする。


「これから冬にさしかかって、寒くなるんだろう。西の地方は北よりはましだけれど、避難のために街から街へは、きついのでは?」


 旅に適した季節では、なくなってきている。


「状況しだいですが、あくまで厄災から離れるように、ひとつ隣の町や村へ避難してもらうような形にします。追って、必要な物資が届くようにします。これはバーナー家に委託しました」


「すでに準備を進めるように、手配してある」


 ヴィルヘルム・バーナーは、自信を持った顔つきで腕組みをしたまま答える。


「ギルドを利用して避難させるにしても、どうやって村人たちの信頼を得るんだ?」


 クロスは単純に気になった。雇われた冒険者から避難しろと言われても、簡単には応じないのではないか。そこでの生活があるわけだし。


「はい。そこはうまくいくかはわかりませんが、対応として王家の印章を押した手紙を雇った冒険者に持たせようと思います。それを町長や村長に渡して信じてもらいます」


「避難については、なんとかなりそうだね。でも、肝心の厄災のような現象に対しては、どうしたらいいんだろう?」


 ミコトが、重要な点に話を向けた。


「まずは調査になるだろうな。どんな現象が起きているか見極めないと」


 クロスの意見に、ミコトもヴィルヘルムもうなづく。


「問題は、厄災が本物だった時だな。何をもって本物か見定めるのかはわからないけれど、厄災を退けるには勇者の力が必要と古文書にはあったんだよな……」


 クロスの話を継いで、リーゼが口を開く。


「そうです。勇者と呼ばれる人物が現れたという話は、噂もないです。他国に現れているかもしれませんが、今はそれを調べる余裕はありません」


「予言よりも早く、厄災と思わしき現象が起きていることも気になる」


 ヴィルヘルムは、顎に手を当てて言った。


「『腐食』、『崩壊』、『空虚』だっけ。あと不明なのもあるんだよね」


 ミコトは、下唇に右手人差し指をあてて、思い出すように言った。


「ここで話をしていても見極めることはできないでしょう。各自、旅の準備をお願いします。明朝、発つのでも大丈夫ですか?」


 三人とも、うなづいた。

 

 それぞれは、食事の席から立つと部屋へ戻ろうとする。そこで、クロスはミコトに声をかけた。

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