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勇者の十字架  作者: 凪野 晴
第二章

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第32話 淑女の宝石

 元の世界へ帰る方法。クロスは、その方法が検討もつかなかった。けれど、クロスは観たり読んだりしてきた異世界転生の物語の中から、可能性があるものをミコトに教えた。


 希望を持ってほしかった。今、少しでもミコトの心を楽にしてあげたかった。彼女はそういった物語には馴染みがなかったらしく、興味深く聴いてくれた。


 異世界から戻ってきてベッドで目覚めるところから始まるコメディタッチの作品の話をした時だった。


「私さ、寝ている時に、無機質な天井が見えて、ベッドから起き上がって、自分は病室にいるんだってなって自覚する夢を見ることが多いんだ」


「それは何だか不思議だね。向こうの世界の病室ってこと?」


「うん。病室だね。起き上がるとベッドの横にパイプ椅子があって、そこに誰かがさっきまで座っていたんだって、なぜかわかるの」


 クロスには、夢の内容は検討もつかなかった。


「そんな夢を見ることある?」


 ミコトは、同じ様に向こうの世界の夢を見ることがあるのか聞きたいようだ。


「ごめん。俺はあんまり夢を見ないというか、……覚えてないな」


 クロスの言葉を聞き、ミコトは肩を少し落とした。


 そのタイミングで、ドアをノックする音が聞こえた。クロスはドアへ近づき、「はい。どうぞ」と開ける。


 目の前に、リーゼが立っていた。今日は亜麻色の髪をおろしている。髪飾りをつけていて、服装は茶色でチェック柄のワンピースに乳白色のカーディガンを羽織っている。


 冒険者の服装に見慣れていたクロスは、いつも以上に上品で魅力的なリーゼの姿に見惚れてしまった。


「あ、リーゼ、おかえり。お城はどうだった?」


 ミコトの声で我に帰ったクロスは、リーゼを部屋に招き入れた。


「厄災の調査については中間報告をしてきました。もっとも、大した成果はなかったのですから、第二王女派のおじさんたちに嫌味を言われました」


 そう言って、リーゼは口元を膨らませる。


 ミコトの前では、普通の女の子のようだ。ミコトも、それがわかっているようで、笑い飛ばす。


「何か新しい情報はあった?」


 ミコトの問いに、リーゼは首を横に振る。


「まぁ、でも、無事に生還して見せたから、内心ヒヤヒヤしているんじゃない? 第二王女派のおじさんたち」とミコトは元気づける。


「実際ヒヤヒヤしていたと思いますよ。ヴィルヘルムがずっと睨んでましたから」


 ミコトは声をあげて笑った。


「そういえば、一旦、王都に戻る理由が三つあるって言ってたよね、リーゼ」


「はい。今、その三つ目をしようとここに来ました」


 そう言うと、リーゼは手に持っていた小さな鞄の中から、何かを掴むとテーブルにひとつずつ丁寧に並べた。ルビーの指輪、アメジストの指輪、ムーンストーンの首飾り、アイオライトの髪飾りだった。


「クロスに力をもっと発揮してもらうには、必要だと思って……」


 それを見ていたミコトはニヤつきながら、「この宝石をどうするの?」と聞いた。


「そ、そのクロスに、お貸ししようと思って……」


 リーゼはそこまで言うと、うつむいた。おろしている亜麻色の髪で顔が良く見えない。


 ミコトが何だか楽しそうだけど、クロスには理由がわからない。でも、宝石を貸してもらえるなら、『眠れる宝石』が使える。四つも一気にだ。


「リーゼさん、ありがとう。喜んでお借りします。大切にします」


 それを聞いて、リーゼは思わずクロスに背を向けた。ミコトは、ものすごくニヤニヤしている。


「良かったね、クロス君。これで存分にスキルを使えて、パーティの戦力も上がりそう」


「本当に。リーゼさん、助かるよ」


 それを聞いたミコトが、クロスに背を向けているリーゼの顔を覗く。ミコトはすごくご機嫌だった。


「あ、そうだ。クロス君さ、ここにいる間にリーゼから魔法を教わるといいと思うよ」


「ん? どういうこと?」


「この世界では、人は皆、魔力を持っている。使い方を学べば、基本的な魔法は使えるはずなんだ。魔法の基礎を学べば、『眠れる宝石』にも応用が効くと思う。教えてもらって、損はしないはずだよ」


 そう言っているミコトの顔は、ものすごく楽しそうだ。


「ね、リーゼ、いいよね?」


「は、はい。……あの、では、明日からで、いいですか?」とリーゼは応える。


 でも、彼女はなんだかクロスの顔をまともに見てくれない。


「ぜひ、お願いしたいよ。リーゼさんは魔法が得意だし」


 ミコトはニヤニヤしっぱなしだし、リーゼはお淑やかすぎるし、クロスはなんだか落ち着かなくなってきた。


「それでは、また後で」


 そう言い残して、リーゼはそそくさと談話室から去ってしまった。


「じゃ、私もー」


 ミコトはとても満足したようで、上機嫌に部屋を去っていった。

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