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勇者の十字架  作者: 凪野 晴
第二章

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第24話 誘拐

 クロスは、誰かの声が遠くから響いてくるのを聞いていた。


 その声はしだいに近く大きくなり、自分の名を読んでいるのだと気づいた。慌てて目を開ける。ぼんやりとした視界がゆっくりとはっきりしてくる。知らない天井が見えた。どこにいるのか、わからなかった。


 その天井をさえぎる様に、ミコトの顔が現れた。


「あ、やっと起きた。大丈夫? いきなりテーブルに突っ伏して気を失ってたよ」


「……ここは?」


「酒場近くの宿屋だ。わしがお前さんを担いで運んできた」とヴィルヘルム。


「あの、すいません。ご迷惑をおかけしました。えっと、それから、リーゼさんは?」


「酒場での支払いをしているはず。もう少ししたら来ると思うよ」


 ミコトが告げた。だが、ヴィルヘルムは少し険しい顔をして、ミコトに言う。


「ちょっと見てきてもらえるか?」


 彼女も何かを察したのだろう。無言でうなづくと、すぐに出ていく。弓と剣を忘れずに身につけて出ていった。クロスが預けていた剣は、部屋の入口付近の壁に立てかけられている。


 クロスは、ベッドから起き上がるとヴィルヘルムの顔を見た。彼は深刻そうな顔をしている。一体何を心配しているのだろうか。


 だが、クロスは自分自身のことも気になった。『眠れる宝石』を使ったが、加減がわからずに、こうなってしまったような気がする。スキルを上手く宝石に使うことができたのだろうか。初めてなので、心配だった。


 リーゼの翡翠に触れた右手の人差し指を見る。あの翡翠と同じ色で光る糸のような線が、指先から伸びていた。


 クロスは直感的に、『スキルを使用した宝石の場所がわかる』のだなと理解した。うまくスキルが使えた実感がわいた。そして、止まっていた翡翠の位置が急に動き出したことを感じた。


 外で誰かが、大声をあげた。ヴィルヘルムが急ぎ部屋の窓を開け、確認する。


「ヴィルヘルムっ!! コード、九・一!!」


 声の主は、ミコトだった。それを聞いた、ヴィルヘルムは両手剣を手に取り、部屋を飛び出した。


 何が起きているかはわからなかったが、クロスも慌ててベッドから降り、立ち上がる。自分の剣を拾おうとしたが、思った以上に重くて掴み損なうところだった。急いで、彼の後を追う。


 外に出ると、ミコトが弓を構えて、矢を放った。酒場近くに停めてあった馬車を狙ったらしいが、矢が届く前に馬車が走り出してしまった。


「リーゼが、さらわれた」


 ミコトが馬車を睨みながら、一言告げた。すると、ヴィルヘルムが急にクロスの胸ぐらを掴んで叫んだ。


「貴様も奴らの手先か? リーゼ様はどこに連れて行かれる?」と凄んだ。

 

 ヴィルヘルムの顔は怒りに満ちていた。クロスは、まったく状況がわからなかった。


「クロス君は、おそらく関係ないよ。でも、こちらにとって最悪の状況を招くのに利用された」


 ミコトが冷たく鋭く言った。その言葉を聞き、ヴィルヘルムも冷静さを取り戻した様だ。クロスの胸ぐらを掴む力が弱まった。


「仕事の報酬を受け取っての酒場での一杯。油断しやすいところに、クロス殿の件か。もっと周囲に注意を払うべきだったか」


「ええ。普段の私たちなら、二人のどちらかはリーゼの元を離れるなんてしない。いつものその基本動作で防いでいる。今日は例外よ。リーゼを一人にしてしまった。奴らに千載一遇の機会を与えてしまった」


 ミコトは、クロスに落ち着いた声で言っていた。でも、彼女の手が震えているのがわかる。


「リーゼは命を狙われているの。そして、たった今さらわれた。……最悪の状況」


 クロスは、細かいことはわからないが、やっと状況を理解した。リーゼをさらっていった馬車を追わないといけないのだ。


 だが、夜もふけた時間だ。こちらも馬車に追いつく移動手段を手に入れなくては。


「どうする? いまから宿屋で急ぎ馬を借りてきても見失う」とヴィルヘルム。


「わかってる。今考えてる!」


 ミコトも真剣な顔で返した。


 クロスは、美しくて優しい顔をしたリーゼを思い出す。ミコトら二人に特別扱いされているのは、会話や行動からなんとなく理解していた。


 リーゼは、クロスの突拍子もない話を受け入れて、宝石を見せてくれた。洞窟でも命の危機を救ってくれた。彼女を助けたい。心配している二人の元に取り戻してあげたい。上手くいくかわからないけれど、自分なら今のこの最悪の状況をひっくり返せるかもしれない。


 クロスは、深呼吸をした。決意を固める。


「ミコトさん、宿屋で馬を借りてきてください。二人は乗馬が得意ですか? 俺は無理なのですが、二人のどちらかに乗せてください。リーゼさんの居場所を追跡する手段はあります」


 その言葉に、ミコトとヴィルヘルムは驚き、クロスを見つめた。


「私たちは馬には慣れているけれど、どうやってリーゼの場所がわかるの?」


 クロスは、スキルのことを秘密にしておく理由なんてないと思った。リーゼの命がかかっているんだ。


「異世界転移者にはスキルが与えられます。俺のスキルは宝石に関するもの。触れて魔法を込めた宝石なら、どこにあるか位置がわかります。リーゼさんの翡翠には、彼女を守って欲しいという願いがかけられていました。その想いが自動的に発動するように、俺は魔法を込めました。リーゼさんは誘拐されましたが、翡翠が守ってくれます」


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