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勇者の十字架  作者: 凪野 晴
第一章

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第18話 新人配属

 七月に入った。


「おはようございます!」と元気な若い男性の声が、さびれた事務所内に響く。


 今日から配属になった新人だ。天道院蓮てんどういんれんが転生・転移管理事務所の職員に就職した。クロスの誘いを受けた形だ。三ヶ月間は試用期間として、見習い職員となる。


 自分が立ち上げた会社は、後任に譲ってきたそうだ。彼の思い切った決断に、カタリナは驚いた。


 なんでも上場はしていないので株はしっかりと持っているとのこと。会社が傾きそうになったら、その発言権を駆使するつもりだそうだ。しっかりしているなと、カタリナは感心した。


「カタリナさん、レン君に業務の概要を教えておいて。俺はちょっと会議が立て込んでてさ。よろしく」


 あっさりと無茶振りするクロスに唖然としたが、レンの期待した視線を感じ、ため息は出さすに飲み込んだ。


「えっと、では十時まではいろいろ業務の概要を説明するね。その後は、私が行う異世界転生申請の審査結果面接を横で見てもらおうかな」


 すっかり慣れたと思っていた仕事だ。でも、いざ他人に教えることになると、思っていたほど簡単ではなかった。


 いや、きちんと説明をしているのだが、レンの質問が鋭いのだ。きちんと重要なポイントを深掘りしてくる。さすがだなと思った。


 その日は審査結果の面接と合格者との面接を見学させて、現場のトレーニングは完了した。半年くらい前にクロスにしてもらったことを思い出す。


「たぶん、明日からでも面接官できると思います。採用面接とかやってましたし」


 レンはあっさりと自信を見せてきた。カタリナは、クロスにそのことを報告した。


「じゃ、明日からお願いしよう。カタリナさんには一応、レン君のフォローをお願いしてもいいかな」


 *


 翌日、レンの面接官としての優秀なパフォーマンスを横で見ていると、クロスが面接の合間に二人に告げた。


「七月七日の午後は、三人で会議にしよう。いつも午後に行なっている合格者への案内は、その日は無しにするようにAIに調整してもらった」


「はい。わかりました。でも何の会議なんですか?」


 カタリナが聞く。


「出張の話」


 一言でクロスの返答は終わってしまった。


 レンは、有言実行できちんと業務をこなしていった。カタリナは、伝え損なっていた細かなことをフォローするくらいで済んだ。きっと明日からは任せてしまっても、大丈夫そうだ。


 次の日は、カタリナとレンはそれぞれ面接業務をこなしていった。一人増えたことで、思った以上に仕事は捗り、午後三時くらいには、本日の業務は完了するくらいになった。


 残った時間を有効に使いたいらしく、クロスがレンに告げた。


「君の過去二回の申請で不合格だった理由を、教えようか?」


「ぜひ、お願いします」


 レンは驚いていたが、即答していた。


「カタリナさん、スコアの仕組みをレン君に教えてあげて、それを理解していないと、不合格の理由もよくわからない話になってしまうから」


 クロスでも説明はできるだろうけれど、カタリナ自身の成長を促す意図なのだろうなと感じ、説明を引き受ける。


「スコアというのは、異世界転生の合否に使われる数字です。個人に紐づくものですね。受験のテスト点数、成績みたいなものを想像してください」


 レンは、カタリナの顔をしっかりと見て話を聞いている。


「スコアは、スペックという個人の能力を評価した数字とグレードという係数の掛け算で算出されます。そこに多少の補正が入ります。スペックとして考慮されるのは、身体的能力、学業の成績、思考能力やコミュニケーション能力などになります。個人の才能を、評価しているものになります」


「グレードというのは?」


「地位、名声、評判、家柄といった社会における認められ具合を数字にしたものです」


「なるほど。つまり本人の能力が高く、かつ社会的に認められているとスコアが高くなるわけですね。ぼくのスコアはどうだったかわからないけれど、スペックとグレードによるスコアで人のランキングみたいなものを作っているわけですね」


 カタリナは、レンの理解の早さに驚く。彼は続けた。


「異世界転生の審査で、人々の能力や社会的立場をスコアを使う理由は何だろうな。ん? ああ、そうか。異世界へ行かせたくない人を選別するためか。こっちの世界で有用な人は、社会的に認められているし、本人自身の能力も高いだろうということか。優秀な人を異世界に渡したくないって、政治的な思惑がありそうですね。合ってます?」


 カタリナは、レンの思考の早さにさらに驚く。


「……う、うん。そうだよ」とかろうじて答える。


 レンはその答えに満足したようだが、すぐさま、意見というか思考を続ける。


「上位の人をきっと不合格にする仕組みなのだと思います。なんだか違和感がありますね。ああ、そうか。上位は不合格って仕組みを変に感じるのは、ぼくが受験とか資格試験の感覚で捉えているからか。論理的には矛盾はないし」


 カタリナはレンの推測の精確さにまた驚く。それから、思考や感覚の補正も素早い。


 横で聞いていた、クロスがレンに問いかけた。


「君だったら、合否はどんな仕組みにする?」


 クロスの問いかけに刺激されたのか、レンからは喜びの黄色と好奇心の緑が見える。

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