第5話
日も暮れて、指示のあった打ち合わせの時間が近づいてきた。
ここ最近急に使用頻度が増えたスニーカーを履き、ママに声をかける。
「ママー! またちょっと出かけてくるー!」
「え、こんな時間から? 夕食はいるの?」
「たぶんいらないー」
「えー。もう準備始めちゃったのに……今度からもっと早く言いなさいよー」
不満そうな母親を横目に、家を出る。
場所はまたしても秋葉原で、今度は雑居ビルの4階にある事務所とのこと。
なぜ前回は事務所じゃなかったのか謎である。
と、そんなことを思いながら歩いているとそのビルに到着。
……で、どこから入ればいいんだろう。
正面口には別のショップが入居していて、入り口が見当たらない。
「……ここか」
建物の周辺を数秒うろうろして、横にある階段から行けることがわかった。
入り口付近にはビルに入居している複数の企業の郵便受けがあり、一部は手紙が散乱したまま放置されている。
そこに書いてある入居者の中にしっかり『4F リーベカラット(株)』とあり、少し安心した。
階段を登り、恐る恐る事務所のドアノブを握る。
……緊張するなぁ。怒られるのかな。絶対怒られるよな……。
そんな気持ち&材質のせいでやたら重い扉をゆっくりと開ける。
すると中にはパソコン機材に囲まれた松下さんと社長、それから知らない女の人が2人いた。奥には数人のスタッフ。
何か話している様子で、邪魔になるのではないかと不安になりながら声をかける。
「こ、こんにちは〜。早川です〜」
「あ、りりあちゃん!」
「え、あ、はい! りりあです!」
松下さんに『りりあちゃん』と呼ばれて、普段からVtuber名で呼ばなければならないと言われていたことを思い出す。
そういえば昨日も放送中なのに『松下さん』って呼んじゃったな。
それも含めて即刻謝罪しなければ。
「あ、あの初配信は、あの、ああいうことになってすいませんでした!」
松下さん、それから社長に頭を下げる。
すると答えてくれたのは社長だった。
「いやいや、りりあちゃんは気にしなくていいっすよ。ほら、これ見て欲しいんだけど〜、マ、要するに件の放送事故がちょっと話題になってるのですよぉ」
「そうそう、りりあちゃんは今後気を付けてくれれば良いから」
松下さんもフォローに回ってくれる。や、やさしい世界……。
……ま、まあ結果出てますからね! あれで登録者増えてるわけですから。
みんな気にしてないみたいだし、私が気にしすぎだったのかもしれない!
「すいません、ありがとうございま……」
「え、それで終わりですか」
──やさしい世界に鋭い声が刺さる。
言ったのは知らない女性2人のうち、髪が長く真面目そうな雰囲気のお姉さんだ。
やっぱり怒られるのか……!?
「話題になって良かったとか結果論ですよね。ちなみとか放送中に本名言われてるんでしょ? 普通に洒落になってないと思うけど」
なんやコイツめっちゃ私に言ってくるやん。誰やねん貴様。
……あと、ちなみに『ちなみ』というのは松下さんのVtuber名『道惹ちなみ』のことだ。ちなみにね。
それはそうと、お姉さんの怒りが止まらない。今度は私に直接牙を剥いてきた。
「え、私りりあちゃんのこと言ってるんだけど。聞いてる?」
「えあっ、ぅ、そ、それは……」
私が答えに詰まっていると、
「ッスゥまあまあ、初めてだからね、しょうがないね。最初は誰でもそういうもんですから」
社長はギスギスが苦手なのか、ややおちゃらけた雰囲気でお姉さんをなだめた。
いいぞ社長! もっと私を擁護して!
さあどうするお姉さん、こっちには社長が着いとるんやぞ!(人間のクズ)
「……。ま、私関係ないのでみなさんが良いなら別に良いですけど」
なんか全然良くなさそうな口ぶりだけど、一応納得したらしい。
一件落着、なのか?
少し気まずい間があった後、気を取り直した様子で社長が話だす。
「ま、まあまあ、そういうことなので、りりあちゃんも今後はつけてもろて。はい、この話はこれで一旦終わりで! それじゃ、今日の本題に入ります。今日はね、現在の『らぶりあ!』のメンバーの顔合わせをしようと思っとるわけですよぉ」
顔合わせ。だから知らない女性が2人いるらしい。
社長は話を続ける。
「んでぇ、まず新人のりりあちゃんとあいすちゃんに一期生の先輩2人を紹介! んじゃ、道引ちなみちゃんからどうぞ!」
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