第2話
そう。これはダメダメな私が、ひょんなことから大手Vtuber事務所に所属し、伝説を生む物語だ……
……そのはずだったんだけど。
あれから数日、書類選考の合格通知が来ない。
書類は有名事務所から無名事務所まで、何ヶ所か送った。
しかし今のところどこの事務所からも連絡が来ないor不合格通知 しかない。
今日が合否の期限なので、さっきからずっとメールの更新ボタンを押している。
これはつまり──先方のミスかな。
困るなぁ、社会人はきちんとやってくれないと。
そんなふうに画面とにらめっこしていると、一つだけ『一次選考通過』すなわち合格と書かれたメールが目に入った。
送り元は……VTuberグループ『らぶりあ!』を運営する株式会社リーベカラット。
まぁ、底辺事務所だ。
とはいえ、ようやく一つ目の合格。
ここから大手事務所まで一気に行くぞ!
待ってろよ、YAGOO!
- - - - -
結局通過したのは、『らぶりあ!』だけだった。
うん……まあ、書類だけで私の魅力に気づくのは難しいか。
結局私が得意なのはアドリブ感? ライブ感? だしね!
合格の『らぶりあ!』の方はというと、今度対面での面接があるとのことだった。
正直外に出るのは久しぶりなので勇気がいる。
でも面接は喋りが売り(?)の私の得意分野だもん! これはいける!
- - - - -
そして迎えた面接当日。
急に出かけると言い出した私をママが心配していたが、私はもう大人だ(22歳)。
あのあとメールからLINEに誘導され、そこで詳細な場所などが伝えられた。
それに従い、秋葉原駅で降りる。
「えーと、面接場所は……」
指示された住所を見ながら歩く。
そしてたどり着いたのは……ん?
──そこにあったのは、マクドナルドだった。
「ん? んんん?」
マックで面接ってこと? そんなわけある?
しかしそのときLINEで「申し訳ありません、少し遅れます。お伝えした場所でお待ちください」と送られてきた。
仕方ないので、適当にSサイズのジュースを買って席に座る。
うーん、なんだかなぁ。
しばらく窓の外を眺めていて、はたと気づく。
……ちょっと待って。
これ、『闇バイト』なのでは?
今話題の、ネット上で仕事の募集をうたって人をおびき寄せて、脅して犯罪に加担させるっていう……。
そう考えたら、それしかないような気がしてきた。
だっておかしいじゃん。
この前はテンションが高い日だった(社不特有の躁鬱)から「私ならVtuber余裕」とか言ってたけど、冷静に考えたら引きこもりで大した実績もないし、普通は書類選考受かるわけないし!
やややばいこのままじゃ私犯罪者に……!?
そのとき、後ろから声をかけられた。
「あのー、すいません。早川あやせさんですか?」
「ひ、ひいいぃぃぃぃ! ぁ、いや、違……す、すみません私そんなつもりじゃなくてぇ! 許してくださいぃ何でもしますから!」
「え? あの……すいません、早川さんですよね?」
「えぁ? あ、あの」
恐ろしくて閉じた目を開くと、目の前にいたのは落ち着いた感じの優しそうなお姉さんだった。
ということは……
え、もしかしてこれ闇バイトではない?(ジェンダーバイアス)
「あ、えぇと。私が早川あやせで合ってます……」
「ああ、よかったー! 本当遅れてすみません。社長ももうすぐ着きますから」
お姉さんはカバンを下ろし、私の向かいに座る。
「あ、私は『らぶりあ!』でライバーをやっている道惹ちなみです! よろしくね!」
「ぁ、よろしくお願いしますぅ……」
道惹さんは落ち着いた感じの私服で、大人な雰囲気。
彼女はどうやら先輩のVTuberみたいだ。
下調べが甘いせいで、『道惹』がVTuber名なのか本名なのか謎である。
このあと社長が来るらしい。
「……。」
──少し気まずい間があって、社長らしき人がやってきた。
「遅れてすんませーん! 社長の星野です〜」
Tシャツの上からジャケットを着た格好で、老けた大学生みたいな雰囲気のオッサンだ。
私たちの方に小走りで来て、松下さんの横に座る。
「ッえーでは、面接をはじめます。まず、僕らの自己紹介からでぇ。えーとまず僕の横にいるのが松下さん……あ、ごめん本名言っちゃった」
おい、何してんねん。
「……社長、気を付けてください」
道惹改め松下さん(本名)はそう注意する。
でも普段からそう呼ばれているのか、大して気にしていない様子だ。
社長は話を続ける。
「ま、気を取り直してこの子はうちのライバーで、今回みたいに手伝ってもらうこともある感じです、でぇー、僕が株式会社リーベカラットの社長をやってる星野です。よろしくお願いします早川さん」
「あ。よ、よろしくお願いしましゅ」
緊張のあまり私は噛んだ。
あとこの社長、すごい早口なんだけど。
「えー、でまあリーベカラットは僕が大学いるとき作ったベンチャー企業みたいな感じなんだけどぉ、まあ2018年くらいかな? そんでまぁ、これからの時代ブロックチェーンとかメタバースとか、そういう技術のデカい波が絶対来るって思ったわけですよ。そういうコンセプトで、まあAR Kitとかってわかる? まあそれとかでUnity使ってアプリ開発とかやってたんだけどぉ、まあいつの間にかVTuber事業にも参入してなぜか今はそっちがメイン事業みたいな? 感じです(笑)」
「な、なるほどぉ」
なんか言ってるけどなに言ってるかわからん。
松下さんの方を見るけど、慣れた様子で聞き流している。
にしても胡散くせえな、この社長……。
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