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狭い雷撃機のコクピットの中で、空調の音が静かに流れていた。おかしい、さっきから、通信を試みているが、応答がない、向こうの回線は解放になっていて、受信は間違いない、しかも電探では、こちらの位置がはっきり映っているはずだ。中々用心深い艦長だ、何度か同一同位置になるほど接近を試みた。だが、迂闊に近づけば賊、仇や残党の類に誤認され攻撃される恐れもある、数回で断念した。なんといっても、あの大型戦艦、我が父の艦を沈めたのだから、どのような、兵法を巡らせているか分からない、ある程度距離を取り追尾する他、方法は無い様だ。真後ろについてスリップストリームをかけているので、デスドライブオンされても次空牽引作用で、この戦闘艦に何とかついていく事ができるだろう。何回かの長距離航法を経た後、コース予測通り、直近の惑星に向かっていた、何基も伸びている軌道エレベータの一基に、戦闘艦が時間的にかなり前に、到着していたのを確認すると、近くの軌道エレベータの駐機場に停めた。大型艦と中型、私が乗っている小型に分類されるそれぞれは、駐機の割り振りが決まっていて、同じエレベータの駐機場には停めることができないらしい。停めたここでは整備、修理、燃料、一応弾薬の補充もここでできるので、見積を取り、それと相談しながら、オーダーをした。時間的にこちらが随分遅れて到着したので、急いで取りかかってくれとも。お姫様と傭兵との通信が有効でなければ、地上に降下し、二人と合流して直接会って話しする以外にない。
地上に降り立ち、エレベータ近くの手配した宿で聞き込みをしながらどうやって、その一行を探すか、合流するか考えあぐねていた。この星の産業と言っても、観光資源しかない、牧歌的なこの星に、先の戦で修理と休養を兼ねるのだろう、御姫様達が駐機しているところで待ち合わせるか?場所はわかるが戦闘艦までは、持ち主の許可が無ければ近づくこともできないし、いつ戻るとも分からない一行を待つのも得策ではない。とりあえずこのまま聞き込みをして情報を集め、立ち回り先を特定するか。そうしながら、時間が経過していった。
スチームモービルが、軌道エレベータの地上側の入り口に着いたのは、一行が上昇した後だった、何本かあるエレベータのうちの一つであることは間違いないが、どのエレベータに乗ったのか分からないままでここまできた。途中、鼻薬を利かせていたポリスも、貰うものは貰っているので、そこまで調べる義理も無い、のらりくらりと、はぐらかされる始末であった。地団太を踏んでも、もう遅い、元の職場に戻ろうにも、職場放棄で、とっくの昔に解雇通告を言い渡されている。しかも本部から、その後の報告の催促が矢継ぎ早に来る。大見得をきって自信満々報告したものだから、当然と言えば当然だ。途方に暮れて、スチームモービルをエレベータの麓を行ったり来たりしながら、考えていた。いつもこうだ、私は。何かすると言えば、裏目、裏目になってしまう。学校では、成績はそれなりにいいはずなのに、いざ受験当日に寝込んだり、好きな男子が出来ても、親友に持って行ってしまわれるし、運よく付き合ってもすぐ振られるし、クラブで、レギュラーの座を賭けて、挑むが、いつもあと一歩と言うところで、僅差で逃していた。就職活動にしても、希望企業にいくらエントリーしても惨敗続きで、もう公務員しかないと、入省するのに必死で勉強して、やっと入省したのにはいいが、希望していない諜報員として、諜報機関に配属。しかもこんな辺境の地で、協議会の何を調査するのかも分からない。そんな日々が続いた、仕事も慣れてきた頃には、親から、早く田舎に帰って、婿を取って稼業をついで、孫の顔を見せてくれ、などと言われ、私の人生もっともっと何かあるはず、もっと出世して、過去の自分と、おさらば、しがらみから、おさらばしたいの。そう思うと叫びたくなる衝動にかられて、つい大声で叫んでしまった。フーと一息ついて。でも、あの時あの一行を見て、あの少女が新型兵器の事を言った時には、これが人生のラストチャンスだと思った、出世へのチャンスを絶対逃すものかと思っていた。でも結局は、こうだ。あと一歩のところで、気を失ってしまうし、気が付いたら、自分の部屋でかなりの期間過ごしていたみたいだし。ポリスにも舐められるし、もう一度、大声をだして、ハンドルを叩きつけた。行き交う人々は怪訝そうな目で見ているのも憚らず。暫くして落ち着いて、適当な所のエレベータの入り口付近で停車して聞き込みを開始した。今は、それしか方法はなさそうだから。
宿を出て自然の重力を味わいながら、今日の聞き込みを開始するため移動していると、珍しく一台のスチームモービルが、蒸気を上げながら、停車していた、主要産業が無い分、自然由来のエネルギー使用と懐古趣味も観光資源と言ったところか。付近の聞き込みをしていると、すれ違った一人の女に目が行った。ビスチェ、にミニスカートは特にその理由ではなかった、理由は髪飾りにあった、蝶をかたどった布の形や色ではなくその布に刻まれた紋章にある。その紋章は、御姫様の王族の紋章である。王族しか使えない紋章を使っているのは、先の弩級戦艦から傭兵に保護されているお姫様の関係者か、もしくは同行者。では、話が早い、一緒に行動を共にしているはずだ、そう確信しその髪飾りの女を呼び止めた、彼女は一瞬動きを止め、女は胸に手を当てて、ゆっくり振り返って、私でしょうか?何か?と伏目がちに言った、こいつ、隙がない。一瞬で、分かった。たぶん胸に何か仕込んでいるのだろう、両手で、隠しているが、何か得物を持っている。こっちは、雷撃機乗りだ、操縦なら、絶対の自信はある。が、体術、拳銃射撃、格闘系は殆ど扱ったことがない、まず、こっちの敵意がない事を伝えねば、やられてしまう。紋章入りの髪飾りを付けているのなら、王族の関係者のはずだ、原隊の所属を言えば分かってくれるはずだ、そう思い、階級、所属、名前、を述べて、ここまで至ったあらましを手短に言った。もっと、観察して、声を掛ければ、と後悔しながら。すべて聞き終わった髪飾りの女はゆっくり言葉を選びながらこう言った。
急に戦闘服の女に呼び止められた、知らない間にくっついている、髪飾りの事を見咎められた様だ、露天風呂のあの脱衣所で、記憶が飛んでから頭にこびり付いて取れない。大人が、蝶の髪飾りもあったものではない。だが、くっついているものだから、如何ともしがたい。そうか、この布にある紋章が、あの少女たちの物なのか、あの少女は王族か、そう思っていると、続けて、戦闘服の女は自分がここまで来たあらましを言っていた。聞きながら、この女も少女達の関係者なら、この女経由で、あの少女達に近づける可能性はあるのか。今の、無駄に足掻いてもいい結果は出ない、ここは賭けてみるか。この戦闘服の女も、その一行と接触し、同行を願っているようだ。で、あればその事を利用して、乗り込むのも有りか。その戦闘艦にあの少女がその傭兵とやらに行動を共にしているのなら、その方が、取り付くのは早いか。
ここはもう一度賭けてみるか。もう一度このチャンスをものにして。そうだ、今までの自分とオサラバする。そう決意すると、ハッタリをかけこう言った。
私は、この紋章の主であるお姫様と行動をともにしていたが、故あって、別行動をすることになった、貴様、我が母星の生き残りであれば、雷撃機乗りなら、私をお姫様の元に送り届ける様に、と。
心臓が破裂してしまうのではと思うぐらい、脈拍が激しくなっていたが、一世一代の大ハッタリに賭けた。戦闘服は暫く黙っていたが、是非、我が機に乗っていただき案内を賜りたい、と返答が返ってきた。それでは、案内するように、と。心臓が飛び出る位だった。すぐさま、スチームモービルを金貨に替え合流することになった。
指定された、駐機場に行くと、雷撃機乗りが請求の関係で揉めているようだった。請求書と、最初の見積もりとかなりかけ離れたものになっていて、整備長とマネージャーを呼びつけ、クレジットの差を問い詰めていた。ここで、ハッタリの最後の詰めと思い、先程の交換した金貨を余裕のある振りをして、これを使うようにとポンと投げ渡した。
雷撃機乗りは、雷撃機のエンジンを始動させ、幸運に感謝した、先に御姫様一行は出発したようだが、王族の関係者と同行でき、また、足りない修理代等も工面してもらい、余裕で、追いつくことができる。そう、希望に満ちた気持ちを、エンジン出力の上昇に載せた。
諜報員は雷撃機の後部座席、射撃手の座席に乗込み、宇宙の景色を見ながら、自分の未来を思い描きながら、気持ちの昂りが、上がっていくエンジン出力の上昇と同調していくのを感じた。
数ある作品の中、この作品に目を通して下さり感謝いたします。




