-9'2
スチームモービルの中に俺はいた。
行き先は幼年兵女学校。
前回打ち合わせでその学校の校長室までは行った事はあるが、今度は作戦概要伝達も兼ねて、講師としても教壇に立ってくれないか、との事だった。
窓の外を見ながら思った。
講師、先生。
歴戦の勇士の講義を、生の戦いの話を、生きた戦術を是非、との事だった。
俺が教壇に立つ。
想定外だった、あまりに想定外、俺の人生の中で、先生と言う選択肢、人生のルートなんてありえなかったし想像もしていなかったから、だ。
おれが先生、ものを教える?
苦笑した。
俺が人に物を教えるなんて、学生と呼ばれていた幼いころは、散々っぱら迷惑しかかけていない俺が。
そこまで思いを巡らせた頃。
校舎が見えてきた。
横で、侍女が反対の車窓を眺めていた、その後姿を見ていると、今までにない雰囲気が醸し出されていた。
怒っている?いや、彼女に何かした訳では無い。
俺は、たまにこういった、状況の女性に接する事がある。
何とも言えない、そう、気まずい。
気まずいこの感覚は、いずれにしてもよくは分からない。
ほんとに行くんですか?
出発前に彼女は一言そう言ったのを覚えている。その時から様子がおかしかった。
スチームモービルが正門のゲートをくぐり、広いグラウンドを横切り、校舎そのものの車寄せのゲートをくぐると、正面のピロティで五人ほどの人影が、立っているのが見えた、スチームモービルが近づくにつれ、はっきりした輪郭になった五人。
真ん中に一人、左右に少し距離を置いて二人づつ、立っていた。
モービルが止まり、俺は小さく溜息を吐くと、意を決したように、女学校の地を踏んだ。
隣には侍女が、ツツとついてきている。
掛け声とともに、統制の取れた敬礼で出迎えられた。
出迎えは黒髪が腰まで長い女学生、後で聞けば生徒会長と言う事だった。
その彼女を筆頭に、右に二人。
左右の腰に刀を携えたベリーショートの女の子。
オープンフィンガーグローブと分厚いリストバンドをした三つ編みを一本にしている女生徒。
左に二人。
左右のこめかみ辺りから長く、触角の様に髪を伸ばした女生徒。
そして、少し不気味だったのが、顔が隠れて見分けがつかない位全体に髪を伸ばし、スカートが地面を引きずるのではないかと言う位長い女生徒。
彼女達は四天王と呼ばれている、と後で聞いた。
その出迎えの傍まで来ると、緊張しているのか、少し上ずって顔を紅潮させ、出迎えの挨拶と、この学校の口上を述べた。
少女だと言っても、そこはやはり兵学校、凛とした所作はこちらも背筋が伸びる。
早速に校長室への案内と、それから講義講堂へ案内するとの事だった。
先頭に生徒会長、二刀流、グローブの女の子、後ろには触角と長いスカートの女学生が付いてきた。
学校の校舎に入った途端、一種独特の香りが鼻を突いた。
突いた、は表現が悪い、香って来たとしよう。
長い廊下を、少女達を先頭に案内されている自分が何となく不思議な感じがした。
その不思議な感覚は俺はすっかり忘れていた、自分があまり免疫がない事を、特に、年下女性のそれに由来する事を。
校長、副校長、教頭である、元首三姉妹は、今回は校長のみ校長室で待っていると補足説明もあった。
長い廊下を歩いていると、時折、通過した教室の隙間や、二階、三階の窓の隙間から、痛いような視線を感じる、そして何やらヒソヒソ話と、押し殺したような笑い声。
決して、悪意のそれではない事は解るのだが、何だかむず痒い。
時折、先頭のグローブの女学生が、視界の中に入った他の学生を見咎めると大声で怒鳴り、注意していた。
生徒会長がスッと先頭から、俺の傍まで寄って来て、我ら女学生が先生を不愉快にさせた事の謝罪と、決して悪意のないこと、男性が本当に珍しい事によるものなので何卒ご容赦願いたいと。
詫びを言ってきた。
俺は生徒会長としての責任感の表れだと、特に気にしないでくれとこちらも出来るだけ、気にしない風に引きつりながらでも、笑って和ますように返事をした。
それでも、あちこちの物陰からの視線と、押し殺した、クスクスとした笑い声と、ヒソヒソ話。
彼女は、すまなさそうに、顔を真っ赤にして、また先頭に立った。
校長室の前に来ると、彼女達は整列し、官姓名を名乗り、室内からの入室許可の返事を受け、俺達を室内に誘った。
校長室には、長女の元首が待っていた、パッと一瞬明るくなったかと思うと、俺の後ろに居る侍女や、生徒たちの顔を見止めると咳払いをしてスッと事務の顔となった。
さて、と言いながら校長は女生徒たちに講師の講義に先立って、講堂ににあらかじめ生徒たちを受講できる状態にして、集合整列させるよう指示をした。
すぐさま、彼女達は敬礼と共に、この部屋を後にして、廊下を駆けて行く足音が遠くになっていった。
講義は順調に進んで行った、
思いつく限りの戦術や、陣形などや、実際の戦場での注意点などできるだけ、分かりやすく講義したつもりだった。
正直、戦場の方が気が楽だ、俺が今まで出会った女子、女の子の数を合わせても全く足りない位の数倍以上の女の子の視線が俺に集中している。
そう考えただけで、もう思考がどこかに飛んで行ってしまいそうだった。
さながらダウン寸前の拳闘士の様だった。
それでも何とかやり終え、これまでした講義の質問を受け付けた。
暫く、は質問を考えているのか、申し合わせたように静寂の時間が過ぎていった。
そして、おもむろに、堰を切ったように。
一人の女子校生が手を上げ、質問しだした。
センセーイ、先生は恋人はいらっしゃいますか?そう言うと。
ドッと講堂内が湧いた。
そして今までの緊張した空気が一変してゆるんだ。
それを皮切りに、
立て続けに、
お隣に居られる方は、恋人さんですか?
どんなタイプの女性がお好きですか?
我々の中で、もし恋人にするなら誰ですか?
結婚しないんですか?
噂では、校長と夫婦になったって聞いてますが本当ですか?
傭兵さんはあらゆる星々に、行く先々で恋人がいるって聞きますが本当ですか?
等々。
そう言った質問が質問に答える前に、被せるように質問の波がやって来て、答えるのにしどろもどろ。
いや、恋人はいません。と、馬鹿正直に答えてはまた、ドッと講堂内が沸き。
いや、隣にいる《《彼女》》は、
と、
《《彼女》》と言った途端ワッとまた講堂内が沸いて、
キャーキャー、《《彼女》》だってーとか、二人だけで旅してるなんて、キャーキャーとか本当に黄色い声と言うものに当てられ。
げんなりして、
俺の思考が段々、段々焦点がズレていって、おれは、ここに確か講師、先生として立って、いまの今まで、戦術や、陣形、作戦立案の方法論を講義していたはずだが。
と、今の俺が現実として捉えられなくなっていったその時。
黒い長い髪を翻し、あの生徒会長が手に持っていた六尺棒を床に叩きつけ講堂内をその激音と共に、耳をつんざくようなそれでいて、凛とした声で、騒がしくなった講堂内を粛正させた。
シン、とした講堂内にした生徒会長は、俺を見て、礼をした後元の席に、着席した。
そして、一言、女性に対して、そんな態度じゃ舐められますよ。
と、年下の女の子にたしなめられた俺がいた。
その時改めて、早くカノジョ作って、慣れなきゃ。
と、また気持ちも新たに決意する自分がいた。




