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主砲が貫いた。
装甲の分厚い戦艦の、その装甲板の繋ぎ目が一瞬膨らんだかに見え、同時にそこから光が漏れ三つに折れ、光が、纏うように瞬き、粉々になりながら、最後の断末魔のように閃光を放つと、その空間には何も残るものは無かった。
敵艦隊が密集隊形を取った。
弾幕を張るためだ。
敵巡洋艦が主砲で弾幕を張りながら撤退していった。
俺の戦闘艦は未だドッグの中で修繕中だ。
もうすぐ、雷撃機共々修理改装は終わるようだ。
それまで、この戦艦とお付き合いと言ったところだ。
そう関係ない事を思いながら撤退する敵艦隊、野盗の混成艦隊を見ていた。
無理矢理くっつけた駆逐艦や、改装も中途半端な正規空母、装甲も継接ぎだらけの戦艦、落ち武者狩りで得た武器を搔き集めて、文字通り野盗となった奴らの艦隊だ。
何発かの弾幕の主砲が、シールドに弾かれた衝撃を置き土産に徐々に小さくなっていった。
何回目かの野盗の襲撃だった。
セリフが頭を過ぎる、あの三姉妹の元首から。
我らが婿に。
と、言われてから何回目かの出陣だった。
あれから、侍女は俺の傍から離れようとしない。
ほとんどしがみ付いているような状態の侍女を客観的に見ていると、AIアンドロイドとほとんど変わりが無かった。
変わっているのは、民族衣装の着物か、ニットワンピースかの違いだった。
あ、あと一つ違うのは人前ではベタベタしてこない事だ。
今はコクピットの中、観衆の中とあって、距離を保っているが隙あらば、とベタベタしてくる。
禿やお姫様と一緒の行動している時は、こんなキャラではなかったはずなのにとその度にドギマギしている。
三姉妹元首のあのセリフから、堰を切ったように、だ。
そんな状態の俺はいったい、いつになったらカノジョが出来るのか、この先が不安でしょうがない。
その所為もあって、遠く離れてモニターの反応が小さくなってしまった敵艦隊を、心ここに在らずと先程からモニターを凝視していた。
その三姉妹の長女から通信が入った。
撤収準備の連絡と白鯨に関する運用についての相談だった。
弩級旗艦兼練習艦、通称白鯨。
どこかの星の古代伝説の大型海洋生物の名を冠したそれは、この星の幼年兵女学校の練習艦だ。
実際、この艦を訪問した時は、白鯨の乗組員全員が本当に女子学生だけでおどろきだった。
いつの日だったか、俺の戦況報告と今後の作戦立案に元首邸に赴いた時、白いセーラー服のリーダーだろう五人と鉢合わせた。
年頃で言えば、禿と同じか、それよりも下かもしれない。
この国の趨勢をその細い肩に委ねられている重圧を思うと、少しやり切れなかった。
戦争なんてものは、俺達大人がすればいい事。
本当なら、同じ年の子達と、その年代を謳歌するべき年なのに、と。
そう考えるのは俺がオジサンになったからだろうか。
運用?
俺はそう考えながら、長女に問い返した。
あれから、今回を含め大小の野盗共の襲来あり、その度出撃回数を重ねるごとに、この星の練度も上がりつつあった。
今回の迎撃戦でも白鯨も出陣させた。
後詰めであるが。
よく訓練されているからだろう、よく働くし、抜けようとする敵を先回りしてよく抑えてくれる。
それを考慮に入れ、いよいよ旗艦として本格的実戦配備を、との打診だった。
俺は、彼女達の屈託のない笑顔を思い出すと、諸手を挙げて賛成できなかった。
元首達、大人たちのリミッターを外した艦は実際さすがに下手な新鋭艦より性能は上だし、今のままでいいと思っていた。
最前線の、あのヒリ付くような感覚、そして、目の前での凄惨極まりない戦場での出来事を彼女達に出来るだけ、可能ならば味合わせたくない。
そういう思いが、頭を駆け巡っていた。
が、この星の戦力を勘案すれば、そうもいっていられない状態であることも理解できる。
大型戦艦1、戦艦2、重巡4、駆逐艦5、正規空母1、軽空母2、はあまりにも心もとないのはその証左だ。
そこで俺の艦と雷撃機が共に戦線に復帰できるようになったらそうしようと、それまで後詰めから、遊撃隊として運用すればいいとおれは譲歩した。
最初、元首姉妹は難色を示した。
が、もうじき俺の艦が仕上がるのを見越して何とかその案で落ち着いた。
通信を終え、マイクを置いた。
やはり、女学生たちの笑顔が頭から離れない。
侍女が俺の顔を覗いた、どうも深刻な顔をしていたようだ。
俺は、弁解するように侍女に。
おれは別に若い女の子だから。
的な、そんな下心があって提案した訳じゃない、俺は・・・。
そこまで言うと、侍女は言葉を遮って。
分かってますって、艦長の想いは。
続けて、思い出すように。
青い湖の保養地の星で、私たちの名誉のために、輩達を蹴散らしてくれたんですもの。
全ての女性にお優しいんですから。
そしてズイと顔を、目の前まで近づけて。
出来れば、その優しさを私だけのものにしていただく訳には行きませんでしょうか?
悪戯っぽく、そして、妖しく笑った。
俺の顔がみるみる真っ赤になるのが自分でも分かった。
全く俺ってやつは、こんなこと如きで未だドギマギするなんて。
と、もっと大人の男の様に、女性をいなす位の度量があればと、ほとほと意気地がない自身にあきれてしまっていた。
モニターにはその白鯨が、帰港していくところが映し出されていた。
次回遊撃隊として出撃する事が、これまでで一番過酷な戦闘になるとは、この時誰も全く想像できなかった。
暫く、更新しておらず大変失礼いたしました。
拙作を、変わらず目を通していただき、誠に感謝いたします。ありがとうございます。




