-8.7
プッシュアップ、チンニング、レンジ、バーピージャンプ、と床に汗が溜まる頃、禿が、ジト目でこっちを見ていることに気が付いた、が。
それを、気にすること無く、ホスピタルの外周道路に飛び出し、ランニングを始めた。
瀕死の重体だった私が、雷撃機の中から生還したことが、嘘のような回復状態。
ただただ、その事に、ここの星の国の医療技術に驚くばかりだった。
外周道路を何周か回って、ふと空を見上げると、一つ目の月が落ち、二つ目の月と共に、うっすらと、小さな指環のような白い影が昇ってきた。
あれが、言ってた次空間転移リング。
禿とブロンドの諜報員が言ってたやつ。
立ち止まり、見上げていた。
フト、視線を感じたのでその方向を見てみると、何階だろうか、ホスピタルの病室の窓からこっちを見ている人影があることに気がついた。
女の子?
視線を、向けるとスッと居なくなった。
フン、と思いながら、また、走り出した。
病室に戻ると何やら、御姫様の処遇の件で何やら医院長か、上席の役人に意見具申しに行くと言う。
自分は、この体がちゃんと機能してくれただけでも、万々歳。
特に文句も無いし、今のままで十分だから、任せるつもりだ。
命長らえて、父の意志を継げたらそれでいいとおもっている。
それだけで十分だ。
次の日、またランニング最中。
あの部屋から、覗いている女の子がいた。
じっと見てるとスッと引っ込んでしまった。
そして、次の日も。
よくある話で、病室の病弱な可憐な命幾許も無い少女が、元気な人を見て元気を貰う的な話など、柄じゃない。
御免被りたい。
意を決して、その病室に断りを入れようと突然訪問した。
かなりびっくりしたようで、慌てて居ずまいを正していた。
壁には、フォトと寄せ書きのような旗が掲げてあった。
この国の文字は何とか読める。
どうやら学校のクラブ活動で今度全国試合があって、チームメイトが、それに向けて早く回復しろよ、的な事が書いてあるみたいだ。
まあ、最悪な事態ではない様なので安心した、そもそもこの国の医療技術は、体がバラバラになった状態の私でも、現役復帰できるくらいだから、大丈夫だろう。
そう思うと、心から。
そうか、頑張れよ。
と、 早く怪我がなおって、復帰できたらいいな。
と、柄にもなく、激励と言うか、元気付けと言うか、ありきたりな言葉しか出てこなかったけれど、彼女はとても喜んでいた。
何日か、彼女の病室にランニングの後、訪問する事が日課に追加された。
何を話しするでもないが、私が雷撃機乗りで、父から厳しく躾けられた事。
その後、母星が侵略され、お姫様と共に、女の子がとても苦手な、でも馬鹿みたいに強い傭兵と一緒に私たちを陥れた奴の究明と、母星の奪還する為、旅、戦闘や冒険をしている。
そう言うと、彼女は目をキラキラさせて、私も行ってみたい、と顔を紅潮させて言っていた。
その熱量に絆されたのか。
私は思わず、機会があれば一緒に行ってみるか、でも、そんなにいいものじゃないよと言い訳をしていた。
次の日、病室にいって少し、留守にすると言うと、すごく寂しそうな、泣きそうな顔をしていた。
何だ何だ。
また戻ってきたら、すぐ会いにきてやるから、それまで怪我治しておけよ。
と、言いながら頭をくしゃくしゃとした。
そして、やっと笑顔になったのを、確認して、病室を後にした。
リングから帰って来て、周りがバタバタして騒がしかったが、取りも直さず、たくさんの土産話。
冒険譚をしゃべってやろう、きっと面白がって聞いてくれるだろうと、彼女の笑顔を想像してにやけながら、彼女の病室へ急いだ。
病室を間違えたのか、誰もいない病室になっていた。
ベッドは、シーツと寝具が畳まれていて、とても人が寝ている状態とは思えなかった。
病室を間違えたのだろうと、其の階の病室を隈なく探した。
階を間違えた?
と、上階に行こうとした時、後ろからナースが私に声を掛けてきた。
彼女は、
銀髪の、つなぎの戦闘服を着た、タンクトップの女の人がきたら渡して下さいと、この病室に《《いた》》女の子から言付かっています。
そう言って一通の手紙を差し出した。
死ぬほど嫌な予感がした。
本能が、受取りを拒否している。
力を振り絞り、震える手でそれを受け取るとナースは目を伏せ踵を返し、小走りに駆けて行った。
手紙には簡単な単語で、
ごめんなさい、私は嘘を付いてました、本当は治る見込みのない病気にかかっていました、お姉さんの力強い走る姿を見て元気、貰いました、冒険の話、とてもオモシロかったです、
艦長さん、お姫様、禿さん、諜報員さん、アンドロイドさん、侍女さん、そして、おばけさん、皆さんに会いたかったです、一緒に冒険したかったな。
最後に、本当にありがとう。
読み終わると、手紙を抱きしめその場に泣き伏せてしまった。
ここの医療技術は最高じゃなかったのかよ。
クソったれが、チクショーが。
だから柄じゃないって、言ってたんだ。
暫く大声で泣き続けた。
泣き腫れたままでは帰り辛いので、手紙を大事にしまいながら、外周道路に出て、彼女の視線を初めて感じた場所で立ち止った。
空を見上げ。
父上、そちらに可愛い女の子が行きます。
とってもいい子です、一人できっと心細いと思うので、私がそちらに行くまで、何卒よろしくお願いいたします。
そう独り言を言った。
リングがまた二つ目の月と一緒に昇り出した。
目を通していただき、お時間を割いて読んでいただき、毎回感謝で一杯です。この物語を紡ぎだして、ようやく一年を過ぎることが出来ました。本当に有難うございます。皆様のおかげです有難うございます。




