-8.1
艦の中はやはりあちこち傷んでいる、自分たちの愛の巣然とした居室、嫌々ながら見ているお姫様一行の居室、そして雷撃機乗りとそれに一緒にくっついているブロンドのビスチェの居室。それぞれを見て回って、整備兵や、営繕係、にチエック表を渡すのに微に入り細に入り細かく見て回った。
艦長が、あの忌々しい侍女と一緒に出撃している事を聞いて、それと引き換えにこの艦の不具合や、ボアアップや、改装、改修なんでも言ってやろうと事細かく、装甲板から、ねじ一本、水道のカランまで何でも言ってやろうと、まさに目を皿の様に、這いつくばって目が床や、壁に当たる位、まるで親の仇の様に、見て回っていた。
その間、隣や、頭上や壁の中や、床の中に手持無沙汰の様に付喪神が出たり引っ込んだり浮いたり沈んだり後を着いてきたりしていた。
AIアンドロイドは、
いい加減、鬱陶しくなって少し離れてもらえるかな?
と付喪神に言った。
彼女は、AIアンドロイドと全く同じ顔形なので彼女と呼ぶ事にするが。
で、彼女は、ブーとふくれっ面をしながら、壁の中に消えた。
さてと、もう一度見て回ろうと、廊下に出て、パイプがむき出しで通路伝いに、配線や、途中にある端末、端子スペース、計器類、今は宇宙ではないから、結露は発生していないが、結露跡など傷みやすい所、そして、奥の方に、あまり行かないエリアもこの際、点検も兼ねて。
あと、少しでも修繕して、新しいものに替えてもらおう、どうせ、この星が全額持ってくれるって話だから、多めに見積もりや、予算を吹っかけてやろう、その為にも、ちょっとでも修理、修繕しなくてはならない所を、配管一本、配線一本、回路一つ余すところなく変えてもらおう。
そうだ、と言って、AIアンドロイドの居室に行き、艦長の寝ているベッドと、AIの彼女が使っているチャージングベッドを叩き壊した。
フフフ、これで、二つのベッドは作り直さなくてはなるまい。
当然ベッドは新しくしてもらう、で、私の、チャージングベッドと艦長のベッド一緒にしてもらい、サイズは、そう、キングサイズにしててもらう、これで毎晩・・・。
グフフフと、AIアンドロイドが涎を垂らして、良からぬ事を回路がショートするのではという位、プログラムを走らせて、文字通り少し頭から煙を立ち上らせていた。
そんな、頭ピンクの状態のAIアンドロイドに、その時、奥の通路で、黒い影が蠢いているのは知る由もなかった。
先行して、装甲板や、エンジン、ラチス構造部分など、目に見えて、なお且つ、この星の整備兵や、修理業者がチェックしている所は取りかかってもらっている。
一旦悪巧みの妄想が済んだAIアンドロイドは、各居室のチェックに勤しんだ、出来るだけ新しいものに替えてもらうため。
そして、艦の未だ手付かずのエリアに進んだ。
通路を、薄暗い通路を進んでいると、ゴトン、と。
音がした方向を見ても黒い空間しか広がっていなく、少し不気味になったのか、足早に立ち去ろうとした。
すると壁からニュッと不思議そうに付喪神があらわれ、何やら言いたげに、視線を先程の音の鳴った方向を差した。
確かに何か蠢いている。
途中木の杭が数本五芒星の形でその部屋を取り囲むよう撃ち込まれている。
そこは、鈍く赤く、青くその時々で色が鈍く光っている。
それが関係しているのかと思い、それに手を伸ばすと、付喪神が手を乗っ取り、頭を横に振っていた。
特にこれらは、触らないほうがいいらしい。
通りのラボも、少し気になるところだが、先程の物音も気になる。
どこからか、エイリアンが入り込んでいたとしたら。
もしかしたら、要塞攻撃の時に、敵が放った猛獣使いと呼ばれる連中の生物兵器が、幼蟲を産み付けられたりしてたら大変な事になる。
この艦のセンサーは全部AIアンドロイドに集中して管理しているから、異常があれば全部把握できるはず。
もう一度走査してみても、物音がしたところを中心に走っても、異常はないと回答するばかり。
では、目でみて、目視、現認するしかない、取り敢えず、捕獲棒をもってゆっくりその先に行く事にした。
相変わらず薄暗い艦内、そうだ灯りは欲しいな、この部分も見積、修繕依頼に入れておこう、それと、結露と、道すがら、点検しながら進む。
いくつかある貨物エリア、弾薬庫、砲塔、主砲。発射筒、格納庫を見て回った。
後はエンジンルームと、AIアンドロイドに似た女が、培養液の中に浸かっている部屋を残すのみとなっている。
培養液の中に入る女は、本当に私に似ている、いや、この女を似せているのが私なんだろうか、あの時見た夢、人間なら夢と言うのだろうか、わたしなら、記録の一部と呼ぶのが妥当かもしれない、その時、ゴトリと蠢くものがあった。
やはり何かいる、と、思いその方向に駆け寄った、が、黒い影が部屋の外に出る後姿の片鱗を見ただけでそれはすぐ見えなくなった。
薄暗い艦内の所為もあり確認し辛かった。
生体反応や、熱、赤外線、波長、など見てみたがどれにも反応しない。
まさか、隣で浮いている、私に似たそれは、今言ったセンサーに引っかかっていない、彼女を試しにスキャンしても一切の反応はない、機械的には彼女はいない事になっている。
つまり、いま、横切ったのは彼女と同じ付喪神的な、霊的な、と言うのが妥当なのだろうか。
それらが、まだいると言うのか。
通路を何かが通過しているのは確かだ、ただ、センサーに引っかからないのが腑に落ちない。
五芒星の部屋と、培養液の中の私に似た女の部屋、その奥にはまで把握しきれていない部屋がある、それを虱潰しに見ていくか。
それしかない、取り敢えず整備兵とはいつでも連絡が取れるようにしておいて、艦内の探索に出発した。
もしエイリアン的なものが貼りついて居たら、修理どころの騒ぎじゃない、幼蟲段階ならまだ駆除が出来る、成体になれば厄介だ。
ただ、ずっと引っかかることがある、何故、どのレベルのセンサーも引っかからないのか。
そうこうしているうちに、エリアの深いところまで、来たようだ。
記録にはここのエリアは今の世代では数回しか足を踏み入れていない、この奥はもっとだ。
相変わらず、付喪神はフワフワと何を考えているか分からない、スンとした顔のままだ、顔がほとんどAIアンドロイドだから、気が滅入る、振り向いたりすると、鏡がそこにあるのかといったような感覚になって不思議な気持ちになる。
知ってか知らずか、相変わらずフワフワ文字通り浮いている。
そこで、何か気付いたのか、ピクッと止まりある方向を指さした。
何か小さいものが、本当に小さいものが通路の奥の暗闇の中で蠢いている。
やはり、エイリアンか。
そう思った瞬間、スッとまた暗闇の奥へ沈んでいった。
あ、待て、とつい口から出てしまい、その方向へそして駆け出した、少し片鱗がおぼろげながら、その輪郭がうっすらと見えた、何か浮いている、しかも円形の籠のような、先程の小さいものと形状が全く違う。
どういった事だろう、と、駆け足を速めた、と同時にその物を、其の辺りをスキャ二ングした。
やはり驚いたことに、何もセンサーに引っかからない、やはり、隣にいる付喪神の残りか。だとすると、厄介だ、あの禿が居なければこんな奴ら、対処できない、ホスピタルに呼びに行くか。
そう思案しながら走っていると、その籠みたいなものは、あるエリアのある居室に入っていった。
よし、と思って、その居室の中に入ってみた。
そこには本当に信じられない光景があった。
世界、そう、ミニチュアの世界、いや、ジオラマと言った方がいいのか、ただ、違うのは動いている、いや、生きているといっていい。
足元を見ると、丁度、草原になっているのか芝生がひろがっていて、その先には、家屋が、そして先程の籠と思われた物は、飛行船がこのジオラマ世界の奥の方に飛んでいった。
そこには、ビルだろう、それらしいものが、林立している、見た目は近世のそれであった。
気が付くと、小さいものが蠢いていた。
人の形をしたもの、いや、はっきりとしたヒューマノイドそのものだ、小指の第一関節の大きさもない、人。
スキャンすると、確かに人型の生物で、艦長や、禿、そして、今回助っ人を頼んできた女どもと何ら変わらない、サイズをのぞいては。
やはりエイリアンの類なのか、異星人、確かにほかの星に行けば、サイズの大小は少なからずある。
だが、ここまでのサイズは記録に無い、いや、記録に無いだけでこの銀河外にあるのだろうか、そう言えばリングに近いから、流入してきているのか。
いやいや、そもそもなぜ、この艦のこの居室にこんな文明を持った小さき人がいるのか。
太陽光と同じ光が燦燦と輝いている、ここの居室は元々レジャー施設の様だ。
で、誰も何世代も入っていない、しかもスイッチを起動したまま。
そう、思いを巡らせていると、また、林立した、ビルの隙間から、また、飛行船らしきものが複数飛んできた、足元を見ると、何やらその小さき人が奥の方から大挙押し寄せてきた。
何か音声を発しながら、
発する音源が小さすぎて、周波数が合わない、そこで、モニタリングの精度を彼らに合わせてみた。
すると、歓迎なのか、恐れ戦いているのか、とにかく畏れているような音声が聞いて取れた。
こちらもびっくりしているので、多分ここの小さき人もなおさらだろう。
ゆっくり飛行船の一隻が、丁度目の高さで停止し浮かんでいた。
上部のコクピットから、多分、女性だろう、その格好から、判断せずにはいられなかったが。
何やら手に持ち、何かを話し出した。
拡声器だ、こんな原始的なものがこの世界で通用しているのかと半分驚き、その音声にチューニングを合わせた。
曰く
この世界の成り立ちは我々が知りたいところである、そして技術が発達し、外の世界を見聞しようと、冒険者たちを募り、外の世界に旅立った。
ところが出てみると、お前たちのような、巨人ばかりの世界ではないか。
お前たちは、何者だ、我々の伝説にある、創造神なのか、なんなのか、教えてくれ。
セリフを聞き終わり、ふと、視線を足元に映すと、小さき人はひれ伏し、崇めるような仕草に、いつの間にか芝生を覆いつくしていた。
いや、我々は、と言って、くちをつぐんだ、違うというのは簡単だ、そう言ってしまえば彼らはどうなる、アイデンティティも何も、根底から覆る、この小さき人がエイリアンなのか、異星人なのか、この艦自体に何ら影響はない、では特に棲んでいてもいいではないか、彼等の世界を内側から壊すことは避けるべきだ。
足元では、小さき人が口々にずっと何かを叫びながら、ひれ伏している、祭壇だろうか、炎を燃やしているところも散見する、彼等を見て、AIアンドロイドは意を決した。
この居住区のロックはレベルを最上にし、脱出ポッドと同じレベルにした。
この艦にいる限り安全という事だ。
それに不用意に人がこの居住区にはいらないように。
フワフワ、飛んでいる、付喪神は不思議そうな顔をしていた。
何が言いたいのか、分からないでもない、今後、あの世界があのまま平穏無事に居てるかどうか、それは分からない、どこか住みやすい所があれば、あの居住区ごとそこに置いておこうと思う。
神、か。
ちらっと付喪神がやはり不思議そうな顔で彼女を見ている。
付喪神に向かい言った。
それは彼女自身に言いながら、自分自身に言い聞かせていると言っていい。
多分、ある種の生物発生に必要な物質がたまたま、あのエリアにたまっていた。
もしくは先代の持ち主が研究か何かで、置いていったものか、それは今となっては記録も無く全く分からない。
いずれにしても、次空間を何回も飛んでいる間、また、何回も次空転移リングを使ったりしているうちに、艦の中のあの部分で歪が生まれ、時間の進み方に極端にばらつきが出た。
生物の進化に要する何億年何十億年と気の遠くなるような時間経過が、あの居住区内で発生。
発生した時間と次空の歪みの中で、デスドライブオン、オフを繰り返すことにより加えて、信じられない位時間が加速。
材料と時間それによって、生命体が存在する星と同じ様な居住環境の中で、生命が誕生し、そして、小さき人類が発生し進化し、やがて文明が発達したのだろう。
独自の進化を経てなお我々と同じ形態。
サイズは違うが。
全くある意味、我々の世界の違う世界。
奇跡としか言いようがない。
だから、この世界の物に反応しなかったのだろう。
このまま彼らを干渉せず、ただ静に穏やかに彼らの世界を築いてほしい。
少なくとも、今、我々が戦っているようなイザコザの無い世界を。
そう付喪神に言いながら、その小さい世界を後にした。
さ、修繕の見積もりを、もっと水増ししなきゃね。
ついてくる付喪神にはっぱをかけながら、AIアンドロイドは、コクピットに向かって歩きだした。
前回から、かなりの時間を頂き誠に申し訳ありませんでした。
その中でも、拙作に目を通していただき誠にありがとうございます。
より、精進いたしますので、何卒よろしくお願いいたします。




