-6 前編
さっき、この艦に戻ってきたのが数刻前、知らない間に一人、厳密に言うと一体、なんて数えるんだ。幽霊は。
いま目の前に彼女、と言っていいのだろうか、おれはもともと、この世に苦手なものの一つに幽霊、とか、そういうオカルト的なものがある、得体が知れないからだ。
確かにこの艦には俺がまだ立ち入っていないエリアがある、むしろそっちの方が、大半を占めていると言っていい、必要最小限であれば事足りるので、行く必要もなかった、格納庫、武器庫、弾薬庫、格納庫、ぐらいだろう、他の部分は暗く、結露でじめじめしている、そこに敢えて行く必要もなかった。
俺の留守の間、禿と、お姫様と、雷撃機と伴にやってきた、ブロンドの女性は事の顛末を話してくれた、俺のいない間、そんな所で幽霊退治の様な事をしてくれていたとは。
聞けば、長年、人から人の手を渡っていたせいで、残留思念の集合体が、物に憑りついて霊化したものだという。
それら、付喪神と言うものになり、この艦に憑りついていて、それが今回、この艦の調子を悪くしたのではないか。と言うことで、其の退治を買って出てくれた事らしい。
で、そこで、さっきから、眼の前をウロウロしているAIアンドロイドに似た、この幽霊、いや、付喪神と言うのか。
神木を撃ち込んだせいで、善性になったから問題はないという、が、さっきから目の前をウロウロされると、しかも、壁をすり抜けたり、床からいきなり生えてくるような感じで現れたりするのは、正直勘弁してもらいたい。
天井から逆さになって現れたり、コクピットの操作盤に顔を半分出したり、悪気はあっても無くてもびっくりするのはこっちなので、少々辟易してしまう。やはり苦手だ。
またこれで、一人?と、言って良いのか、乗組員、クルーが増えてしまった。
ニコニコしながら俺の目の前を行ったり来たりしている、音もなくだ。これ以上、同乗者がどれだけ増えるものなのか。
次のキャンペーンについて、座標点、ランデブーポイントに近づいてきた。
要塞への攻撃、殲滅。が、今回のキャンペーンの内容だ。
あの、ホスピタル近くでの顔を包帯で、バツに巻いていた野郎をぶちのめした時。
その帰りに事務所に寄ったものだから、頭に血が上っていたせいもあって、あまり考えず数枚依頼書を手に取った内の一枚だ。
絶対座標と絶対時間をあわせ、俺と、AIアンドロイドはコクピットで、攻撃の準備に取りかかっていたら、侍女が話があると。
アンドロイドは少しピクついていたが、いまは準備に取り掛かるよう言い含めた。
侍女が言うには、私たちの母星は侵略されバラバラになり、宗主であるお姫様に連なる我々以外に、残りの者は、各星域に散らばり亡命し、地下に潜って、その機会をうかがっています、ひそかに連絡を取り合っており、そのため、広い範囲で、情報を収集できる、もっとも不確定要素、確実な情報も含めて、ですが、と前置きをし。
ですので、この情報がもたされたときにはにわかに信じられないものでした。
それは枢軸と帝国が手を組み一つの勢力となることを。そして近衛団が暗躍していること。いろんな、情報を組み合わせるとその結論になるのです。と。
そして今回のキャンペーンが、枢軸星域陣営が帝国星団陣営の要塞攻撃をすることです、この時期にこんな不自然な事があるでしょうか、と。
その証拠に近衛団系の傭兵団の参加はありますでしょうか?ほとんど、協議会系の傭兵団ではありませんか?
おれは、そんな馬鹿な事が、とにわかに信じがたい事だった。
その時二人、雷撃機乗りと、ブロンドの女の子が駆け寄って来て、直掩機で雷撃機出るよ、と言って格納庫に走っていった。
待て、と声を掛けるのが遅かったのかもう、姿は見えなくなった。
とりあえず、今は、攻撃態勢に入っている。様子を見ながら、後方にいる枢軸陣営の様子を注視しながら、キャンペーンを続行しよう、との結論に達し、侍女にはその監視を頼み、コクピットに戻った。
アンドロイドは案の定ふくれっ面をしていて、何ですか、彼女と戦いの前のチューでもしていたんですか?それとも、あんなことや、こんなこと、でもしてもらっていたんですか?私ならどんなことでもするのに、と相変わらず、勝手に誤解して、勝手に怒っている。
で、俺の左腕にしがみ付き、グイグイ胸を押し付けてくる。
わかった、わかったと言いながら、鼻血が噴き出る前に、彼女をとにかく引き剥がした。
開始の時刻となり一斉にそれぞれの、攻撃目標に向かって行った。直掩機の雷撃機と共に、要塞の心臓部に突入し撃破していった。
二撃、三撃と攻撃を加えていく内に。
そこで、言い知れない不自然な、そう、今まで培ってきた経験則、経験に基づく感、と言うものだろうか。
こんなにも、順調であることが。
不自然。
仮にも要塞の名を冠している、所だ。
こんなにも、手応えのないことは無いはずだ、いや、手応えはあるが、ある様に見せているだけ。俯瞰して見ていないと分からない。目の前だけしか見ていなければ、それはわからない。この、作戦の指揮をしている奴は、かなり手練手管に長けている奴だ。
同時に、本能が危険信号を発している。
その時だった。
味方であるはずの艦隊の主砲の照準が、我々にロックオンされアラーム、警報が鳴りだした、AIアンドロイドがさっと表情が変わって言った。ジャミングがかかっていて、こちらの主砲の照準が定まりません。
味方艦隊、枢軸艦隊から一斉射撃です。着弾まで、三、二、一、今!
少し間が空いて、申し訳ありません。すぐに、その2をアップさせていただきます。