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『あの人』は、艦長は顔を真っ赤にして、耳まで、真っ赤にしていた。
その、十人の秘書を引き連れた、同業者、と思われる昔から知っているであろう、一行が艦長を、私たちの姿を認め、冷やかしてからだ。
ロビーのソファーを握りつぶし、台無しにして、アンドロイドをホスピタルに連れていく途中で。私たちにたどたどしく、折角街に出たのだから、おいしいものでも、と。
そうだ、すいーつでも食べてくればいい、と金貨を数枚、私たちに渡しながら、顔を真っ赤にしながら言った。
艦長は、超重力星系で生まれ育っていたせいで、その骨格から筋力が通常の人間の何十倍、いや測定不能ほどのフィジカル、体力というにはおおよそその形容が当てはまらない超人だという。
あの、立ち合い稽古の最中の姿や、輩たちをぶちのめしたり、戦闘中の姿に似合わない、ほどの真っ赤な顔。
だから、すいーつというワードなのか、女の子イコールスイーツというテンプレートしか持ち合わせていない彼に、その姿に似つかわしくない小さな男の子がダブって見えた。
それが、彼を可笑しいと思う感情の次の感情。
可愛いと思っている自分がいる。
少しだけ、雷撃機乗りと、私は街をぶらつき、この星系での流行りなど、違う空気に触れつつ、近くの喫茶店に入った。
席に着き、彼が『あの人』が居たらすすめるであろう、スイーツを二人分注文した。
注文の品が届く前、雷撃機乗りは、その綺麗な銀髪を後に束ね直し、お礼と謝罪を言った。
戦闘艦の一員として、迎え入れてくれたこと、着艦早々取り乱したことを。
お礼と謝罪は艦長に正式に言えばいいと、促し、もし言いにくければ、私が間に入ってもいいと言うと、少しはにかみながら、お礼をいった。
そして他愛もない、母星での思い出話に花を咲かせて、お互いのここまでの経緯を言い合い、持ち寄った。
お代わりの品物が届いた頃には、話は、新型兵器の話になった。
援助を母星奪還を餌に全員をだまし、いや、厳密にいえば、裏切り者を除くが。
新型兵器の人柱として、戦況を変えるにはあまりにも大きな代償だった。
情報を纏めると枢軸星域と帝国星域が手を組み、連盟星域、その後同盟星域を各個撃破の様相を呈しているようだ。
そこで、協議会、財団、財閥系の傭兵団体は一つとなり、相食まない様、一つに纏まりつつある、が。余るのが一線を画す、近衛団系の傭兵団だ。
近衛団系はもともとは、残党の集まりなので、虎視眈々と下剋上を狙っている。
だから、怪しいのがこの近衛団系だ、どうやら、各星域の跳ね返りというか、野心家、革命家拾い上げそれぞれの内側から崩壊させ、全てを吸い上げ纏めているらしい。
文字通りその、起爆剤として新兵器を打ち上げた。あれだけの、強力な、兵器の元であるところの軍門に属していれば、戦況は大いに有利、必然的に集まってくるという算段だ。
あの新兵器を盾に。
そんな諸々の秘密も、画策の秘密も、漏れない様、本格的に運用するまでのテストであれば、我々は、切り捨てるには都合が良かった。
未確認情報ばかりだが、我々の敵は後ろで操っている、近衛団系であることが、最も有力であることが、分かった。
そこまで、話を終えたところで、表でオートモービルが数台停車するのが聞こえた。
暫くするとその態度、ガラの悪い団体が、マナーも何もなく、その喫茶店には、おおよそ、似つかわしくない男ども、そう、輩と言ってもいいくらいだ。
ドカドカ、と不躾に喚きながら入って来て、偉そうに命令口調で、注文の品をウエイトレスに投げかけた。そして、ウエイトレスに下品なちょっかいをして、下品な笑い声が、店中に響き渡り私は、気に障っていた。
よく見るとそいつらは、皆、けが人の集まりか、と言うぐらい一人も漏れなくどこかしら、包帯を巻いていたり、ギプスをしていた。
その中のひとりが、女子二人組の私たちを見咎め、鬱陶しくも馴れ馴れしく、下品に声を掛けてきた。ナンパぐらいなら、我慢もできるが、おおよそ婦女子にかけるべきでないような言葉を、かけてきたので、表情が険しくなった。
それをみて、余計にそいつは、仲間を呼びはやしたてた。
いよいよ我慢できなくなるほどの、女性の尊厳を蔑ろにする言葉を投げかけてきたので、無言で、薙刀を取り、そいつの近づけた顔に、薙刀の柄を鼻っ柱にめり込ませた。
鼻を押さえてふら付いている、そいつの、襟首を掴み、雷撃機乗りには店の中で待つ様言い含め、そいつを表にたたき出した。
店の中は、何ごとと、仲間がざわつき、一緒になってぞろぞろ、店の外に出てきた。
広い場所に出れば、侍女の薙刀の餌食になるほか、輩の連中野選択肢はなかった。
向かってくる奴らに。
一人は、石突で鳩尾と喉、鼻っ柱の三段突きでそのまま膝から崩れ落ちた。
後から襲ってくる奴には、同じく返す石突で右足を外に跳ね上げ、そのまま空中で回転し大地に激突した。
振り返りざま、柄を正面からくる奴の横っ面叩き込んだ。そいつも頭から大地に激突した。
死人が出ない配慮で、石突の方で、薙ぎ払っている。
向かってくる奴の、脳天、鼻、鳩尾、人中、と急所を的確に打ち抜き、また、空中に跳ね上げ、大地に叩きつけ、気が付くと、地面に這いつくばる者と、ようやく、こちらの間合いを取る様に遠巻きにし出す者に分かれた。
暫く睨み合いが続いたが。
遠くから、一台のスチームモービルが近づき、このいざこざの近くで停車した。
このナンパ野郎どもの、知り合いか、それ以上の立場の者だろう。
鼻を中心に包帯でバツを書くように包帯を巻いて、両脇には若い女の子を侍らしているそいつは、なに油売っている、さっさとホスピタルに行くぞ、とかなんとか叫んでいた。
その怒号に、あわてて、地面で伸びている野郎を、遠巻きに見ていた仲間が抱え、スチームモービルに運び乗せ、早々に出発した。
包帯で、顔をバツに巻いている、ナンパ野郎に怒号を浴びせていたそいつは、こっちを一瞥して、何か言いたげであったが、先行したスチームモービルの後に続いて去っていった。
喫茶店のマダムに騒がせたことに対する、謝罪をし、もう一杯同じものを追加注文し、雷撃機乗りの待つ、席に戻った。
艦長と、手合わせの稽古の賜物だろうか、徒手相手の往なし方が、随分身についた。
そう思うとうれしくて、同時に強い艦長、優しい艦長、そう思うと、今まで、感じたことのない感情が湧いてきていた。
少しグラスの氷をかき混ぜて、意を決して雷撃機乗りに聞いてみた。艦長の事、『あの人』の事どう思うか、と。
雷撃機乗りは、ゴクンと飲み物を音を鳴らして、飲み下した。艦長の事だろうか、エッ、『あの人』呼ばわりするほどそんな関係!エッ、もうすでにそんな関係?と目を見張った。
暫く二人の沈黙、雷撃機乗りも、侍女も、生憎、男女のそういった複雑な感情に対する答えを、全く持ち合わせていなかった。
同時に遠くで、先程の顔にバツの包帯を巻いた、女性を侍らせていた一行の、叫び声と、何かに激突する鈍い音、が彼女達に聞こえたかどうかはわからない。
いつも、目を通して下さり感謝いたします。今回は、若干説明的な部分、大ですが。ありがとうございます。