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 -5.2

 御姫様(おひいさま)一喝(いっかつ)され、 雷撃機乗りはヘルメットを落としそのまま泣き崩れた。彼女を見ていると、とても切なく少しもらい泣きしそうになった。そういえば、もう一人乗っていたような、と。もう一度、雷撃機の方に、目を向けてみると、雷撃機から降りてきた、彼女を見て、アッと私は声を上げそうになった。あのブロンドの髪と髪飾りは、忘れようがない、あの保養所で、露天風呂の脱衣所で、素っ裸で、胸が南国フルーツで、我々に銃口を向けてきた人だ。

 降りてきたのはいいが、壁の方をむいて、一向にこちらを向かない、そして少しづつ、出口の方に横歩(よこある)きで出ていこうとする、それをみて、私は、泣いている雷撃機乗りの反対側を壁伝(かべづた)いに、ブロンドの髪の南国フルーツの方に近寄っていった。こちらが、近づいてきたのを察知して、駆け出しそうになったところを呼び止め、丁度、お姉様の死角を確認していたので、式神の印を結んだ、ブロンドの髪に食い込んでいる、髪飾りが、再度活性化し、彼女の自由を奪った、駆け出す寸前の格好のまま、彼女は、固まっている。

 格納庫のエアロック付近では、不審に思われるので、早々に、人気のいないところへ、誘導した。自由を奪われ、彼女は、半泣きになりながら、謝罪の言葉を言っていた。私より年齢は上だが、客観的にみると、どちらが年上か、少し判断に迷うところ。

 さて、といって、何故(なぜ)、我々を襲ったのか、そして、なぜ、わざわざ、性懲(しょうこ)りもなくやってきたのか。そして、お前は何者だ。と尋問した、年下と思われる少女にため口で、しかも命令口調で、言われたものだから、中々メンタルがへこんだのか、おとなしく質問に答えてくれた。新型兵器のすぐ近くにいたので、秘密を知っているのではないか。この髪飾りで、再度あなたたちと接触できるのではないかと思い、雷撃機乗りの思い込みも手伝い、来ることができた。が、落ち着いて考えれば、捕まることぐらい分りそうなものだが、そのときは、そこまで、考えが及ばなく、結果。と言って、顔を真っ赤にして、こうなった。と少し歯切れ悪く続けて言った。

 最後の、質問は、ある星域の諜報員というだけで、許してほしいと懇願してきた。諜報員の身分がばれれば、ダブルクロスとして、命の保障が無いからだ。と、ここまで聞いて、本当に笑いそうになった。どこまで、正直に答える人なんだろう。やっぱり、そんなに悪い人では、なさそうだ、そう思い、術を解いた。自由になったブロンズの南国フルーツは、私の手を取りありがとうを、連呼した。小さく溜息気(ためいき)をし、少し半笑いになりながら、決して、我々は、あなたを赦した訳ではありません。命の保障はします、御姫様にも他の人たちにも秘密にしておきます。

 ただし、担保としてその髪飾りは食い込ませたままにしておきます。その式神は、髪だけでなく霊的にも物理的にも脳髄まで気食い込んでいますので、取ることは、絶対に不可能。私の式を打たなければ、取ることはできません。と、言うと今度は、絶望の顔色となった。あたりまえです、と続けた。私はもとより、御姫様(おひいさま)に銃口を向けた事は、万死に値します。命があっただけでも感謝して下さい。と、最後には、哀れに思ったのか、私の言葉遣いが、年上に対するそれに戻っていた。



 手短に御姫様(おひいさま)に南国フルーツの彼女の経緯を伝え、他の皆には、適当に元配下の一人だと伝えた。特にそのことについて、(いぶか)しがる人は居なく、ごく自然に受け入れられた。




 艦長が珍しく私とお姉様を呼び止め、一度手合わせをしたいと申し出てきた。なんでも、徒手格闘、体術系は、胸のエラソーなAiアンドロイドと訓練や、日常的に稽古していると言っていたので、得物(えもの)相手にする稽古はとても貴重だからと。

 日常的な稽古ってどんなだろうと少し疑問に思っていたが、お姉様と私は、徒手相手は、勉強になると、新たに作ってくれた、道場で稽古を開始したが、結果は薙刀、長巻がボキボキ折られ、ほとんど勝ち目がなかった。私はもとより、お姉様の薙刀が。あの御前試合の薙刀が、太刀打ちできないことに私もショックだったが、お姉様もショックだった。でも、艦長は、雷撃機乗りの一件で、少し落ち込んでいたから、本調子でないと後で聞いて、もっとショックを受けた。

 その頃だろうか、お姉様が、あの艦長に対する態度が微妙に変わってきたのは。カン?乙女のカンってやつ?でも、私のお姉様がどんどん遠くに行ってしまわれるのは、とっても寂しい。この際、掟があるのだから、私もあの艦長に、お姉様と一緒に・・・。はっ、いけない、何てはしたないエロエロな想像をしてしまったのかしら。

 妄想が、暴走するのを食い止め、折れた、長巻や、薙刀を見ていると確か、この柄は神木から()り出した物のはず。そう思ったとき、あることを思いついた。艦長が、拾い集めている、折れた柄を私が処分しますと言って、柄の束を受取り、居室の自分の部屋に取り込んだ。そして、南国フルーツの彼女を呼び出し、一緒に折れた柄に細工、加工に取りかかった。



 お姉様と艦長と雷撃機乗りのお姉さんと胸のエラソーなAIアンドロイドは、用事があると言って、最寄(もよ)りの惑星に着陸した後一緒に出ていくという、何でも、傭兵の仕事関係と、胸のエラソーなアンドロイドの定期点検と、色々用事があるといっていた、私たちに一緒に行くかどうするか、聞いてきたけど、自分たちは、新しく入ってきた、彼女の為、模様替えをするとか何とか理由を付け、遠慮することにした。特に(いぶか)しがることなく、お姉様一行は街に出ていった。


 見送った後、直ぐ作り置きしておいたある物を用意、そしてある準備に取り掛かった。

 目指すはこの艦の奥に封印した。「付喪神(つくもがみ)」の非活性化。


 今まで、活性化していなかったから、この艦は十分な能力を発揮できたと思う、この付喪神は、物に取りつく神だ、この艦の心臓部に取付いてもおかしくはない。なぜ急に活性化したのか。

 多分、この艦の調子が悪くなったのは、我々がこの艦に乗込んでからだと、この艦の過去ログを見ると、一目瞭然だった、多分艦長は付喪神の事は知らないが、薄々感づいているはずだと思う。でもあの艦長の事、自分以外の事に原因を求めないはず。胸のエラソーなアンドロイドに説得されて渋々、定期検査に連れて行っているくらいだから。

 そう、原因は我々が乗込んできたから。付喪神は人の思念や、生体エネルギーみたいなもので活性化する。そして、言いにくいけれど私の式神もトリガーになってしまったと推測される。だから、私がこの付喪神を非活性化しなくてはならない。

 御姫様(おひいさま)は退治出来ぬのか、とおっしゃった、出来るものならしたいのだが、物に取付いている以上その物の消滅が第一条件、この艦に取付いているのなら、この艦ごと消滅させなくてはならないため、それは不可能。封印も付喪神が活性化している限り、完全ではない、解決策は、非活性化。私は、除霊師でないので、方法は限られている。



 数刻前、私は南国フルーツの彼女が持っている拳銃を胸の間から出させ、弾をすべて抜いた。我々に対する脅威の排除の意味もあるが、それだけではない、代わりに神木から作った魔弾を装填し、式神の印と詠唱を施した。そして、残りの神木を数本、杭状にして残りを組み立て人型にした、そこまでして、私は、御姫様(おひいさま)に今回は、遊び半分ではなく、探検ごっこでは済みませんので、残っていて下さいとお願いした。

 ところが、御姫様(おひいさま)(がん)として一緒に行く、と。そして、一緒に戦うと。いつまでも、守られるばかりでは、みんなに申し訳が立たないと。

 暫く考えそして、神木で作った杭を手渡し、この杭は床に突き立てれれば、ご自分の範囲は結界が張れ、相手に突き刺すと暫くの間、非活性化状態となります。決して、ご自分から、突き刺しに行かないでください。あくまでも護身用ですので。そして、南国フルーツの彼女には、この拳銃の魔弾は相手の動きを止める事ができる。そして最後の一発が非活性化の要の弾になっている、弱体化して、最後にとどめを刺し、そして、私の結界反転でこの人型の神木に封じ込め、置換反転(ちかんはんてん)によってマイナスの残留思念からプラスの残留思念に置き換える。それで、作戦は終了。今まで通りの戦闘艦になるはず、と、この時はそう思っていた。


 そして、前回封印した部屋の前についた。


 封印の札が、今にも取れそうな扉の前に立っている。先頭は私、私の左手には南国フルーツ、二人の後ろには、御姫様(おひいさま)。この陣形で、ゆっくり札を外しにかかった、憑代(よりしろ)として使う神木に印と詠唱を奉りながら、ゆっくり外していった。

 封印は、はずれたものの、エアロックを吹き飛ばして出てくる様子もなく、少し拍子抜けしてしまった。エアロックを解除し、中にゆっくり入っていった。あちこち、古い機器が、ガラクタの様に積み上げられていた。未だに電源が入っているのだろう、所々スイッチや、ボタン、メーターのランプが、ボンヤリ明かりを灯していた。

 どこに行った、と。天井を見上げると、にやり、そう、天井そのものがニヤリと笑った。その刹那、式神を放ち、御姫様外に出て下さい。というのがやっとだった。落ちてきたそれを、放った式神で、弾き飛ばし。すかさず南国フルーツが魔弾を数発撃った。

 生憎どれも外れていたが、御姫様が出口付近で杭を刺しているものだから、丁度付喪神はこの部屋から出ることはできなかった。もう一度、天井に吸い込まれていったそれは、次の攻撃に向け、()()を潜めていた。暫くすると、少しづつ空間が歪んできた、そう、出口の御姫様、隣にいる南国フルーツが歪んでゴム人形の様にいや、人だけでない、この部屋にあるすべてが熱で溶かしたキャラメルの様にドロドロになっていき一つに(まと)まってしまう感覚に陥ってしまった。

 やばい。やばい、やばい、神木があるからと、過信していた。この付喪神は単体の物ではない。何か触媒があって、それにより倍増している、一つ思い当たる節があった。そう、胸のエラソーなアンドロイドに似た、培養液に漬かっていたあの女性。あれがキーなのかも、と。あの女性の思念が触媒となって利用されたのか。

 ならば、と、南国フルーツにありったけの魔弾を撃ち、最後の一発を残しそれを撃つときは、私の合図で撃つように言った。

 そして、人型の憑代を取りだし印と詠唱に取りかかった。あの培養液に漬かっていたあの女性の代わりにこの憑代に強制的に閉じ込めるしかない。杭を数本天井に打ち込み、(いぶ)りだすことにした、天井に杭が刺さったと同時に、また、にやりと天井が笑い、部屋全体が、どろどろになった、魔弾の銃声に包まれた。印と詠唱の終わった人型を放ち、今だ!と南国フルーツに叫んだ。キンと、金属音か、ガラスの割れた音かが、部屋中に響き、元の部屋の状態に戻った。私と南国フルーツは体力が削がれ、その場で倒れ、呼吸が荒くなっていた。人型の憑代はその形が徐々に人の形となり、その形は、いつも見慣れている、あの人と瓜二つとなった。自分でも幻を見ているようで、そんな、バカなと思いながら。意識が遠のいた。




 気が付くと、居室のソファーの上で、南国フルーツと並んで、横たわっていた。御姫様(おひいさま)が、()ぐ近くにいて、気が付いた私に冷たい飲み物と、濡れたタオルを差し出してくれた。恐れ多きことと恐縮して、一気に飲み干すと、今度は、南国フルーツが目を覚ました。私は、同じくお姫様が飲み物とタオルを手渡すのを横目で見ていて、あれからどれくらいたったのだろうか。それと、封じ込めは、成功したのか。最後に見たあれは、本当だったのか。そして、あんな艦の奥から、我々をどうやって、運んだのか。そのことで頭が一杯だったけれど、その答えは艦長の叫び声で、導いてくれました。


 この戦闘艦に帰ってきた艦長一行は、最初に出迎えたそのものに、艦がひっくり返るほどの叫び声で答えた。そう、もう一人の胸のエラソーなアンドロイドが増えたのです、いえ、それはアンドロイドではなく、見た目は同じですが、正体は付喪神なのです、元々、アンドロイドに似た女性を憑代にしていたものだから、そのまま見た目を受け継いでしまった。そういう意味では、封じ込めに成功したと言えるかもしれません。で、置換も成功したから、害をなすものでなく、居室に私たちを運ぶのを手伝う位、艦長をお出迎えする位、とても性善的な付喪神となった。ただ、艦長が叫ぶくらい吃驚(びっくり)なさったのは作戦の内ではありませんが。


 そして私は、艦長に、お姉様に、どこから話せばいいのか、もう一度お代わりを飲み干して、三杯目を注ぎながら考えたのです。


お付き合いくださり、読んでいただき本当に、ありがとうございます。

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