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初めての戦闘

白衣を着たアライグマが勢いよくドアを開け、入ってくると同時に大きな声で叫んだ。

「所長!!トラ族の野生化です!!え、ヒュゴル?!?!?!?!」

こうすけたちを見たアライグマが驚いた勢いで後ろに倒れしりもちをついた。どうやら、今、こうすけとゆうすけの存在に気が付いたようだ。そして、この世界では人間はとても珍しいらしい。

「また犠牲者か。」

ジェムおじさんがつぶやきながら立ち上がった。

「おまえさんらもついてきてくれ」

倒れて、目をパチパチしながらこちらを見ているアライグマを横目に見ながら、こうすけとゆうすけはジェムおじさんのあとについて外に出た。

そこには、数匹のアライグマが研究所を守ろうとトラに立ち向かっていた。四足歩行で大きな牙をむき出しにしてガルル~と威嚇をしているトラは、動物園で見たことがある姿だった。ただ、そのとらは、銀色の甲冑を身に着けていた。

じぇむおじさんは、こうすけとゆうすけの前に立った。大きく片翼を振ると、ぱっと大きな木の杖が現れた。その杖をトラに向かって大きく振りかざした瞬間、杖の先からトラに向かって強い風と光が光線銃のように飛び出した。トラは動きをとめて、その姿のままバターンと横向きに倒れた。

アライグマたちがガヤガヤとトラに近づき、それぞれに杖を出し、トラにかざした。杖先から出た光線でトラを持ち上げ、いそいそと研究所へ運んだ。

こうすけとゆうすけは、固唾を飲んでじっと見ていた。

ジェムおじさんがこうすけとゆうすけにむかって話しかけた。

「あのトラ族のは、城からの遣いの者だろう。魔法の力が弱まり、尽きてしまうと、こうやって野生化してしまうのだ。魔法の力が封印されてから、ああやって国民が野生化してしまう現象が起きている。さっきのトラ族は気絶させただけだ。今、研究員たちが城へ運んでいる。」

「お城?」

ゆうすけが聞いた。

「ドワール城だよ。あそこに見えるだろう。研究所の周りの林を抜けると街に出る。町の中心にドワール王国を治めておられる国王がいるドワール城があるんだよ。あそこに野生化した国民たちを安全に保護しておる。魔法が封印されたのが約40年前。その時に、野生化したのはたった一人だけだった。それから30年、つまり10年前までは魔法の力が封印されたとはいえ、国王の魔法の力でドワール王国は守られていた。残された魔法の力を使うこともできたしな。

だが、10年前から1年に一人ずつ国民が野生化し始めた。今年で10年目、ついに国王が11人目の犠牲者になってしまった。国王が野生化してから、犠牲者が増え始めてしまっている。残された魔法の力で、犠牲者を城の地下で眠らせておるのだ。だがしかし、国王が野生化してしまった今、それもいつまでもつか。」

「ドーン!!」

近くで大きな音が聞こえた。木から鳥たちが一斉に飛び立ち、逃げていく。

「結界の外の音か。結界の力がさらに弱まっているのか。」

ジェムおじさんが、難しい顔をして空を見上げた。

「グリトス!行こう!!おまえさんたちもついてきてくれるか。」


ジェムおじさんについて森の中を走ると、大きなガラスの壁がそり立っているのが見えた。

「見えるか?これが結界だ。ドワール王国を囲っている。結界の外には魔物がいて、そいつらがドワール王国へ入ることはできんし、王国へ干渉することさえできんのだ。ただし、魔法の力を使えるものだけがこの結界を通ることができる。さぁ行こう。」

ジェムおじさんがすっと結界を通り抜け歩いていく。ゆうすけがゆっくり手を伸ばし結界を押すと、何の抵抗もなく通り抜けたので、思わずひっこめた。

「お兄ちゃん」

それを見ていたこうすけはうなずいた。

二人は結界を通り抜け、ジェムおじさんについていった。

ガサガサと木が揺れる音がする方を見ると、こうすけの3倍はある大きさの生き物がいた。ティラノサウルスのような体にこうもりのような羽が生えている。グリトスがグルルルと唸りながら、噛みついていた。ドラゴンだ。

「ストローグアロー」

ジェムおじさんが杖をふり、呪文を唱えるとカミナリがドラゴンを攻撃した。ドラゴンは、一瞬ひるんだが、すぐにこちらへ向き直った。

「おまえさんたち、願うのだ!願いに力が答えてくれる。そして唱えるんだ!」

「唱える?」

こうすけは戸惑った。

「えぇーっと、スターティア!」

ゆうすけは、そう言って右手を前に出すと、赤い炎が現れた。

「おぉー!」

嬉しそうにゆうすけが言い、こうすけを見た。

「熱くないのかよ。」

「全然!」

嬉々としてゆうすけが答える。兄としての責任があり、弟を心配していなければならない僕の身にもなってくれとこうすけは思う。

ゆうすけが出した炎の中心がキラッと光り、剣が現れた。赤い柄の部分がしっかりとゆうすけに握られている。

剣道の竹刀よりずっと軽かった。目の前のドラゴンよりも剣道の城崎先生の方がもっと怖かった。ドラゴンに勝てる、ゆうすけは思った。

「いくぜぇ!」

ゆうすけはドラゴンに向かって走り出した。ドラゴンの少し手前で思い切り踏み切ってジャンプをするとドラゴンの頭の上の高さまで飛び上がった。一番高く上った空中で剣を振り上げ一瞬止った。その瞬間、ニッと笑ったゆうすけをこうすけは見逃さなかった。

「あいつ。」

こうすけは自分の弟の行動に、心配を通り越して呆れた。なぜか、ゆうすけは大丈夫だという直感があった。

ゆうすけは下に落ちる勢いでドラゴンを縦半分に切り裂いた。

ドーンという音とともにドラゴンが倒れたが、よろめきながら起き上がり、ゆうすけに襲いかかろうとした。

「スターティア!」

こうすけは反射的に唱えた。こうすけの右手に水が現れ、その中心から剣が出てきた。青い色をした柄の部分は、しっかりとこうすけの右手に握られていた。

こうすけはドラゴンに向かって走り、今度は横にドラゴンを切り裂いた。

ドラゴンは黒い煙のようになって消えた。

「すげぇ!お兄ちゃん!!」

こっちにむかって走ってくるゆうすけは満面の笑顔だった。

「おまえなぁ。」

「魔法の力ってすげぇ!城崎先生のほうがよっぽど怖いよ。」

二人は目を合わせて笑った。

剣道の指導者の城崎先生はめちゃくちゃ怖い。「ボコボコにすんぞ」が口癖で、時間を守らないとか、挨拶をしないなど、礼儀には特にうるさい。練習も厳しくて、剣先が揺れようものなら、厳しく注意された。ただ、心の底から剣道が大好きで、厳しさの中に優しさがあることを二人はわかっていた。だから二人とも剣道が大好きだった。

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