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始まりの物語

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隣の家から、大きなくしゃみの音がした。

お父さんのような、おじいちゃんのようなくしゃみだった。

「お兄ちゃん、どうするの?ミクミン食べられちゃうで!」

今年10歳になったばかりで、一つ年下の弟のゆうすけが聞いてくる。去年のクリスマスにもらったゲームをしているところだった。

「今、隣の家からくしゃみの音がしなかった?誰かいるのかな」

「隣はだれも住んでいないよ。」

確かにそのはずだ。隣は空き家でだれも住んでいない。人がいるところは見たことがない。こうすけの住んでいるところは、さくら団地といって、数十年前に再開発されてから高齢化が進み、住む人がいなくなった空き家、老人の一人暮らしの家や古い家がとても多い。一方で、こうすけの家族みたいに、古い家を買って引っ越しをしてくる家族や、空き家を新しい家に建て替えて住んでいる家族も増えている。

「おかしいな。そこは右だよ」

ゆうすけはゲームに夢中だ。

日曜は剣道教室の日だけど、城崎先生の都合が悪くて今日の練習は休みだった。お母さんは、2週間前から体調が悪くて入院している。入院する少し前から、ご飯も食べられなくて、動くのもつらそうになっていた。子どものこうすけから見ても、どんどん痩せていっていて、顔色が青白くてとても悪かった。病気については、こうすけとゆうすけが聞いても教えてくれなかった。お父さんもお母さんも大丈夫だよって言っているけど、きっと、大人がよく言う子どもへの嘘だとこうすけは思っている。お父さんは毎日、仕事から帰った後にお母さんのお見舞いに行っている。お母さんはずっと寝ていたから、3歳で幼稚園の年少組に通うのあすかのお世話は、ほとんどこうすけとゆうすけが協力してやってあげていた。あすかをお風呂に入れたり、ご飯を食べさせたりすることは大変だったけど、あすかなりに状況を理解していて、二人のいうことをよくきく。弟のゆうすけは、やんちゃでお調子者の一面があって、学校へ行くときも、剣道へ行くときも、いつもお母さんにゆうすけのことを頼まれていた。こうすけは、直接言われているわけではないけど、長男として二人を守るというプレッシャーを感じていた。

 今日はお父さんのし仕事が休みだから、あすかを連れておかあさんのお見舞いに行っている。こうすけとゆうすけはふたりで留守番をしていた。


 くしゃみのことが気になって庭に出てみると、隣の窓からなにか動く影が見えた。いつもは雨戸が閉まっていて中は見えなかったはずなのに雨戸が開いている。こうすけは不思議に思って、じっと家の中を見た。

 確かになにか動いている。暗い灰色のような、濃い焦げ茶色のような。こうすけはこっそり隣の玄関の前に行き門の扉をあけた。押しただけですっと開いて、まるでこうすけを招きいれているかのようだった。ゆっくりと庭に入った。

 窓をのぞくと、窓のそばの椅子に座って誰かが本を読んでいた。こうすけは驚いて固まった。本を読んでいたのは、人のような姿だが、顔はまるでフクロウだった。大きくまん丸でぎょろぎょろとした目。くちばしのようにとがった口元。頭は丸くて、茶色と白が混ざった羽に包まれていて、まるでフクロウの頭のようだった。

 なによりこうすけが驚いたのは、その大きさがとても小さかったことだ。椅子に座っているが、まるで子どものように小さくて、椅子があまりに大きい。去年の秋に3歳になった妹のあすかと同じくらいのおおきさだった。その影がぱっとこっちを見た。まん丸で黄色く輝く目とこうすけの目が合った、ように感じた。影は何事もなかったように椅子に座ったまま本に視線を戻した。

 しばらくのあいだこうすけは動けなくて、じっとふくろうに似たおじさんを見ていた。すると、おじさんが両手を広げていすから立ち上がった。いや、立ち上がったというより、体に似合わずおおきく長い腕を広げる姿は、まるでフクロウが羽ばたいているようだった。

 こうすけは、見つからないように、バクバクしている心臓を必死に落ち着かせながらこっそりと家に戻った。

「ゆうすけ!!となりにおじさんが住んでる!!めっちゃ変なおじさん!!」

「まじで?」

と言いながら、ゆうすけがこちらの方を振り向く。

「あれ?お兄ちゃん?どこ?」

ゆうすけがきょろきょろと周りをみながらしゃべっている。

「ここにいるよ。どこを見てるんだよ。」

「え、でもお兄ちゃんの声しか聞こえないよ」

こうすけがふっと自分の足元を見ると、あるはずの足が見えなかった。思わず自分の体を見ると、そこにはなにもなかった。体を触ると確かに体はあるが、ないのだ。体があるはずのところに、床のカーペットがはっきり見える。

「え、なんで。」

こうすけが言うと、ふわっとこうすけの体が現れた。

「お兄ちゃん。どういうこと。なんで急に出てきたの。」

ゆうすけがゲームのコントローラーを持ちながらこっちを見て固まっている。

こうすけにもわけが分からない。

「僕にもわからない。」

さっき、隣の家であのおじさんと目が合った時、気づかれなかった。あの時も僕は見えていなかったのか。

「くしゃみの音がきこえたかって聞いただろ。庭に出たら隣の家に誰かがいたように見えたんだ。だから、そぉーっと隣の家の庭に行ってみたんだけど、変なおじさんが椅子に座って本を読んでいたんだ。フクロウに似ていて、あすかくらい小さくて。」

「フクロウ?あすかはまだ保育園だよ。そんなことあるかよ。隣は空き家だよ。さっきも言ったじゃないか。」

「そうなんだけど。ゆうすけも一緒に見に行こうよ。ほんとにフクロウみたいなんだ。」

二人は静かに、隣の門へ向かった。門の扉は、さっきこうすけが出てきたときのまま、開いていた。ゆっくり静かに二人は並んで庭から窓の方を見た。

 確かに人影が見える。あすかと同じくらい小さい。本がとても大きく見えた。そうすけとゆうすけの角度からだと、左側の後頭部越しに本を開いているところが見える。その後頭部がまるでフクロウの頭のように茶色と白の羽が入り混じっているように見えた。

「マジか。」

ゆうすけがつぶやいた。

その時、その人影がぱっとこちらを向いた。

「誰かいるのか。」

「ヤバい、ばれた。」

おじさんが窓を開け、こっちを見て言った。

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