01 「よかった、目が覚めたんだね」
視界を塗りつぶすのは満点の星空だった。
澄み切った空気と雨上がりの香り。
煌めく星が私の目の前に落ちてきて、はじけたと思うと宙がこちらを”見た”。
音のない静かな世界。
ただ、それはこちらをじっと”見て”。
どろどろと手を伸ばしてくる。
余りの美しさに息をのんで、言葉を失っていた。
のばされた手に手を重ねようとした時。
隣にいる先生が私に声をかけた。
「――--」
その言葉が聞こえた瞬間だ。
意識が浮上する。
喉の渇きを感じながら、あたりを見渡した。
視界に映るものすべてに違和感を感じる。
私は知らない部屋にいた。
飾り気の少ないベット、厚みのある本が多く並ぶ本棚。
いくつものまとめられた紙とノートと本が積み重なる机。
どたどたと部屋の外が騒がしくなる。
勢いよく扉を開けた男は私を見ると安心したように声をかけた。
「よかった、目が覚めたんだね」
見覚えのない人だ。
黒ですこし癖のある髪に薄茶の瞳がこちらを見る。
シンプルめの黒を基調にした服装はおそらくそういったことに興味がないのだろうか。
誰。と言う前に抱きしめられた。
人の温度で体の輪郭を思い出す。
彼は私の肩に手を置いて確認する。
凄く心配そうな声色で怪我がないか問いかけてきた。
けれど触れて怪我がないと気づけば「顔色が悪そうだからまだ横になっていた方がいい」と、そっと肩を押してベットに横たわらせてくる。
「あ、の」
喉の水分がないせいでかすれた声しかでなかった。
その声をきいて「ああ」と背負っていた黒いリュックから、シンプルなペットボトルを渡される。
そのまま口につけ喉を潤す。
味になじみ深さを感じる。水ではないこれはスポーツの時に呑む清涼飲料水の味。
半分くらい入っていたそれを飲み終える。
空になったペットボトルを見ていると彼は手を出した。
何の手だろうと思って、手を重ねる。
彼は苦笑して手に持っていたペットボトルをとった。
「捨てておくよ」
そっと立ち去ろうとする腕の裾を掴む。
親し気な彼に私は。
「はじめまして」
といった。