第九十四話 水の祈りと三礼祈願
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紫色の霧の回廊の中に光の廊下が見えている。
何本もの光が糸状になって奥の闇の中に伸びていた。
朝霧美夏の自慢のポニーテールが回廊の中で光っている。
星乃紫、昼間夕子のロングヘアも同じだった。
女性教師三人のスカートスーツが霧の中で浮かび上がって見えていた。
「夕子、これめちゃくちゃヤバくない 」
「美夏、分からないけど、多分大丈夫よ 」
「そうね、夕子先生の言うとおり大丈夫よ。だって巫女たちが通って無事だったじゃない 」
「さすが、紫先生は頭の回転が違うわね 」
夕子は、そう言って言葉を切った。
「だけど、この回廊を歩くわけ。 先しか見えない戻れない回廊よ 」
夕子は続けた。
「あそこに誰か見えるけどーー 」
美夏が大きな声を上げ手を振った。
光の回廊の先に見えた女性も気付き手を振っている。
しばらくして、夕子たち三人は回廊の先に見えていた巫女姿の女性と合流した。
「あら、もしかして花園舞さん 」
「はい、保養所の入り口で迷っていたら、ここに迷い込んでーー 」
星乃紫が思考を咀嚼しながら言った。
「花園さんと会えたことでこの回廊の活路が見えそうよ 」
「私は、皆さんと違ってただの巫女ですから 」
「そこよ。巫女のあなたがいることが不幸中の幸いなの。ここは、おそらく現世じゃないので 」
巫女の花園は星乃紫の言葉に首を傾げて言った。
「私は神主さんと違って裏方ですよ 」
「でもね、花園さん、巫女には宿る霊力があるでしょう 」
「星乃先生、何かの御伽噺ですか 」
花園は不機嫌な表情を浮かべている。
「ところでここは、何処ですか。 昼間先生 」
夕子は唐突な花園の質問が分かっていたように花園を見つめ言った。
「前に帝の時代にタイムスリップしたことを思い出すと、これは違うわ 」
「夕子、どう言う意味 」
「美夏も紫も覚えているでしょう 」
「覚えているわ 」
美夏の言葉に紫も首を縦に振る。
紫が言った。
「あの時は、一瞬の出来事だったのよ。でも今は違う 」
「紫、そこよ。過去と未来の違いがあるのかも 」
美夏が夕子に尋ねる。
「でも変よ。過去から戻った時も一瞬よ 」
「美夏、おそらく経験したルートと未経験ルートの違いじゃないかしら 」
二人の会話を聞いていた星乃紫が言った。
「じゃあ、ここは別次元に繋がっているの 」
「分からないわ。ただ私たちが時空の廊下の中にいることは確定済みね 」
「夕子、でも分からないのよ。出口がね 」
昼間夕子は腕組みして花園舞に尋ねようとしたが・・・・・・。
「星乃先生、花園さんは 」
「さっきまでいたけど 」
美夏が遠くを指差して言った。
「みんな、あれを見て 」
時空回廊の先が歪んで見えている。
「回廊の光の糸もぼんやり霞んでいるわ 」
「夕子、やっぱり花園さんの姿が見えないわね 」
[ゴゴーゴゴー ]
「なんか変よ 」
「地鳴りかしら 」
「まさか 」
[ゴゴーゴゴー ]
時空回廊の紫色の濃い霧が輝き始めた。
朝霧美夏が忽然と消えた。
そして、星乃紫、昼間夕子が続いて消える。
三人は、強い衝撃で神聖神社の境内に押し出された。
⬜︎⬜︎⬜︎
「ーー 誰か、倒れているわよ 」
神社の巫女が大声で叫んだ。
「ああ昼間先生、星乃先生、朝霧先生 」
駆けつけた巫女は花園舞だった。
⬜︎⬜︎⬜︎
「夕子は何処じゃ 」
三日月姫が従者未来に言った。
「それが、十二人の巫女が出て来た時空回廊にーー 」
未来は、三日月姫の前でその方向に指先を向けた。
「未来、妾は夕子のところへ参るでござる 」
「姫さま、それは危険でござりまする 」
三日月姫姉妹と従者未来は東富士見町保養所の前で、口を開けている時空回廊を見上げた。
時空回廊が見えいるだけで入り口は見えていない。
入り口は存在していないのだ。
未来は目撃者の夢乃神姫に事情を尋ねて腕組みした。
ヒメの隣にいる安甲次郎神主は首を横に降り仕草で示し言った。
「未来さま、時空回廊が不安定で危険です 」
[ゴゴーゴゴー ]
保養所の左上の高さに巨大な紫色の渦が見えている。
夕子たちが消えてからずっと変わらない渦があった。
渦の中から時より光がサーチライトのように放射していた。
「神主さん、あの白い光が先生たちを呑み込んだんです 」
ヒメは紫色の渦を睨んで言った。
神主はヒメの言葉を理解した。
「その光の悪戯が原因なら此処は危険な場所になる 」
「神主さんの言うとおりです 」
「ここから離れるのが一番だが昼間先生たちはちょっと特殊体質なので難しいかもしれない 」
「じゃあーー 」
「そう言うことを考え合わせるとーー 場所が大きな意味を持たなくなるのだ 」
安甲次郎神主の指摘は概ね正しかった。
従者の未来が神主に尋ねた。
「三日月姫が夕子を探して嘆いているのでござりまする 」
「未来さん、お気持ちはわかりますが人間の力では限界がございます 」
「では、未来があの忌々しい時空回廊に行くでござりまするが 」
「そんな、無茶なことはこの安甲が看過出来るわけがございません 」
従者の未来は煮えきれない神主の態度に辟易して不機嫌な表情を浮かべた。
神主の兄の一郎が、傍に駆け寄り耳打ちする。
「それは秘術で成功の保証が難しい 」
従者未来が尋ねた。
「その秘術とは 」
「本来は災いを鎮めるために、陰陽師に口伝で伝わる詠唱ですが危険としか言えません 」
「分からないのでござりますが 」
「目の前で起きていることは時空の歪みです 」
「はい 」
「本来は歪みを修正する祈りが正しいのですが、逆をすれば歪みが大きくなるでしょう 」
「そして、どうなるのでござります 」
「歪みが拡大して時空回廊が大きくなれば入り口が目の前にーー 」
「目の前になんでござりますか 」
「はい、伸びてくるやも知れませんが分かりません 」
従者未来はやや機嫌を取り戻して言った。
「神主さん、是非、三日月姫の願いを聞き入れてくれぬか 」
神主の安甲次郎は兄の一郎を見て言った。
「少しだけ、時間を貰えませんか。未来殿 」
三日月姫姉妹が従者未来の元に来て言った。
「帝に女神召喚をお願いするのはどうじゃ 」
「姫さま、女神召喚でござりますか? 」
⬜︎⬜︎⬜︎
神聖神社の境内で気絶している三人を目の前に巫女花園舞が祈りを捧げた。
他の巫女が花園に言った。
「その祈りは陰陽師の秘術じゃないですか? 」
「ここから先は他言無用でお願いします 」
花園舞は印を結び、小さな結界を作った。
辺りの空間に金粉が舞った。
花園舞は「水の祈り」を三人の女教師に向けて捧げる。
「清らかに眠るすべての水の魂に捧げ奉る・・・・・・ 」
花園は深く三礼に三拍手をして神さまに祈りを捧げ一礼した。
その刹那、気絶していた三人の顔色に赤みが差し込む。
「あら、花園さんーー 」
「夕子さん、良かった・・・・・・ 」
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三日月未来




