第九十三話 時空回廊の悲劇
『女子高生は大統領』155話に昼間夕子の登場シーン。
以下に抜粋。
『文化会系じゃないかしら。
ーー それで、思い出したのですが新しい先生が今期から赴任します。
ーー 昔、この学園にいた先生の末裔とか。
ーー 母がお世話になった財閥の令嬢とか聞いているわ』
「康代さん、それって三大財閥じゃないですか? 」
『あら、光夏、さっきはありがとうございます』
「徳田、昼間、日野でした? 」
『昔の話ね。今はそう言う形態はなくなったのよ。
ーー でも、そう、その先生、昼間とか言っていたわね。
ーー 専門科目は古典とか言っていたわ。
ーー モデルもしている美人教師よ』
「その先生、よほど神聖女学園にご縁があるのね」
『私が聞いている情報では、その先生、サイキッカーとか』
※『女子高生は大統領』159話から162話に『かぐや姫は帰らない』の面々が登場しています。
(※『かぐや姫は帰らない』と『女子高生は大統領』の時代設定が過去と未来の関係。
舞台は同じ神聖学園です)
酒田昇の半歩後ろを巫女の如月が随伴して歩いていた。
東富士見町保養所に通じる緩やかな坂道の歩道が、夕方の柔らかな太陽に照らされている。
夕子が選んだ白いワンピース姿の如月は、巫女に見えなくなった。
色白の肌に黒漆の長い髪が、どことなく浮世離れして見えるだけだ。
昼間夕子は目の前を歩く二人の歩行速度に驚いた。
隣を歩く星乃紫に尋ねた。
「星乃先生、昔の人って、あんなに足が速いのですか」
「わたしたちと違う歩き方をしていますね」
「と言うと・・・・・・ 」
「聞いたことあるーー なんば歩き? 」
「知らないわ」
「今の日本人が西洋歩きになる前の伝統的な歩き方よ」
「・・・・・・ 」
星乃紫は、夕子にわかるような仕草をしてみせた。
星乃は両手の掌を自分の太腿の上に置いて歩いてみせた。
「昼間先生、わかりましたーー そうすると、足と腕が連動して、同じ動きになるでしょう」
星乃は巫女の如月を指で指して続けた。
「昔の日本人は、みんなこの歩き方だったのよ」
「じゃあ、飛脚も」
「そうなるわね」
「お江戸日本橋と難波日本橋を走ったーー あれね」
「でも、それは、なんば歩きじゃなくーー なんば走りね」
「陸上に採用したら大記録がでそうな話で、わくわくするわ」
夕子と星乃が会話している間に、如月と酒田の後ろ姿が遠ざかっていた。
「昼間先生、私たちもなんば歩きで前の二人に追いつきましょう」
「わかったわ。見様見真似で頑張るわね」
⬜︎⬜︎⬜︎
夢乃真夏の兄の夢乃神姫が息を切らしながら昼間に追いついた。
「ヒメ、なに息切れしているの」
「だって先生たちーー 急にピッチ上げて置いてきぼり、嫌じゃないですか」
「ヒメ、私も星乃先生も普通に歩いているわよ」
「先生、普通じゃないですよ。宇宙人みたいに速いです」
「ヒメは宇宙人見たことあるの」
「先生、鬼の首取らないでください」
「ヒメは鬼なんだ」
昼間と夢乃神姫のやり取りに呆れ果てた星乃が助け舟を出した。
「昼間先生と私は、巫女の如月さんに追いつくため、昔のなんば歩きを始めたのよ」
「先生、ナンパ歩きってーー なんですか」
「ヒメ、ナンパじゃなくーー なんばと濁るのよ」
星乃は、ヒメになんば歩きの基本を教えた。
「ヒメ、良かったね。星乃先生に直接教えてもらって」
「昼間先生、嬉しいです」
「じゃあ、ヒメは星乃先生に足を向けて寝れないわね」
昼間は小声で笑ってヒメの坊主頭を思い切りさすった。
「先生、どさくさに紛れて頭をグリグリしないでくださいよ」
「悪いわるい、たわしのようなザラザラ感が試してみたくて」
昼間の言葉に刺激された星乃が昼間を真似てヒメの頭を撫でた。
「本当、ザラザラ感ーー いいわね」
「先生には、借りがありますからなにも言えませんが・・・・・・ 」
「語尾の余韻が変よヒメ」
「星乃先生も昼間先生みたいですよ」
朝霧美夏が追いついて、ヒメの頭を撫でた。
「本当、ヒメの頭、ザラザラ感がいいわね」
「先生、でも、ティーシャツ着る時、引っかかって大変なんですよ」
「じゃあ、わたしがヒメの頭を剃って上げようか」
女教師三人が不吉な笑みを浮かべて夢乃を見つめている。
獲物を見つけた時のように瞳がギラギラしていた。
ヒメは、まな板の鯉である事を自覚して諦めることを心の中で決めた。
⬜︎⬜︎⬜︎
背後から聞き覚えのある男の声がした。
安甲神社の神主と、その双子の兄だった。
夢乃は、その声に救われた気がしたのも束の間だった。
昼間夕子の助言で夢乃は絶対絶命のピンチに遭遇した。
「神主さん、ヒメの頭を剃髪する良い方法ありますか」
「そうね、中途半端より無い方が男らしいね」
「そう言うもんですか」
「髪は無い方が集中力も増すし邪気も宿らないね」
昼間、星乃、朝霧の女教師三人が大きく頷き夢乃神姫を囲む。
「先生、もうご勘弁くださいよ」
「ヒメ、お願いする時の語尾に“よ”は駄目ね」
神主が言った。
「まあ、いいじゃないか今日はーー 剃髪は神社でするから問題ないから」
「ヒメ、神主さんもーー ああ言っているから、今日はお預けになるわね」
「・・・・・・ 」
「それにヒメの周囲で起きた超常現象もあるし、神社でお祓いも必要ね」
夕子は神主に確認した。
「安甲神主、予定が分かったら教えて頂けますか」
「昼間先生、立ち合うのですか」
「滅多に見れないイベントじゃないですか」
星乃も朝霧も昼間の言葉に大きく頷き、ヒメのザラザラ頭を撫で合掌した。
⬜︎⬜︎⬜︎
東富士見町保養所のミラーガラスの玄関前に、御坂恵子チーフディレクターと斉藤由鶴司令が昼間たちの到着を待っていた。
徳田理事長と山下瑞稀の姿も見える。
「あら、どうしたのかしら」
夕子の不安げな声が漏れる。
御坂が夕子に駆け寄り耳元で言った。
「巫女たちが出て来た時空トンネルが開いたままなの」
「ええええ」
「それだけならいいけど、紫色の渦が大きくなって雷鳴が聞こえて気持ち悪いわ」
御坂の説明を聞いた女教師三人は、十二人の巫女が現れ出た時空回廊の方向を眺めてみた。
東富士見町保養所を包み込む勢いで大きくなっている。
「夕子さん、危険じゃないかしら」
「分からないわ。御坂さん、斉藤司令なら未来のことが分かるかも知れないわ」
しかし、斉藤は夕子の言葉を聞いて首を横に振って見せた。
「じゃあ、徳田理事長は」
徳田も斉藤と同じ反応だった。
⬜︎⬜︎⬜︎
昼間夕子は大きな声を上げて叫んだ。
「みんな、あれは時空間トンネルよ。未来か過去かは分からないわ。万が一の時は何処かで合流しよう」
夕子の声は轟音にかき消され、時空トンネル回廊の中に吸い込まれた。
星乃紫、朝霧美夏の二人も夕子と一緒に消えた。
御坂恵子と斉藤由鶴は、一部始終を目撃して地面にへたり込んで動けない。
⬜︎⬜︎⬜︎
「夕子、美夏、何処にいるの」
「紫、美夏、ここよ」
「なにも見えないわよ。夕子、紫」
[ゴゴーゴゴー]
地鳴りのような音と共に大きな紫色の渦は小さくなり消えた。
東富士見町保養所の玄関前に昼間夕子、星乃紫、朝霧美夏の買い物袋が散乱している。
夢乃神姫は、泣きながら、先生たちの買い物袋の中身を拾い集めた。
神主が夢乃の背中を優しく摩って言った。
「昼間先生たち、きっと生きているから大丈夫だよ。夢乃君」
「神主さん! 」
大声で泣く昼間夕子の生徒の坊主頭を神主は撫でた。
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三日月未来




