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第八十二話 そこはかとなく不安がしこりのように

『第八十二話 そこはかとなく不安が痼りのように』

約二千百七十文字です。

 翌朝、徳田理事長は急用を思い出し、秘書の山下瑞稀(やましたみずき)を連れて保養所地下のヘリポートに向かう。


「斉藤さん、お手数をかけるわね。

ーー あとで御坂さんに連絡するわ」


「分かりました。理事長」


 斉藤由鶴(さいとうゆづる)司令が司令室のスタッフに伝え、地下入り口のステンレスドアのロックが解除された。

冷たい金属音が響く。


[ガッチャ]




「理事長、お天気は申し分ありません。

ーー 飛行ルートは、どうされますか」


「茨城国際空港第二ターミナルでプライベートジェット機に乗り換えます」


 山下が理事長の言葉のあとを引き継ぎ斉藤に説明した。


「昼間社長のご好意で、新潟空港、仙台空港を経由して、こちらに戻ります。

ーー 日程は、最短で明後日に戻れます。

ーー 今夜は昼間新潟保養所に宿泊。

ーー 明日は昼間仙台保養所に宿泊します」




 山下の説明が終わる頃、パイロットが合流した。


「山下さん、パイロットも合流したので行きますか」


「はい、理事長」


 地下ヘリポートの赤い遊覧ヘリに搭乗してまもなく、天上が開き、ヘリコプターが地上に顔を出す。


「理事長、離陸準備出来ました」


 ヘリは水戸保養所第二号棟を離れた。




 徳田理事長は、新潟と仙台に学園都市を計画していた。


「理事長、新潟と仙台って特異点じゃありませんか」


「そうね、山下さん、東都や大都と同じ特異点ね」


「じゃあ、地震リスクが高くありませんか」


「だから、あの街には近代的な学園都市が必要なの。

ーー 万が一の災害で子どもたちが犠牲にならないように」


 徳田は言葉を切り、眼下に光る霞ヶ浦の湖面に目を細めた。


「理事長、もうすぐ第二ターミナルですが」


「じゃあ、プライベートジェット機の近くに降りてくれますか」

 理事長の言葉に、パイロットの小気味良い返事が聞こえて、山下がパイロットに微笑んでいる。


 徳田理事長と山下瑞稀は、茨城国際空港第二ターミナル前のヘリポートに着陸してプライベートジェット機に乗り換えた。


 ジェット機は、誘導路(タクシーウエイ)から滑走路に出て飛び立つ。




 シートベルトサインが消えて、プライベートジェット機の客室乗務員がお茶を運んで来た。


「あなたたちも、今夜は新潟保養所に宿泊よ。

ーー 茨城空港に戻るまでお世話になりますからよろしくお願いします」


 徳田理事長の言葉にキャビンアテンダントが深々と挨拶していた。

ジェット機は新潟第二空港に到着して青いヘリで保養所に移動する。


 翌日、新潟第二空港で再びジェット機に乗り換え仙台第二空港を目指した。

第二空港は徳田財閥のプライベート空港になっている。




 その頃、昼間夕子は、父の功、母の輝子と一緒に十四階の社長室にいた。


「夕子たちも、あの光でタイムスリップしていたのね」


「あれは、ほぼ強制だったのよ。お母さん」


「そうね、避けられないわね。選ばれた者には」


 輝子は、昔を振り返るように言った。

父の功も、輝子の言葉を噛み締めながら部屋にある大きなイラストを見ていた。


「お父さん、このイラスト、富士山保養所から持って来たの」


「持って来た覚えは無いのだが、私のいる所に現れる」


「じゃあ、このイラスト、生きているわけ」


「夕子も、そう思うのか」


 昼間功は、昔の出来事を話し出す。


「あれは、二度目の出来事だった。

ーー 春雄兄さんと輝子でイラストの前にいた時だった。

ーー イラストから光が溢れて気を失った。

ーー 気付くと大昔の安甲(あきの)神社の境内だった」


 夕子は、頷きながら父の話に耳を傾けていた。


「ところが、一緒にいたはずの春雄兄さんだけが消えて、輝子と私だけがいた。

ーー 神社の神主も見ていない。

ーー 戻れた時、春雄兄さんはいなかった。

ーー あれから会えていない」


「お父さん、やっぱり、このイラストヤバイよ」


「夕子たちが戻れて、帝や三日月姫姉妹、未来、零もいる。

ーー 悪いことばかりじゃない」

功はそう言って小さな溜息を吐く。


「お父さん、春雄伯父さん、もしかして時空か次元の落とし穴ですか」


「もしもそうなら生きていない。

ーー 私は、春雄兄さんが異世界に飛ばされたかと考えたい」




 輝子は、夕子を抱きしめ乍ら言った。

「あなたが無事で良かったわ。

ーー ところで夕子、私たちの孫を早く見たいわ」


「お母さん、私はまだ独身よ」


「そうね。じゃあ、お見合いしましょう」


 輝子はお見合い写真を夕子に見せた。

そこには、酒田昇の写真があった。


「夕子、お父さんが身辺調査をさせて、残ったのが酒田さんだけだったのよ。

ーー 彼なら夕子のお婿さんにピッタリよ。

ーー 血液検査データで遺伝子も正常ね」


 夕子は母の矢継ぎ早の説明に閉口していた。


「輝子、夕子が困っている。少し考える時間が必要だよ」


「お父さん、ありがとう。即答は出来ないわ」




 三人の家族会議中に昼間秋生会長が、御坂恵子と一緒に入室した。


「徳田さんたちは、今夜仙台保養所に泊まって明日、こちらに戻ります。

ーー 徳田理事長の学園都市計画が、未来情報の流れに沿って動いているようです」


「御坂さん、ありがとうございます」

 御坂に礼を言った功社長は秋生会長を見ていた。


 五人の目の前で大きなイラストが刹那、発光したかに見えた。

光が消えて安堵する五人だったが、そこはかとなく不安が(しこ)りのように残る。




 ピンク色のワンピース姿の夢乃真夏が十四階の扉をノックして入って来た。


「夕子先生、夕食ですが」


「真夏ちゃん、ありがとう。今、行くわね」


 秋生、功、輝子、御坂も夕子と移動しようとした時、イラストが再び発光を始めた。

 『第八十二話 そこはかとなく不安が痼りのように』

約二千百七十文字です。


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三日月未来(みかづきみらい)

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