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第八十一話 三日月姫、今宵は皓月になるのじゃな

『第八十一話 三日月姫、今宵は皓月になるのじゃな』

この話は、二千七百文字になります。

 夢乃真夏と神姫[ヒメ]は、保養所のインターネットニュースに釘付けになっていた。

斉藤由鶴が未来から得た情報通りになって、兄妹は顔を見合わせた。


 昼間秋生会長の指示を受けた防災庁の避難命令で犠牲者がひとりも出ていない。


「真夏、この国の防災網は凄いよね」


「ヒメ兄、知らないの?

ーー この避難は、ここの斉藤さんのお陰よ」


「ええ」


「斉藤さんが、持ち帰った未来の三大事件の一つなの」


「真夏、三大事件って」


「富士箱根とフォッサマグナ」


「あとは、なに」


「それが、よくわからないのよ」


「その二つは、今の時代でしょう」


「斉藤さんしか、知らないわ」




 斉藤由鶴司令は、御坂恵子チーフディレクターに用事があって十三階の昼間夕子の部屋を訪ねた。


 二人とも紺色のスカートスーツにハイヒールを履いている。

ジャケットの下から明るいピンクシャツが覗く。

 水戸保養所がスタッフのために準備していた制服だった。


 夢乃真夏、白石陽子、日向黒子、白石式子、三日月姫姉妹、未来、零の女性たち八人には、会長の指示を受けた御坂が着替えのワンピースを数週間分用意している。

 すべては、斉藤の未来情報に会長が準備を重ねた結果だった。




「斉藤さん、何か」


「ええ、実は、まだ、もう一つがあるかもしれません」


「なんでしょうか」


「それは、これから先の未来です。

ーー さすがに電話じゃ出来ません。

ーー 私も徳田理事長も未来で遭遇しています。

ーー ただ、私の場合は、更に先があります」


「それってーー 会長はご存知ですか」


「いいえ、未来過ぎて伝えるのを(はばか)ります」


「どのくらいですか」


「徳田理事長との遭遇時期は、今から二十年後でしたが、

ーー もう一つの方は、更に百年後になります」


「なにが起きたのですか」


「はい、大江戸火山の噴火で政府が倒れました」


「そんなことって。

ーー 今は、大政奉還から百八十年、二十年後なら二百年

ーー 更に百年あとでしょう」


 御坂恵子は指を折るジェスチャーをしながら言った。

「三百年ね」


「はい、御坂さん、その時代と思われます」


「そして、どうなるの?」


「私が見たのは、そこまでで」


「もうないの」


「徳田家から大統領が誕生していました。

ーー それが女子高生です」


「そうね、政治に年齢の垣根は不用ね」


「で、この話、どうしますか? 」


「徳田理事長もいるし、会長もいるから会議してみましょう。

ーー 将来に備えて」


「なるほど、御坂さん、じゃあとで」




 斉藤由鶴との会話を終え御坂は、真夏とヒメがいる窓際のソファに歩み寄る。


「どう、水戸保養所、慣れた」


「御坂さん、さっき斉藤さんとお話ししていませんでした」


「聞こえたの」


「いいえ、流石にここまでは聞こえていませんが

ーー 斉藤さんに聞きたいことがあったので」


「じゃあ、私が聞くわね」


「御坂さんにですか」


「斉藤さんから、少しだけ聞いているわ」


 ヒメが興奮した様子で御坂に尋ねる。


「実は、三大天変地異です」


「なるほど・・・・・・ 」


「御坂さん・・・・・・ 」


「夢乃君、それは、今は言えないの。

ーー だって、この時代には起きないから」


「御坂さん、分かりませんが」


「二つだけなの、この時代では」


「じゃあ、三つ目があるんですね」


「規模は知らないわ」


「どこですか」


「大江戸火山よ」


「御坂さん、大江戸に火山なんかありませんよ」


「今は、ね」


 夢乃神姫と御坂恵子の会話を横で聞いていたピンク色のワンピース姿の真夏がヒメに言う。


「ヒメ兄、悪い癖よ。御坂さん、お仕事中よ」


「分かったよ。真夏。

ーー 御坂さん、お時間取らせました」


 夢乃兄妹は、御坂にペコと軽い会釈をして窓際に去った。




「真夏、悪かったよ」


「お兄ちゃん、知っても仕方ないことあるでしょう。

ーー 御坂さんたちなら人助けができるけど、

ーー 私たちの立場じゃ無理があるわ」


「そうだな、じゃあ、学者になるか」


「ヒメ兄、いつから学者志望になったの」


「今からだ」


「じゃあ、文芸部はどうするのよ」


「うん、科学作家もいいかも知れない」


 真夏の大笑いを聞いた昼間夕子が真夏に声を掛けた。


「先生、聞いてください。

ーー ヒメが科学作家だって」


「ヒメ、科学で何か書きたいことあるのか」


「天変地異を題材にした科学者の物語か何か」


「発想はいいけど新しくないな。

ーー 昔、異世界ブームの時は異世界だらけになってな。

ーー 大賞は別ジャンルが(さら)ったとか」


「先生、やっぱり競合(ひし)めくジャンルよりスカスカが有利ですね」


「ヒメ、スカスカは人気がないから読まれないリスクも覚悟することになる」


「じゃあ、人気がそこそこあるジャンルですね」


「そうだな、私だったら、推理小説を選ぶが」


「先生は、古典派ですよね」


 真夏がヒメを睨んでいる。


「先生、すみません。

ーー 真夏が睨んでいるので、お手洗いに退散します」


 ヒメが消えて、夕子と真夏は笑いを必至で堪えていた。




 御坂恵子から連絡を頂いた山下瑞稀と徳田理事長が十三階のラウンジを訪問した。

斉藤由鶴も同席することになっている。


「御坂さん、斉藤さんは? 」


「理事長、まもなくと思います」


 昼間秋生会長と昼間功社長が螺旋階段を降りて来た。


「徳田理事長、お待たせしました」


 会長と社長が挨拶しているころ、斉藤がラウンジに入ってくる。


「すみません。みなさん、遅れました」


「斉藤さん、まあ、座って」

 昼間社長が言った。

 昼間春雄の社長代理だった功は社長になっていた。




 斉藤由鶴が、徳田財閥の理事長と昼間財閥の会長と社長に知る限りの情報を提供した。


「昼間会長、神聖学園都市建設は、大江戸火山から離れています」


「そうですね。首都機能移転も可能なエリアです。

ーー 今後のこの国をリードするのに良い機会です」


「この件は、企業秘密扱いにしませんか」


「徳田理事長、その先を見ての見解と理解してよろしいでしょうか」


「はい、歴史から消える者たちに同情は必要ありませんわ。

ーー 徳田財閥は歴史の判断に従います」


「昼間財閥も徳田理事長のご判断を尊重します。

ーー 現政府と癒着が噂されるもう一つの財閥はどうされますか」



「私たちが、ここでお話ししていることは、

ーー 一般的には超常現象の類ですから口外は出来ません」


「なるほど・・・・・・ 」


「御坂君、このあとの予定は」


「しばらくは、水戸保養所で缶詰めかと思われます」


「大江戸都心部の被害は」


「今回の富士箱根の影響はございません」


「じゃ、今夜も帝たちとの酒宴を準備ください」


「子どもたちは、? 」


「問題ないでしょう。今は」




 昼間会長と徳田理事長は十三階の窓から南西方向に見える富士山を眺めていた。


「三日月姫、今宵は皓月(こうげつ)になるのじゃな」

 帝が三日月姫に微笑みながら言った。


「帝殿、わらわは、お月さまより今宵の地酒が気になるのじゃよ」


「三日月姫さま、今宵は筑波山の地酒でござります」


「未来、それはどんな味じゃ」


 三日月姫の生まれ変わりの星乃紫が、前世の従者未来の耳元で呟いた。


「三日月姫さまの好みでござりまする」


「未来、夜が待ち遠しいのう」

 『第八十一話 三日月姫、今宵は皓月になるのじゃな』

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三日月未来(みかづきみらい)

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