第八十話 帝さま、三日月姫さまからケーキでごじゃりまする!
『第八十話 帝さま、三日月姫さまからケーキでごじゃりまする!』
約二千二百文字です。
三日月未来
徳田財閥の遊覧専用ヘリコプターは、当初の予定を変更して利根川沿いに霞ヶ浦方面に飛行した。
「理事長、まもなく茨城国際空港ですが」
「分かったわ。山下さん。
ーー 第二空港に寄ってもらえますか」
「はい、そのつもりです」
秘書の山下瑞稀は、理事長に答えたあと、予定を説明した。
「第二空港に寄り、休憩をします。
ーー そのあと昼間財閥の水戸保養所に戻ります」
「山下さん、保養所まではどのくらいでしょうか」
「御坂さん、目と鼻の先くらいですから問題ありません」
御坂恵子は、予定時刻を確認して、司令責任者の斉藤由鶴に携帯から連絡を入れる。
「ーー 御坂さん、分かりました。
ーー その予定でお待ちします」
赤い機体のヘリは高度を下げ茨城国際第二空港のターミナルビルの屋上に到着する。
「みなさん、ではカフェで休憩しましょう。
ーー 徳田財閥のカフェですからすべて無料になります」
「山下さん、じゃあケーキも無料なの」
「真夏さんでしたね。すべて無料よ。
ーー 請求されたら、この山下が対応するわ」
山下は真夏にそう言って他の参加者を見回した。
夕子が手を挙げて山下に質問している。
「どのくらいの休憩時間ですか」
「三、四十分くらいを予定します」
「えええ、じゃあ沢山食べられないわ」
真夏がほっぺ膨らませて山下を見て言う。
「真夏さん、大丈夫よ。
ーー ケーキはお持ち帰りできるわよ」
山下の言葉に真夏が満面の笑みを浮かべ、上級生の白石陽子と日向黒子を見た。
女たちは、オーダーを済ませると、カフェのお手洗いに足早で向かう。
ホテルの大きな洗面室を彷彿させる大理石の床が鏡のような光沢を放っている。
夢乃真夏が驚きを隠せず興奮して白石陽子に言った。
「この床、エッチな床ね」
「本当だ。ミニスカヤバイわよ」
真夏と白石の会話に最上級生の日向黒子が呆れていた。
星乃、朝霧、夕子は聞こえていない振りをした。
「さあ、みんな、戻るわよ」
体育教師の朝霧が引率教師さながらに、生徒を身張りながら声を上げた。
カフェに戻った夕子が違和感に気付き山下に尋ねる。
「山下さん、ここ私たち以外に誰もいませんが」
「夕子さん、第二空港はね。名称だけなの。
ーー 実際には徳田財閥のプライベート空港なの」
「それで、屋上に到着出来たんですね」
カフェの南向きの強化ガラスから強い日差しが差し込む。
従業員が、ブラインドのリモコンスイッチを操作してブラインドを下げている。
夢乃真夏、白石陽子、日向黒子は、それぞれお持ち帰りの袋を頂いて満足な様子。
「じゃあ、みなさん、忘れ物ありませんね」
山下の言葉に真夏がテーブル付近をもう一度見て右手の親指を立てた。
遊覧ヘリコプターは、第二空港を離れ、鹿島港から大洗沿いの鹿島灘を北上して、笠間市と水戸市の中間にある昼間財閥水戸保養所を目指して飛行している。
「山下さん、今日は、お天気良くて良かったわ。
ーー 戻ったら、御坂さんと今後の予定を相談してください」
「分かりました。理事長」
徳田理事長の言葉を逆らうかのように雲が湧き始めていた。
御坂恵子チーフディレクターは、斉藤由鶴司令に連絡を入れた。
「斉藤さん、二号棟前の地上ヘリポート、空いていますか」
「明日から、下り坂なので、その方がいいわ。
ーー ちょっとだけ待って」
斉藤は、パソコン画面をタッチして使用状況を確認した。
「御坂さん、一号棟も二号棟も大丈夫よ」
「斉藤さん、二号棟でお願いします」
「御坂さん、じゃあ左側の三番ポートに着陸をお願いします」
ヘリポートには、左側から順に通し番号付けられている。
赤色の遊覧ヘリコプターが三番ポートに到着してプロペラが停止する。
斉藤司令がヘリポートの昇降レバーを操作した。
ヘリの真下の地面がゆっくり地下に沈む。
ヘリが完全に隠れたあと地上部分の屋根がスライドして閉じた。
御坂恵子が、携帯から斉藤司令に到着を報告している。
「御坂さん、地下の通用口の入り口から二号棟の中にお入りください」
「ありがとうございます。斉藤司令。
ーー これから移動します」
富士保養所司令室の斉藤由鶴は、その立場から斉藤司令と呼ばれていた。
御坂と山下は、土産袋をカートに置いてスタッフに渡した。
「分かりました。のちほど十三階にお届けします」
「御坂さん、私の分までありがとうございます」
山下が言った。
「いいのよ。同じことですから」
昼間夕子は、専用エレベーターのセキュリティを解除した。
十三階に到着すると、留守番組みの白石式子、昼間秋生、昼間功、ヒメ、酒田昇、安甲兄弟、そして帝が出迎えた。
三日月姫姉妹、未来、零の四人は、初めてジェットコースターに乗った子どものような冴えない表情をしている。
「わらわは、ヘリと言う乗り物が苦手じゃ」
夕子が恐れていた結果になった。
夕子はヒメを見て、富士山のその後を尋ねて見る。
「ヒメ、あの噴火、どうなったかな」
「噴火より、ダムが危ないそうです」
「もう、そんなことになっているのか」
夕子たちは、斉藤司令が持ち帰った未来の動きに注意している。
スタッフが、帝たちの前に土産袋を届け置いた。
御坂がお茶の準備を指示してスタッフが下がる。
「みなさん、茨城第二空港のお土産です」
御坂が言った。
ヒメが真夏からケーキを受け取って喜ぶ。
帝は三日月姫からケーキを受け取り、不思議な顔でケーキを見た。
「帝さま、三日月姫さまからケーキでごじゃりまする」
従者未来の言葉に帝は言葉を失ったまま、ケーキに手を伸ばした。
三日月姫は、帝の困った表情を見て楽しんでいる。
『第八十話 帝さま、三日月姫さまからケーキでごじゃりまする!』
お読みいただき、ありがとうございます!
ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです。
投稿後、加筆と脱字を修正をする場合があります。
三日月未来




