第八話、ヒメの次元スリップ
昼間夕子は学園の近くの誰もいない神社の境内を進んだ。
新緑から溢れる日差しが心地よい。
「今の季節は最高だなーー」
夕子の独り言の癖。
「今日は、何もなさそうかもしれない」
「日向黒子、夢乃神姫、妹の真夏、
ーー この中に声の主がいるのかな」
夕子は、独り言を呟きながら、考えを巡らせて見た。
「出逢いの偶然なら、黒子が一番怪しい。
ーー 夢乃に起きた女神は、興味あるが、
ーー かぐや姫とは結び付かないな。
ーー おそらく、夢の暴走かもしれない。
ーー 問題は、夢乃の妹の真夏かもしれない。
ーー 竹取物語にヒントが隠れてないか調べてみるか」
夕子は、お賽銭箱に小銭を入れて、内なる宮の潜在意識に祈願した。
潜在意識は、四六時中自身から離れることなく、夕子を見てくれている。
参拝のあとで、夕子は学園に寄って見ようと思った。
神聖学園の校門で、夢乃神姫と再び出逢う。
「先生、参拝は終えたのですか」
「まあ、祈るだけだからな」
「祈るだけですか」
「そうだ」
「お願いとかしないのですか」
「それは真逆な祈り方なんだよ」
「と言うとーー」
「祈りは、潜在意識に祈るのだよ」
「じゃあ、神社必要ないじゃないですか」
「祈りが通じやすい環境があるんだ」
「なるほど、環境か」
「ところで、夢乃、忘れ物は済んだのか」
「いいえ、僕の勘違いでした」
「なに、爺いくさいことほざいてる」
「あれ以来、記憶の断片に靄がある時があるんです」
「一度、お祓いしてもらった方がいいかもしれないな」
「今日、寄った神社の神主さんは、有名な陰陽師の子孫でな」
「先生、まさか、安甲晴明ですか」
「そこまでは知らないが、有名らしい」
「じゃあ、先生、機会あったらよろしくお願いします」
「分かったから、楽しみに待ってくれ」
夕子は、夢乃神姫の素性に興味を持っていた。
次の土曜日の放課後、夕子と夢乃は神社を訪問した。
「昼間先生、ご無沙汰してます」
「安倍さん、お久しぶりです」
「この子が、夢乃神姫です」
「そうか、どれどれ、見て見よう」
「なるほど、なるほど、問題無さそうです」
「あれは、次元スリップですから妖などが絡んでいません」
「次元スリップですか」
「昔から聞くでしょう。神隠し」
「はい」
「神隠しが次元スリップです」
「気絶しただけですが・・・・・・」
「意識だけが、次元スリップして戻ったのでしょう」
「脳が混乱して整理が追いつかない状況ですが、
ーー もうしばらくすれば、落ち着くでしょう。
ーー 顕在意識にタイムラグが生じたような現象と考えて見てください」
ーー あちらの世界の時の流れと現世の時間は同じじゃないのです」
「と言うと?」
「あちらの一日が現世では、数日になる場合もあると言うことです」
「一瞬の出来事から覚醒した時、数時間も経過していませんでしたか」
「はい、その通りです」
「次元スリップか」
夕子は、ガッカリそうに呟いた。