第七十八話 先生、明日は雨ですよね!
「第七十八話 先生、明日は雨ですよね!」
この話は、約二千六百文字です。
隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
昼間功社長は、会長である父の昼間秋生に言い忘れていたことを報告した。
「功、それは本当なのか? 」
「会社の学園事業部からの連絡です」
「先方は、なんと言って来た」
「はい、それが変なんです」
「変とは? 」
「えええ、利益を度外視しての参入を希望しています」
「つまり、あれか」
「はい、非営利事業とか言っています」
「非営利じゃ、難しいだろう」
「そこで、昼間財閥が浮上したようです」
「で、功はなんと返事をした」
「はい、お時間をくださいと申し上げました」
「先方は、なんと? 」
「お待ちしますと言っていましたが・・・・・・ 」
「誰かなあ」
「はい、徳田財閥の神聖学園の理事長です」
「夕子が世話になっている学園か」
「あそこは昔、帝の別邸だった場所です」
「で、何をしたいかな? 」
チーフディレクターの御坂恵子が功と秋生の前に現れて言った。
「会長、社長、徳田理事長と名乗る方から面会の連絡がありました」
「御坂さん、それは、いつですか? 」
「この保養所の近くにいるそうで、これから、どうですかと・・・・・・ 」
「ーー 功 ーー お前は、どうする? 」
「お父さんが宜しければ、お会いします」
「そうだな、私も詳しい内容が知りたい」
「会長、なんのお話でしょうか? 」
「斉藤君、実はな、別の話があって、
ーー これから人と会うことになった。
ーー それで、君が未来で見た昼間財閥を教えていただきたい」
「詳しくは、分かりませんが、
ーー 未来での昼間財閥は、徳田財閥と共に事業で成功を納めています。
ーー 大政奉還から百八十年の現在から見れば未来で見た光景は夢のようでした」
「斉藤君、ありがとう。それで十分です」
「御坂さん」
「社長・・・・・・ 」
「さっきの件ですが、お会いしたいと伝えてください」
御坂恵子は、携帯電話の着信履歴から、先方の秘書に連絡を入れた。
「御坂と申しますが、先程の件で、ご連絡を入れております」
「御坂さま、わざわざありがとうございます。
ーー 徳田財閥、神聖学園理事長秘書の山下瑞稀と申します」
「山下さま、本日の何時がご都合がよろしいでしょうか」
「はい、今からすぐでも ーー 大丈夫ですが」
御坂はヘリコプターの爆音に気付いて、十三階の窓の外を見た。
山下瑞稀が携帯を耳に当てながらヘリの中から御坂に手を振っている。
「保養所の一号棟屋上にヘリポートがございます。
ーー そちらをご利用下さい」
「御坂さま、ありがとうございます」
徳田理事長が搭乗したヘリが、保養所一号棟の屋上に到着した。
御坂恵子が、連絡通路を経由して理事長と秘書を迎え入れる。
秘書の山下は、緑色のスカートに水色のジャケットとシャツを着ていた。
肩に革製のトートバッグを下げている。
徳田理事長は、四十代くらいの容姿端麗なご婦人に見えた。
「私は、保養所のチーフディレクターの御坂恵子と申します。
ーー ここは、保養所一号棟の屋上です。
ーー 連絡通路から二号棟にご案内させていただきます」
御坂は説明の後、二人を昼間財閥会長が待つ十三階のラウンンジフロアに案内した。
ヘリのパイロットも同行している。
御坂は他のスタッフに、ヘリコプターパイロットを客室に案内させた。
「さあ、徳田さま、こちらのラウンンジです」
空港の待合室のような殺風景なラウンジにも驚くことなく二人は沈黙していた。
御坂は、昼間秋生会長と昼間功社長を順に紹介した。
「本日は、突然の訪問で恐縮しております」
「まあまあ、お気になさらずに」
と社長の功が言った。
「早速、本題ですが、神聖学園都市の拡張事業に協力していただきたいと思い参上しました。
ーー ドームスタジアムの二十倍の広さの土地を学園周辺に確保しました。
ーー 大きな移転もございます。
ーー 百年後の未来への準備を考えております」
「徳田さま、失礼ですが、
ーー もしかして百年後をご覧になっていませんか」
「昼間社長どうして、それを知っています」
昼間は、予め呼んでいた斉藤由鶴を徳田と顔合わせした。
「あら、あなた、どうして、ここに」
「私は、あの時、タイムスリップして百年後の未来に飛ばされて
ーー 徳田さまとお会いしました」
「そうだったの。私も同じよ。
ーー 黄金の光に包み込まれて気付いたら、未来にいたわ」
斉藤由鶴と徳田理事長の会話に昼間会長が水をさす。
「まあまあ、そういう事ですか?
ーー 徳田さん、今夜、お時間ありますか? 」
「私ですか。今回の打ち合わせだけで用事はございません」
「どうですか。
ーー 今夜は、私の孫娘達と酒宴を予定してます。
ーー 宜しければ、保養所に滞在されて、
ーー ご参加出来ませんか? 」
秘書の山下瑞稀が徳田理事長の予定を確認して言った。
「理事長、今週の面会予定は入っておりませんので大丈夫かと思います」
「山下さん、ありがとうございます。
ーー そういうことなので、
ーー 昼間会長、今夜はお言葉に甘えて滞在させていただきます」
「徳田さま、それなら、しばらくどうですか。
ーー 私達は富士山の事件で水戸に避難してきました」
「私も、そこの斉藤さんと未来で見た記憶で、
ーー この水戸にやって来ています」
「じゃ、話が早い、
ーー 御坂さん、理事長と秘書の方をスタッフにご案内させて。
ーー 二号棟十二階の特別室を用意させてください」
「会長、そんなお気を使わずに」
「ここの温泉は、富士山保養所と同じく湯加減がいいのですよ」
御坂恵子が呼んだ別のスタッフ二名が、下の階の特別室に徳田理事長を案内することになった。
「昼間会長、お言葉に甘えて、しばらく失礼します」
徳田理事長と山下瑞稀秘書が消えて御坂恵子が呟く。
「お二人とも、素敵な女性ですね」
「今時、珍しい雰囲気をお持ちです」
「ところで、お父さん、
ーー その学園都市の拡張事業で昼間財閥は何を担当するのでしょうか」
「そうだな功、
ーー 先方も未来を知っていると言うことは、悪いことはないと思うよ。
ーー それに、まだまだ時間も沢山ある」
「そうですね。お父さん、兄さんはいつ戻るのでしょう」
「春雄なら、帝がきっと知っている」
「今夜も帝と一緒の酒宴が楽しみです」
三日月姫姉妹、未来と零、帝の五人は酒宴の始まりを待っていた。
東の空は、既に紫色の帷に包み込まれ、西の空に日没の残光が光っていた。
雲が湧き、富士山や筑波山を霧が隠している。
「ヒメ兄、あすはお天気悪いわね」
「真夏、学校どうなるのかな」
「大丈夫よ、神聖学園の理事長もいるから」
「そういう問題じゃない思うけど」
「夕子先生、真夏が変なこと言っています」
「先生、明日は雨ですよね」
「第七十八話 先生、明日は雨ですよね!」
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三日月未来




