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第七十七話 わらわは、水戸の地酒が良いのじゃあ!

第七十七話 わらわは、水戸の地酒が良いのじゃあ!

この話は、約二千三百文字です。

今月、七回目の更新になりました。

三日月未来

 昼間財閥富士保養所と水戸保養所のパスワードはすべて共有されていた。

水戸保養所地下第二滑走路の上には二号棟があり、第一滑走路の上には一号棟がある。

 

 昼間秋生(ひるまあきお)会長は、斉藤由鶴(さいとうゆづる)が未来で知った歴史に従い、水戸保養所の二号棟を富士保養所のバックアップ用として準備していた。

 富士保養所のスタッフは、この日から水戸保養所の臨時スタッフになる。


 斉藤由鶴も、御坂恵子チーフディレクターも同じである。

昼間財閥の運転手は水戸保養所のバスを借りることが約束されている。


 富士保養所を無事に脱出した昼間夕子たちは、会長が準備した二号棟の十三階に到着した。




 スカートスーツ姿の御坂恵子と一緒に昼間夕子は十三階の部屋に入った。

その時、夢乃真夏が大きな声でヒメを呼ぶ。


「お兄ちゃん、ここ窓あるよ」


「真夏、普通じゃないか」


「だってさあ、富士はなかったでしょう。

ーー お兄ちゃん、ここから富士山見えるけど」


「それ、富士山じゃなく筑波山だよ」


 真夏が西の空を指差していた。


「ほら、煙が上がっているよ。ヒメ兄」


「うわあああーー 」


「ねえ、驚いたーー 」


 ヒメは、真夏の言葉に驚き周囲を見回す。

三日月姫たちは、仲居が運んで来たお茶を飲んでいた。


 酒田昇が、真夏の声に気付き西向きの窓に近寄り呟く。


「真夏ちゃん、あれは噴煙ですね」


 ヒメは、携帯を開き言った。


「また、湖で噴火したそうです。

ーー 場所は、箱根と富士山の間とか。

ーー でも情報が錯綜していますね」


「ヒメ兄、あまり変なこと言わない方がいいわよ」


「そうだけど、報道が」


 出版業界にいる酒田がヒメに言う。


「真夏ちゃんが正解ですよ。

ーー 誰かが言ってたなあ。

ーー 報道は作られているとか。

ーー だから休日には報道が激減するとかね」


「酒田さん、僕も以前から不思議に思っていました。

ーー 休みになると報道がないことを」


「そうなんだ。

ーー みんな知っているけど気付いていない振りをしている。

ーー この国では“出る釘は”なんとかなんだよ」


「酒田さん、なんとかって」


「ヒメ兄、打たれるよね。坂田さん」


 酒田は、真夏の間合いの良さに苦笑いを隠せなかった。




 星乃紫と朝霧美夏もやって来た。


「あら、みなさん、楽しそうね」

朝霧が酒田に言った。


「いえね。例の件で、外を眺めているだけですよ」


「それより手前の大きな山、綺麗だわ」

星乃が話題を逸らす。


「筑波山か・・・・・・」


「どうしたの酒田さんーー 」


「いいえね、朝霧先生。

ーー あの山、途中までは問題ないけど」


「ないけど」


「僕、あれ以来、高所と狭い所が苦手なんですよ」


「あれって」


「子ども時代の遠足で・・・・・・。

ーー あの山の頂上に登って、

ーー 岩があって狭い岩場だったんですよ。

ーー 今は知らないけど」


「分かったわ、酒田さんのトラウマね」

 体育教師の朝霧が苦笑いを浮かべて言った。




 昼間夕子が日向黒子と白石陽子を引き連れてやって来た。


「みんな、何見てるんかな」


「先生、その喋り、面白い」


「ほら、宣伝放送に毒されたんよ」


 真夏がお腹を抑えて大笑いしていた。


「真夏ちゃん、そんな笑わんでもええじゃない」


「先生、もしかして憑依されてますか」


「ヒメ、先生を揶揄うと宿題が増えるぞ! 」


「分かりました。夢乃神姫[ヒメ]は、昼間先生との距離に注意します」


「なんじゃ、それ」




 昼間秋生会長と斉藤由鶴が御坂恵子と一緒にやって来た。


「ほお、まだ続いているかな」


「昼間会長、約数週間で落ち着きます」


「そうか。やっぱりひと月くらいかな」


「多分・・・・・・ 」


「斉藤さん、なんか言いづらいことがありそうだね」


「ええ、あの噴火は、大きな地震の前の前兆だっだそうです」


「次は、どこか分かるのかな」


「はい、フォッサマグナと書かれていました」


「被害規模は? 」


「昼間も、学園も、東都も大丈夫ですが、一部の街が消えました」


「どう言うことかね」


「ダムの決壊で水没したそうです」


「それは、大変じゃないか」


「でも、未来を変えることは出来ません」




 斉藤由鶴が昼間会長に説明している時だった。

昼間夕子の耳元で精霊が囁く。


[夕子、伝えて]


 夕子は心の中で精霊に尋ねた。


[精霊さん、何をですか]


[夕子、変えていい]


[精霊さん、分かったわ]


 精霊の声が消えて夕子は斉藤由鶴を見て言った。


「斉藤さん、精霊さんの許可があったわ。

ーー 助けてあげて」


「夕子さま、分かりました」

 斉藤由鶴は、夕子にダム名と街の名前を告げ時期を言った。




 昼間秋生会長は、国の防災庁に連絡を入れ避難要請をする。

防災庁はダムの欠陥を理由に、住民全員の避難勧告を出した。

夕子たちは後に成功の報告を受けた。


「斉藤さんのお陰で大勢が助かりますよ」


「会長、私は、何もしていません」


「今夜は、私たちと一緒の酒宴に参加ください」


「昼間会長、ありがとうございます」




「夕子! 」


 昼間功と並んで昼間輝子がやって来た。


「お母さん、なんで水戸に」


「水戸でサイン会があって、会長がこの保養所を薦めてくれたの。

ーー 夕子、少し痩せた。

ーー ちゃんと食事している。

ーー 執筆は順調」


 輝子は矢継ぎ早に夕子に言った。


「お母さん、私は大丈夫よ。

ーー お母さんだって無理しちゃダメよ」


「まあまあ、輝子、夕子が困っているじゃないか。

ーー 向こうで、お茶を飲もうか」


 輝子は、功に連れられ、三日月姫たちのいる応接間に移動した。




 前世の未来と零がやって来た。

「夕子、三日月姫姉妹が寂しくしておるのじゃ」


「未来さん、すぐに行きます」


 三日月姫姉妹が顔を出して言った。


「わらわは、筑波の地酒が飲みたいのじゃあ」


「三日月姫、ここは水戸でござります」

未来だった。


「わらわは、水戸の地酒が良いのじゃあ」

三日月姫の双子の妹が微笑んでいた。


 西の空が夕日に染まり、遠くには黒々とした富士山のシルエットが浮かび上がっていた。

 お読みいただき、ありがとうございます!

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投稿後、加筆と脱字を修正をする場合があります。


三日月未来(みかづきみらい)

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