第七十六話 まさか夕子さま、また猫ニャンニャンですか?
第七十六話は、約二千六百文字です。
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三日月未来より
「はい、昼間会長」
「斎藤さん、どうかね。船は順調かね」
「はい、すべての翼は収納しました。
ーー バリアシステムが作動して被害もありません。
ーー エイアイが潜水モードを選択しています」
「じゃ、それがいい」
「会長、船は駿河湾を抜け、伊豆半島の南を進んでいます」
「それで、君は、どちらに行こうとしていますか」
「水戸の昼間財閥保養所なら、この船を収容できます」
「あそこの施設も、富士の保養所と同じだからいいね。
ーー ところで、君はこの大事件を何処まで知っているのかな」
「はい、富士山の昼間財閥保養所には防災壁のお陰で大きな被害がありません。
ーー ただ周辺の街では、被害が起きているようです」
「水戸に着いたら、どうします? 」
「はい、しばらく水戸滞在になるかと思います」
「斉藤くん、それは、未来で見たことだね」
「はい、会長」
「ありがとう、斉藤君」
「会長、そろそろ、鹿島灘の沖合を通過します。
ーー 鹿島港付近で浮上して船舶モードに切り替えると
ーー エイアイが指示しています」
「斉藤君、君に任せるから」
「ありがとうございます。会長」
昼間財閥会長、昼間秋生は移動シェルターのホットラインを切った。
昼間たちは、移動シェルターを[船]と呼んでいた。
「御坂さん、悪いが水戸保養所に連絡を入れてくれないか」
「会長、どのように」
「しばらく、百三十名が厄介になると」
「はい、水戸は、富士の二倍の収容人数がございます。
ーー 十分と思います」
「斎藤くんが、事前予約しているから大丈夫。
ーー 御坂さんは、手続きをサポートしてあげてください」
「分かりました。会長」
船は、茨城県の鹿島港付近で浮上して船舶モードになった。
水戸保養所は大洗港から近い。
船は水面に浮き上がり速度を上げた。
「ヒメお兄ちゃん、船になったよ」
「真夏、僕は、もう驚かないから」
「船、浮いているよ」
「・・・・・・。
ーー 真夏、驚かないって」
ヒメは真夏に教わった座席正面にあるディスプレイのスイッチを入れた。
水面から数メートル浮かんで船が進んでいることを知った。
「真夏、これ船じゃないよ。翼が見えている」
「本当だ。ヒメ兄、さすが」
御坂恵子が、すくっと立ち上がり、マイクを手に喋り始める。
「ヒメ兄、御坂さんって、キャビンアテンダントなの」
社長代理の昼間功が真夏の大きな声に気付き答える。
「真夏ちゃんだね。彼女の前職は、某航空会社のシーエーだと聞いているよ」
「社長代理、お話を続けてよろしいですか」
「あっ御坂さん、ごめん! 」
「当機は、まもなく、大洗港に到着します。
ーー そこからしばらく移動して、水戸保養所地下滑走路第二ゲートに入ります。
ーー もうしばらく、お待ちください」
「帝殿、さっきの雷の音は聞いたことないのじゃ」
「三日月姫、あれは天の怒りじゃよ」
「帝さま、・・・・・・ 」
前世の未来がヒメの発言を遮る。
「まあ、いいじゃないか?
ーー その子は、前世の式子の子の生まれ変わりじゃ」
前世の未来は、帝の言葉に従った。
「お子よ。続けるのじゃ」
「帝さま、あれは、山が弾けた音と思います」
ヒメは、噴火という現世の言葉を避けて帝に伝える。
「山が弾けたのじゃな」
「はい・・・・・・ 」
ヒメは携帯のアンテナが復活していることを確認して、ニュース動画を開いてみた。
箱根外輪山と湖の間がドローン映像に映し出されている。
ヒメは、帝にドローン映像を見せて言った。
「帝さま、山ではございません」
前世の未来と零がヒメの携帯を覗く。
三日月姫姉妹も覗き込み言った。
「現世は、恐ろしい所じゃ」
「三日月姫、わしらは無事じゃ」
「帝もわらわも、幸せじゃ」
船は大洗港の先ある昼間財閥の大きな水路を進む。
滑走路の先端がトンネルの中から伸びていた。
斉藤由鶴は、右側の第二滑走路の誘導ランプを確認して水平着地する。
滑走路の移動システムがシェルターを固定させた。
「御坂さん、今の音は」
「夕子さま、シェルターにロックがかかった音でございます」
シェルターは、トンネル内を牽引されて地下百メートルまで進み停止した。
搭乗緩衝器がシェルターの動態から伸びた。
斉藤は、御坂に伝える。
「シートベルト解除よし。搭乗口ロック解除」
「斎藤さん、ありがとうございます。
ーー みなさんを客室に案内します」
「三日月姫、着いたのじゃ」
「何処にじゃ」
「姫さま、水戸でござります」
「水戸とは、何処じゃ。
ーー 東富士見町の近くじゃな」
夕子が前世の未来に言った。
「水戸は、遠いところです」
「夕子、スーパーマーケットはあるのじゃな」
「多分」
ヒメが夕子に携帯を見せる。
「三日月姫さま、水戸保養所の近くにもスーパーマーケットが何件かございます」
「夕子、わらわは、夕子との晩酌が楽しみじゃ」
「姫さまのお好きなワンカップがあるといいのですが」
星乃紫が夕子に言った。
「昼間先生、茨城県ですよ。
ーー 茨城県の地酒は有名なブランドがいくつもありますが」
「紫、本当じゃな、わらわは、それにするのじゃ」
御坂恵子は食堂スタッフを呼び、三日月姫の地酒を発注した。
「御坂さん、斉藤さん、お世話になったな。
ーー お陰で無事に水戸保養所に到着出来た」
「会長、仕事ですから」
「君たちのお陰で、昼間秋生も家族もスタッフも無事で感謝しているよ。
ーー とりあえず、客室に移動しましょう」
「お父さん、水戸は、初めてで勝手が分かりませんが」
「功、水戸も富士も、他の昼間の保養所も、
ーー すべて同じ作りだから迷うことはない」
昼間秋生は昼間功と一緒に、上昇専用エレベーターホールに移動した。
脱出カプセルエレベーターが下降専用のため、上昇に使えないことを会長は知っていた。
「夕子さま、私たちも会長の処に参りましょう」
「御坂さん、ここもびっくり箱があるのですか」
「富士保養所に比べれば、普通と聞いております」
昼間夕子は御坂恵子が言う普通の意味が理解出来なかった。
大勢いたスタッフたちは、スタッフ専用の一般エレベーターに向かっている。
「御坂さん、カプセルエレベーターって、戻る時は不便よね」
「仕方がありません。緊急事態専用なので」
御坂は、夕子の疑問に心の中で同意していた。
エレベーターは一階に到着してペントハウス直行エレベーターに乗り換えた。
「御坂さん、ここも同じパスワードですか?」
「まさか夕子さま、また猫ニャンニャンですか? 」
御坂は、富士保養所の夕子のパスワードを思い出し薄笑いを浮かべていた。
「御坂さん、今、笑っていたでしょう」
「そんなこと私がするわけ?
ーー あるわけ無いじゃないですか」
御坂恵子は緊張の糸が切れて微笑んでいた。
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