第七十四話 お嬢様、宴の準備が整いました!
七十四話は、二千二百文字です。
父の功、祖父の秋生の二人と、
三日月姫、帝の再会シーンに展開して行きます。
行方不明の長男春雄は、どうなるのでしょうか。
お楽しみいただけたら、嬉しいです。
高校教師昼間夕子の父、昼間功は漫画家になり昼間財閥を離れた。
夕子は、母の輝子が二十歳の時の子である。
功は輝子より二歳年上で漫画家になって間もない時代だった。
夕子の母は、才に恵まれ新人賞を受賞してデビューしていた。
功を心配した父の昼間秋生は、次男の功の新婚生活を心配した。
いくつかの不動産とマンションを功に与えたのも、そのためである。
夕子もまた、父の功から東富士見町マンションを与えられていた。
滅多に会うことが無かった親子が目の前で抱擁している。
「お父さん、少し痩せました」
「お父さんは、ある時、主治医から注意されて、
ーー 食事で糖分摂取に注意しているんだよ。
ーー 糖分と言っても分からないかな? 」
「それ、炭水化物でしょう」
「まあ、白米とかパスタに注意していれば問題ないが」
「お父さん、なんで、ここにいるの」
「スタッフが夕子たちの予約を伝えてくれてね」
「でも、それは、昨日のことですよ」
「丁度、父の会長が、こちらに用事があって、
ーー ヘリに搭乗させてもらったのだよ」
「じゃあ、お爺ちゃんもいるの」
昼間功は、夕子の肩を叩き小声で言った。
「夕子、噂は魔法の言葉だよ、ほら」
夕子が振り返ると初老くらいの昼間秋生が背筋をピンと張って立っている。
「夕子、相変わらず、口が悪いのう」
「お爺ちゃん、そんなつもりじゃないから」
「でも、なんで、ここに来ているの」
「それは、ここの改装工事の出来具合を視察しに来たのだよ」
「もしかして、地下シェルターの秘密」
「あれは国家機密レベルだから、口外は厳禁だよ」
「分かっているわ。ところで、この上には、なにがあるの」
「この十三階は、ラウンジフロアで、
ーー すぐ上がお前の両親と功の兄の部屋があってな。
ーー わしの部屋が十五階にある」
「お爺ちゃん、見たいわ、そこ」
「何もないが、いいだろう。
ーー ところで夕子と一緒の子たち」
「神聖学園の私の生徒よ」
「生徒? 」
「生徒って言っても正確には、私が顧問している文芸部の部員なの。
ーー しかも、みんな東富士見町マンションに住んでいたの。
ーー それだけじゃないのよ」
「あと、何があるのかな」
「私たち、みんな前世からの繋がりがあったの」
昼間秋生も功も、夕子と同じ能力者の体質を持っていた。
「じゃ、夕子も精霊の声が聞こえるようになったのだな」
「なんで、お爺ちゃん、それを知っているの」
「功がなあ、なんと言ったかは知らないが、
ーー わしらも精霊に誘われてここにいるのだよ」
夕子は、父の功を見て尋ねた。
「お父さん、まさかと思いますが、
ーー この上に、お父さんが書いた下書きのイラストがありますか」
「夕子、ここには下書きは置いてないよ」
「ああ、良かった」
「でも、大きなイラストならある」
「えええ、それーー 危ないじゃないですか」
「そうだったね。
ーー あれは時空を開くイラストになっているから、関係者を近づけないこと」
「お父さんも、前世にタイムスリップしたんでしょう」
功の表情が変わって緊張している。
「まさか、夕子も、あの時代を見たのかな」
「うん、帝と会って、お父さんのことを聞いたわ」
「夕子も、あの時代に行ったのだな。
ーー 行ってないのは兄の春雄だけになる」
「じゃあ、お爺ちゃんも行ったの、なぜ」
「わしはなあ、夕子より前からかぐや姫の大ファンだった。
ーー ある時、精霊に導かれて路地を進むと、小道が輝き始めてな。
ーー 光の中から女神が現れ気を失った。
ーー 目覚めると前世の安甲神社の境内にいた」
「お爺ちゃん、私たちも同じ体験をしているの」
「実はなあ、秘密にして置いたが、
ーー 春雄は行ったきり戻っていない。
ーー 春雄の仕事を功にしてもらっている」
「それで、お父さんが急に忙しくなっていたのね」
「でも、春雄伯父さん、きっと戻って来るわ。
ーー だって私たち、最強のお友達と一緒にいるわ」
夕子たちは、十四階と十五階に寄り、父と祖父に無理を言って夕子の部屋に来てもらうことにした。
「と言う訳で、お爺ちゃん、お父さん、驚かないでよ」
御坂恵子を先頭に十三階の夕子の部屋前に到着した。
御坂は、廊下に面している仲居たちの通用口の大きな扉を開けた。
「会長、社長、お先にどうぞ」
「御坂さん、世話になるの」
「いいえ会長」
昼間財閥昼間秋生会長と社長代理の功が夕子と一緒に裏口から入る。
「裏口からの方が面倒じゃ無いわね」
「夕子さま、セキュリティ解除されているから簡単ですが、
ーー あの油圧扉は動かない仕組みになっています」
「御坂さん、そんなの初耳ですが・・・・・・ 」
昼間たち三人が生徒たちを引き連れて、御坂の案内で寝室横の内廊下をすり抜け大きな応接間に到着した。
応接間では、三日月姫と妹、未来、零、帝、神主兄弟と酒田が夕子たちの到着を待ってそわそわしている。
ダイニングテーブルの上では、保養所の仲居たちが酒宴の準備を忙しなくしていた。
「夕子さん、もう姫たちが待ちくたびれていますが」
「酒田さん、だめじゃない、お相手しないと」
未来が夕子の不敬な言葉に気付き、厳しい表情に変わった。
夕子も未来のお陰で自身の失言に気付く。
夕子は、未来に耳打ちして、父と祖父のことを告げた。
「功殿でござるかな」
未来が言うと三日月姫も気付く。
「功じゃ、近う、近う」
「秋生、功、懐かしいのう」
「帝さま、勿体なきお言葉、感謝で胸が熱くなります」
「今宵は、皆で盃を交わすのじゃよ」
夕子は、祖父と父の対応に目頭が熱くなるのを感じた。
「お嬢様、宴の準備が整いました」
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三日月未来




