第六十八話 帝さまも、健やかそうで何よりでござりまする!
「昼間先生、陽子さんのお母さんが呼んでいますよ」
昼間夕子は、星乃紫の声に促されて振り返り驚く。
「昼間先生、そのリアクションは失礼です」
朝霧美夏が夕子を注意した。
「美夏、だって、さっきまで前世で一緒だったじゃないですか」
夕子の言葉に白石式子は、キョトンとした表情を浮かべた。
「昼間先生、前世ってなんですか?
ーー 私、胸騒ぎがして来て見たのですが・・・・・・」
白石式子は、昼間夕子の言葉に混乱を隠せない。
「実は、式子さんのお嬢さんの陽子さんは前世でも・・・・・・。
ーー 式子さんのお子でした。
ーー 私たちは、前世のあなたとお会いして帰って来たところです」
星乃紫が、式子に真実を伝えた。
白石式子の無意識が星乃の言葉を受け入れる。
「そうだったのですね。この不思議な胸騒ぎは・・・・・・」
昼間は、マンションの扉を開けて、夢乃神姫、(愛称ヒメ)の背中を押し、先に入るように伝える。
「先生、じゃあ、僕、中で待っていますね」
「ヒメ、そうしてくれ。
ーー 先生は式子さんに相談してから入るから」
ヒメを見送り、日向黒子、星乃紫、朝霧美夏も続いて中に入った。
昼間夕子は、白石式子に複雑な事情を説明して伝えた。
「式子さん、そんなわけで、あなたと縁のある帝が前世から来ているよ。
ーー この扉を開けて中に入れば、胸騒ぎの原因がわかると思うの。
ーー 無理にと言わないけれども、どうかしら」
「先生、陽子もいるのね」
「そうよ、式子さん」
「じゃあ、私も、お邪魔します」
昼間がステンレスの扉に手を掛けた瞬間、遠くから雷鳴が轟き渡る。
「朝焼けは、雨だけど、さっきの夕焼けは晴れの前にあるのよね」
「先生、暮雨かもしれませんわ」
「なるほど、夕暮れの雨か。
ーー まあ、とにかく入って」
白石式子が中に入ると、玄関に前世の帝が立っている。
「帝さまで、いらっしゃいますか」
「式子じゃな、其方と現世でも会えるとは嬉しい限りじゃ」
帝は自分の屋敷であるかのように、式子を招き入れた。
「式子、中には、三日月姫も待っているのじゃから」
「帝さま、式子もお邪魔します」
「早う」
白石陽子の母、式子は帝に、付き添われリビングに向かった。
キッチンでは、朝霧、星乃、日向、白石が夜会の準備を進めている。
安甲神社の双子の兄弟は、酒田昇に勧めらて早くも地酒を口にしていた。
「昼間先生、先に飲み始めました」
「まあ、酒田さんにしては珍しいわね」
「いいえ、飲まずにはいられなかっただけです」
「わかるわ。自分の前世と会う緊張感は不思議な気分よね」
「昼間先生は、未来さんといつも一緒ですけど、どうですか」
「私、ちょっと大雑把な性格でしょう。
ーー だから、細かいことは気にしてないの」
「先生、アバウトですものね」
「酒田さん、最近、横文字の表現が氾濫しているけど、私は嫌いよ」
「失礼しました。先生、古典教師でしたものね」
酒田は照れて前髪を後ろに掻き上げた。
「酒田さん、そろそろ床屋さんへ行かないとね」
「僕は、いつも美容室で切ってもらっています」
「じゃあ、次は一緒ね」
「先生、まさか、東富士見町スーパーの美容室ですか」
「そうよ。近いし駅前ですしね」
「僕も同じ美容室です」
「偶然ね。まあ、とにかく、飲み会、そろそろ始めましょうか」
日向黒子、白石陽子、夢乃真夏、ヒメの四人はリビングルームの大きなソファに残ることになった。
前世の帝も、リビングルームが気に入り陽子の母、式子と向かい側のソファで寛ぐ。
黒子の前世の零も、リビングを選んだ。
安甲神主兄弟、酒田、三日月姫姉妹、未来の六人と星乃、朝霧、昼間の三人は、ダイニングキッチンのいつもの指定席に腰掛けた。
朝霧美夏が、リビングにいる帝に飲み物を尋ねる。
「お酒なら盃が好きじゃ」
朝霧は、冷蔵庫にあった四合瓶を隣にいる白石式子に渡す。
「じゃ、白石さん、帝のお相手をお願いしますね」
「分かりました」
「式子よ、このお酒の瓶は徳利と違うようじゃが」
「これは、この時代のお酒の瓶です。四合瓶と言います」
「じゃが、これは美味しいか」
「美味しいか不味いかは、帝さまが決めることです」
「じゃ、どんな酒じゃ」
「お水のように澄んでいて、スッキリとした癖のないお酒です」
「式子よ、味見して見てくれじゃ」
白石式子は、自分の盃に地酒を入れ、一口を口に入れてみた。
「帝さま、芳醇な香りとコクが広がり、とても幸せな気分になりました」
式子は帝の盃に、お酌をしていった。
「どうぞ、帝さま」
「頂くじゃ」
帝は盃を両手で包み込むように持って、酒を一気に飲み干す。
「芳醇な香りじゃ、なんとも言えぬ味じゃ。
ーー 現世は良いのう」
三日月姫が従者未来と一緒にリビングルームに来て、空いている席に腰掛ける。
「姫じゃな。久しぶりじゃ」
「帝さまも、健やかそうで何よりでござりまする」
「三日月も未来も、予と一緒に一献どうじゃ」
「帝さま、わらわはお酒好きじゃが、帝さまの生まれ変わりとお会い出来ましでござりまするか」
三日月姫が帝を促すと酒田昇が一升瓶を抱えて帝の前に現れた。
「酒田昇と申します」
「我の生まれ変わりじゃな」
酒田昇の頬を大粒の雫が流れ落ちた。
帝は、急に立ち上がり酒田を抱きしめる。
「酒田よ。会えて良かった。
ーー 現世は、夢の世界のようじゃ」
「帝さまも、健やかで何よりでございます」
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三日月未来




