表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/94

第六十五話 神さまとの契りじゃな

 (みかど)の従者が鬱蒼(うっそう)とした小道を確認しながら歩を進めていた。

両脇には、雑草が生い茂り、現世(うつしよ)の道の面影は無かった。


 現世(うつしよ)の書店があるビル付近には大きな森がある。


 神聖学園に通じる大通りは、狭い田畑の畦道(あぜみち)になっている。

道の両側に広がる畑では、お百姓さんたちが畑仕事をしていた。


 お百姓さんたちは、(みかど)に気付くと、その場で正座して一礼をしている。

(みかど)に代わって、従者がお百姓さんたちに正座を止めるように指示を与え、畑仕事に戻るように伝えていた。


 陰陽師(おんみょうじ)の安甲晴明は、(みかど)の後ろを側室の式子(のりこ)と並んで進んだ。

現世(うつしよ)の六人も無言で、不慣れな畦道(あぜみち)を歩く。


 樹々の枝に止まっている数羽のカラスが一行に気付き鳴き出す。




 やがて、畦道(あぜみち)が終わり、前が開けた。

奥には黒々とした小高い山と森が見える。


 山の裾の奥に横長の大きな建物の赤い屋根が見えた。

その前には大きな赤色の門があり、入り口の両側には、大太刀(おおたち)を腰に差した侍が数人いる。


 (みかど)に気付くと侍たちは、その場でお辞儀をした。

現世(うつしよ)の六人は、この時、(みかど)の存在を改めて知る。


 前を歩いていた側室の式子が振り向き白石陽子に言った。


「陽子、お屋敷に着いたのじゃ」


 陽子は、入り口の奥に見えた大きな門の門番に気付き緊張する。

(みかど)の従者が大柄な体格の門番に、開門を大きな声で伝えた。

門から木が擦れる音が聞こえる。


[ギギーギギー]


 一同は門を抜けて中に入り驚くことになる。

お屋敷の前にあるのは庭でなく、大きな畑が左右に広がっている。

赤色の平屋造りの建物は、横に長く左右に広がっていた。


 神社に似た形をした(みかど)の別邸は、神聖学園が引っ越して来たかのように見えた。




 建物正面には、玄関らしき入り口が見えない。

従者たちは、正面を右に曲がり進む。

やがて、渡り廊下らしき上がり口が左手に見えた。


 数人の家来が上がり口の前で下足番をしている。

(みかど)と従者に気付き、下足番が従者に(みかど)に頭を下げ、お辞儀をした。


 現世(うつしよ)の六人も渡り廊下で下履きを預けて中に入る。


 昼間夕子、星乃紫、朝霧美夏、白石陽子、夢乃兄妹の六人は、頭の中で神聖学園の校内をイメージしていた。


「ここは、廊下付近かしら」

白石が呟く。


「ここ部室に近い」

ヒメが言った。


 一同は、幅の広い畳の廊下を進む。

井草の何とも言えない香りが一同の鼻をくすぐる。


「お屋敷の中が森のように空気が澄んでいるわ」

星乃が言った。


「星乃先生、ここは自然の中みたいね」

朝霧の呟きに昼間が反応している。


「朝霧先生、この畳廊下の長さ、普通じゃないわ」

昼間が呟く。


「昼間先生、ここは(みかど)の別邸よ」

星乃が釘を刺す。


「星乃先生、つい庶民感覚で考えてしまった。

ーー でも、この体験は使えるわね。

ーー 永遠に続く畳廊下か」


 昼間夕子は、次の小説の構想を考えていた。


「昼間先生、戻らないと取らぬ狸の皮算用になるわよ」


「大丈夫よ。

ーー ”待てば海路(かいろ)日和(ひより)あり“とか言うでしょう」


 夕子は自分に言い聞かせていた。


 超常現象の四面楚歌の中で、落胆しても始まらないと考えるのが関の山だったからだ。


「星乃先生、私たちジーンズで良かったわね」

朝霧が星乃に言った。


「そうね、この格好なら無理が効くわ。

ーー ごろ寝もできるわね」




 従者の男たちが、部屋の前の廊下で(ひざまず)く。

廊下の脇の部屋から、別の従者の女性が数人現れて(みかど)を招き入れる。


 側室の式子が現世(うつしよ)の者たちに説明した。

(みかど)さまは、お着替えをされるのじゃ。

ーー ここで、しばらく皆は待つのじゃよ」




 しばらくして、女性の従者を従えて(みかど)が現れ現世(うつしよ)の者に言った。


「さあ、こちらじゃ、入られよ」


 (みかど)の言葉を聞いた側室の式子が、陰陽師と現世(うつしよ)の者を促し(みかど)の部屋に案内した。

(みかど)の部屋の壁には、大きな絵画が幾つも飾らせている。


 夢乃真夏が声を上げると白石陽子が言った。

「その絵は、どなたが書いたのですか?」


「前世の陽子が書いたのじゃよ」


 白石陽子の記憶の断片の糸が心の中で繋がり始めた。

無意識で書いていた絵が前世記憶と気付いたのじゃ。




 現世(うつしよ)の者、六人は、大きな絵画の前で釘付けになっていた。


 側室の式子がお子たちを呼ぶ。


「陽子、神姫、真夏・・・・・・」


 (みかど)の部屋の大きな絵画の前で、生まれ変わりのお子三人と前世のお子三人が遭遇して、お互いの顔を見つめあった。


「陽子じゃな」


「神姫じゃな」


「真夏じゃな」


 前世の三人が、現世(うつしよ)の者に言った。


 側室の式子が言った。


「あとで従者にお願いするのじゃから、お子たちは戻るのじゃ」


 三人のお子は、自分たちの部屋に戻って行った。




「なぜ、お子たちは、驚きが少ないのですか」


「陽子、このことは陰陽師(おんみょうじ)に聞くといいのじゃよ」


 式子の言葉を聞いた安甲晴明(あきのせいめい)が陽子に言った。


「このことは、神隠しが起きた時に知ったのじゃ。

ーー こちらの世界と、もう一つの世界のことじゃよ」


陰陽師(おんみょうじ)さんは、占いもするのですか」


「占いも迷信もないのじゃよ。

ーー この時代も、あの時代もないのじゃよ。

ーー あの時、それに気付いたのじゃ」


 陰陽師(おんみょうじ)は、そう言って(みかど)と式子を見た。


(みかど)とわらわは、陰陽師(おんみょうじ)に聞いていたのじゃから、安心しておるのじゃよ」


 陰陽師(おんみょうじ)が言った。

「起こることは、すべて決まっていたことじゃよ」


陰陽師(おんみょうじ)さん、私の世界では、それをアカシックレコードというの」

星乃が言うと陰陽師(おんみょうじ)が言った。



「聞き慣れぬ言葉じゃが、

ーー 人の運命はすべて決まっているのじゃよ。

ーー 余程のことがない限り」


陰陽師(おんみょうじ)さん、(ちぎ)りもですか」


「そうじゃな、神さまとの(ちぎ)りじゃな」

 お読みいただき、ありがとうございます!

ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです。

投稿後、加筆と脱字を修正をする場合があります。


三日月未来(みかづきみらい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ