第六十四話 真夏、帝のお屋敷じゃ
前世の安甲神社の境内に大きな紫色の渦が現れた。
渦の中から白いスカートスーツ姿の背丈の高い女性が二人現れる。
金髪の女神と銀髪の女神がいた。
金髪の女神が夢乃真夏と白石陽子に微笑み告げる。
「真夏、陽子、着いたわよ。
ーー ここが、其方たちの前世よ。
ーー 現世と前世は次元トンネルで繋がっているわ。
ーー 帰る時は、陰陽師に尋ねなさい」
女神は、そう告げると跡形もなく消えて光になっていた。
「・・・・・・陰陽師だって」
真夏が白石に言った。
夢乃真夏と白石陽子の二人は、狐につままれたような表情を浮かべている。
境内の奥にある神社の社務所から人影が見えた。
「真夏・・・・・・」
「ヒメ兄・・・・・・」
夢乃兄妹は、前世の安甲神社の境内で再会した。
「夢乃君、私もいるわよ」
「あっ、白石さんも」
三人が神社の境内で、めぐり逢っていた時、社務所の引き戸が音を立て開いた。
中から帝の側室の式子が出て来る。
白石陽子の母と瓜二つの式子の顔を見て陽子は安心した。
白石は、気付くと式子の元に駆け寄っていた。
「陽子ね、前世の式子じゃ」
「・・・・・・会えて良かった」
白石陽子の目頭から涙が溢れる。
式子の背後から陰陽師の安甲晴明が顔を出す。
「不思議じゃな、
ーー 前世から帝のお子三人が現れるとは不思議な縁じゃ」
「安甲さま、帝はまだでござりますか」
「そろそろ、お日様が真上になりそうじゃな」
安甲が帝の側室の式子に告げた時だった。
現世の酒田昇に似た風貌の帝が、付き人を従えて境内に入って来た。
「式子よ、その子らか」
「ええ、全員が帝のお子の生まれ変わりじゃそうじゃ」
「現世から来たのじゃな」
「はい、そのようにお聞きしてござります」
帝は、三人のお子の姿格好を見て、この時代の者じゃないと薄々感じていた。
「その変わった着物は、この時代にはないのじゃが」
夢乃神姫[ヒメ]が帝に答える。
「はい、洋服と呼ばれています」
「洋服というのじゃな」
安甲陰陽師が、さすがに拙いと思い、帝と従者を神社内へ促した。
神社の巫女が、帝と側室を社務所の中に案内する。
側室の式子の後を追い、ヒメ、真夏、陽子も続いた。
「現世の古びた神社とは大違いね、木の香りが鼻をくすぐるわ」
「白石先輩、本当に香りが立っているわ」
真夏と白石の会話に蚊帳の外のヒメが、不機嫌そうな顔をしていた。
「ヒメ兄、影が戻っているわ」
「本当ね。ヒメ、良かったわ」
「真夏、白石さん、何か生まれ変わった気分が昨夜からしていた」
「ヒメは、この時代が合うのかもしれないわね」
三人は、巫女の案内で神社の奥座敷に遠される。
現世の神社との違いは、南側にある幅の広い縁側が雨風の侵入を緩和させる役割を持っていた。
ガラスの代わりの障子に似た引き戸が、日中は全開されている。
縁側の廊下の外側にある木製の雨戸も全開されていた。
時より、境内の木々の葉が風に舞って廊下に落ちている。
キラキラとした黄色い日差しが縁側に降り注ぎ、奥座敷の畳を温めている。
畳の色も現世の畳より濃い緑色をしていた。
「電気も無いのに明るいわ」
「白石さんって、鋭敏ですね」
「ヒメは、感じないの」
「僕は、そういうのが苦手だけど、
ーー この神社が、現世と違う感じなのは分かるよ」
「そうね、現世の神社にあったイラストが無いわね」
白石が、夢乃神姫[ヒメ]に呟きかけた時だった。
神社の奥座敷に紫色の大きな渦が出現した。
「ヒメ、また紫色の渦よ」
「ヒメ兄、ヤバくない」
真夏が呟く。
紫色の大きな渦の中から、昼間夕子、星乃紫、朝霧美夏が現れた。
「ヒメ、ここは何処だ」
「先生たちも、前世にタイムスリップしたみたいですね」
ヒメは上機嫌な表情を浮かべている。
「ヒメ、楽しそうだな」
「そりゃあ、前世の母ともお会いできて、生まれ変わった気分ですから」
「そうか、そういうパターンもあるのだな」
「昼間先生、呑気にしている場合じゃ無いわよ」
朝霧美夏が夕子を諭す。
「そうよ、昼間先生」
星乃が昼間に言った時だった。
酒田に似た風貌の帝が三人に気付いて声をかけた。
「三日月姫と妹、未来に瓜二つじゃが、
ーー 其方たちも、向こうの世界の人間じゃな」
「はい、突然、紫色の渦が現れて気付いたら、この神社の奥座敷だったの」
星乃が帝に説明した。
「そういうことだったのじゃな。
ーー とりあえず、お願いがござるのじゃが、
ーー 土足は、ご遠慮願いたいのじゃが」
優しい帝の言葉で、三人は土足だったことを思い出した。
この日の三人は、ジーンズにシャツ姿でロウヒールのパンプスを履いていた。
靴を上がり口に置いて部屋に 戻ると真夏が昼間に声をかけた。
「先生たちは、あのあと、どうしたのですか」
「東富士見町のスーパーで買い物してワゴンタクシーでマンションに戻った。
ーー 荷物が多くて、酒田が部屋に荷物を運んでくれた。
ーー 三日月姉妹と未来が部屋に上がり
ーー 私たち三人は忘れものを思い出し廊下に出た」
昼間の説明を星乃が続けた。
「あの時、真夏ちゃんと陽子が消えた紫色の大きな渦が見えたのよ。
ーー 気付いたら、渦の中だったわ」
「星乃先生の言うとおり、あっと言う間だったわ」
朝霧は、そういうと大きなため息を吐いた。
「じゃあ、三日月姫たちは、どうなったの」
真夏が言った。
「日向黒子も零も三日月姫たちと一緒よ。
ーー 酒田と安甲兄弟もね」
夕子が真夏に説明した。
「じゃ、とりあえず、姫たちは大丈夫そうね。
ーー 神主さんと酒田さんがいるなら。
ーー で、私たちは、ここにいつまでいるのかしら、先生」
「真夏ちゃん、そんなこと分かるわけないわよ」
朝霧だった。
「現世のみなさん、
ーー これから、帝のお屋敷に行くのじゃが」
安甲晴明は、そういうと神社の外へ向かった。
側室の式子と帝も神主の背中を追いかけるように外に出る。
側室のお子の生まれ変わりの三人であるヒメ、真夏、陽子も続き、昼間、星乃、朝霧の教師三人もあとを追いかけた。
神社の鳥居を出ると見覚えのある小道が見えている。
日没までは遠い時間帯、前世の夏は普通の夏だった。
夕子たちには、初夏くらいの季節に感じている。
「先生、私たち、何処に行くのかな」
「真夏、帝のお屋敷じゃ」
真夏の前世の母の式子が言った。
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三日月未来




