第六十三話 女神と紫色の大きな渦が再び
女神は消え、酒田昇が降臨を終え安堵していた時だった。
安甲神社のイラストから出ていた紫の渦を忘れていたことに、零が気付いた。
零は、立ち上がり昼間夕子の前で声を上げた。
「夕子、イラストの光が大きくなっているわ」
酒田、星乃、朝霧、昼間の大人たちが、渦を見て戦慄を覚えた。
日向黒子、白石陽子、夢乃真夏の生徒三人を部屋から遠ざけようとしていた。
紫色の光の渦は、隣の奥座敷に溢れている。
真夏が、光の中心を指差して言った。
「あの白いスーツの女性、誰ですか?」
白石陽子も気付き、嗚咽を漏らした。
大人たち四人と安甲兄弟の二人、三日月姫と妹、未来、零の四人は、目の前で起きている超常現象を見ているだけだった。
十人には、真夏と陽子の言葉の意味が分からなかった。
安甲兄弟は、夢乃神姫[ヒメ]が消えた時の状況を思い出していたが、あの時と同じで次第に意識が遠のく。
昼間、朝霧、星乃、酒田も、催眠状態に落ち入り、意識が朦朧としていた。
転移した前世の四人に変化はなかったが、真夏と陽子がいうスーツの女性が見えていない。
隣にいた、零の生まれ変わりの日向黒子も微睡みの中を彷徨っていた。
この世の者とは、思えない絶世の美女二人が、真夏と陽子にテレパシーで声を掛けた。
二人は、紫色の光が溢れてる隣室の奥座敷に足を入れる。
「真夏、陽子、前世の契りに従うのじゃ。
ーー 父と母が待っているのじゃが、どうされる」
真夏と陽子は、頭の中で聞こえた言葉に頷きスーツ姿の女神が二人の手を引いた。
二人が渦の中心に足を入れ掛けた時、昼間、朝霧、星乃、酒田の意識が戻った。
夢乃真夏と白石陽子の姿は奥座敷から消え、紫色の大きな光も消えていた。
安甲兄弟は、この事態を受けて無力感を覚えて意気消沈している。
三日月姫と妹、未来、零の次元トンネル経験者は、目の前で起きたことを知らない。
「紫色の光、消えたのじゃな」
三日月姫が、無邪気な声で呟いていた。
「朝霧、どうしよう。
ーー 真夏ちゃんと、陽子まで消えてしまったわ」
「夕子、決まっていたことよ、きっと」
「そうね、人の人生は生まれた時から決まっているわ」
「星乃先生・・・・・・」
さすがの昼間夕子も、生徒の消失事件に驚きを隠せなかった。
夕子は、無駄と思いながら安甲神主に言った。
「安甲神主、これで三人よ」
昼間夕子の頬を大粒の雫が流れ落ちていた。
星乃紫が夕子にハンカチを手渡す。
「昼間先生、使って・・・・・・」
言葉は、途中で途切れ、星乃の目頭からも涙が流れ落ちた。
朝霧雫は、天井を見上げて溢れる涙を必至に堪えている。
「星乃先生、朝霧先生、泣いても、あの子たちは戻らないわよ。
ーー でも、あの子たちは、きっと大丈夫よ。
ーー だって、私たちの生徒なんだから」
昼間夕子のはちゃめちゃな屁理屈に、星乃と朝霧が微笑んだ。
「夕子、笑わせないでよ」
朝霧が言った時だった。
隣の奥座敷のイラストから、紫色の渦が再び現れた。
渦は、断末魔のように消えた。
[夕子、杞憂じゃよ]
「精霊さん、分からないわよ」
[あの子たちは、契りに従っているだけじゃ]
[契りなの、精霊さん]
[杞憂じゃ・・・・・・]
精霊は、消えた。
「昼間先生、私たちも聞いたわよ。
ーー 契り」
「じゃあ、もしかして私たちの契りも」
夕子は、星乃に言った。
「昼間先生、そうなると、私たちも他人事じゃないわよ。
ーー ヒメは、東富士見町のマンションから消えた。
ーー 真夏ちゃんと陽子は、神社。
ーー つまり、場所に関係なく、次元トンネルが開いている」
「そうね、朝霧先生の言う通りよ。
ーー こことか、あそことかに関係なくね」
星乃が朝霧の言葉を続けた。
昼間は、心の中で増幅していた責任感に蓋をする決心をしたが、拙いことを思い出す。
「白石陽子は、次の出版のイラスト担当よ。
ーー このままじゃ、困ったことになるわ」
「昼間先生、白石さんのイラスト、ほぼ完成していました。
ーー 驚くかと思って秘密にしていましたが・・・・・・」
「酒田!
ーー そう言う大事な事は、先に話してよ」
昼間夕子が、逆ギレしていた時、三日月姫が夕子に言った。
「夕子、今夜は、わらわに何をご馳走してくれるのじゃ」
「三日月姫、一緒に被害富士見町スーパーに行きませんか」
未来が三日月姫に代わって答えた。
「夕子、そのようにお願いじゃ」
夕子は前世の自分である未来に微笑んでいた。
安甲神主と安甲一郎の兄弟も飲み会に参加する事になった。
昼間、星乃、朝霧の美人教師に同伴してスーパーマーケットの酒コーナーにいる。
「神主さん、
ーー 三日月姫がお気に入りの地酒のワンカップがおすすめです」
「昼間先生、どこの産地ですか」
「はい、石川県産の地酒ですが」
「それは、いい。
ーー 加賀の地酒は美味しいからのう」
「夕子、わらわは、これにしたいのじゃ」
未来が、三日月姫に代わって地酒カップを夕子のカートの籠に数個入れた。
酒田は、新潟県産の地酒を選んだ。
夕子は、岩手県産のにごり酒を見て迷っている。
朝霧は、シャルドネの白ワインを取り、未来と会話をしていた。
「わらわは、赤ワインが良いのじゃ」
未来が朝霧先生に赤ワインを尋ねた。
「私は、シラーが好きですが」
「じゃあ、朝霧、それじゃ」
夕子たちは、持ち切れないショッピングをしたあと、酒田を見て言った。
「酒田さんがいて、助かるわね」
「昼間先生、タクシーじゃないと無理ですよ」
「酒田君、私がワゴンタクシーを呼ぼう」
「神主さん、助かります」
「男同士、よろしく」
酒田は、神主に一礼して微笑んだ。
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三日月未来




