第六十一話 巨大化する時空の渦
夢乃神姫[ヒメ]、安甲一郎、神主の安甲次郎の三人は、呆然としたまま、紫色の時空の渦を見ていた。
そこだけ時間が停止しているように思えた。
その巨大な渦の中央に二人の女神が現れ、ヒメに手招きをしている。
ヒメの記憶が甦り、嗚咽に似た声を洩らす。
金髪と銀髪の背の高いすらっとした女神をヒメは覚えていた。
どちらもファッション雑誌のモデルのように美しいと言う記憶が、昨日のように思い出された。
純白のスカートスーツの女神の長い髪の毛が目の前で輝いている。
「坊や、また会ったわね。
ーー お姉さんが二人でお迎えにきてあげたのよ。
ーー 嬉しいでしょう」
ヒメは、言葉の意味が分からず、首を振るだけだった。
「何処に、連れて行くんですか」
ヒメは、何気なく女神に尋ねた。
「坊やの前世に連れて行ってあげるから、大丈夫よ」
「前世に行ったら、どうなりますか」
「どうにもならないわよ。
ーー 人間など、元々、この星にはいないのよ。
ーー あなたたちの意識が物質化して、仮想を体験しているだけ。
ーー 前世も仮想の中なの、だから大丈夫よ」
ヒメは、安甲神主を見ていたが、安甲兄弟は、意識を失っているかのように無表情になっていた。
「坊や、その者たちには、紫に光る渦しか見えていないのよ」
ヒメは、覚悟を決めて金髪と銀髪の女神に従うことにした。
女神の手招きに従い、ヒメは紫に輝く渦の中に足を入れた。
ヒメが渦の中に消えかかる時、安甲兄弟の意識が戻った。
「ヒメ、戻って!」
安甲神主の声だけがマンションの廊下に響いていた。
目の前にあった大きな光の渦は消え時空の歪みも消え、夢乃神姫も消えていた。
安甲兄弟は、昼間夕子の部屋に戻り、なんと説明しようかと頭を抱えた。
安甲兄弟は、肩を落とし昼間夕子の部屋に戻った。
「あら、安甲神主さん、早かったわね。
ーー ヒメは一緒じゃないの」
「それが、大きな紫色に光る渦が目の前に現れて
ーー 意識が遠のいて・・・・・・。
ーー 気付くと、ヒメが渦の中に入って行くのが見えた・・・・・・」
「神主さん、ヒメが入って行ったって言ったわね。
ーー 止めなかったの」
「それが、止めたのですが、間に合わなかった」
隣で、兄の一郎が頷き次郎の肩に手をかけていた。
夕子は、神主の言っている意味を理解出来なかった。
前世の未来が、夕子に話掛けた。
「夕子、その渦、多分、前世と現世を結ぶ紫色の渦よ」
「未来、なんで、分かるの」
三日月姫が夕子の前に来て言った。
「わらわも、未来も、妹の三日月も、おそらくは零も
ーー その光を知っているのじゃ。
ーー わらわは、その渦のお陰で現世にいるのじゃよ」
「三日月姫、じゃあ、あの子は、次元トンネルで前世に行ったのね」
夕子は、そう言って、以前、ヒメから聞いていた女神の話を思い出した。
リビングにいた夢乃真夏が昼間夕子に言った。
「昼間先生、ヒメ兄は、前にも次元スリップして戻って来たから、
ーー 大丈夫と思います」
夕子は、真夏を強く抱きしめて慰めていた。
夕子は、その場から大声で酒田を呼び、言った。
「明日、みんなで神社に行って、酒田に女神降臨をお願いしよう」
「昼間先生、僕は構いませんが、神主さんたちは・・・・・・」
夕子は、安甲神主を見てウインクした。
「昼間先生、できることは協力します」
安甲は、そう言って一郎を見る。
一郎は頷くだけだった。
「じゃあ、みんな、今夜は酔い潰れるまで飲むわよ。
ーー 覚悟して!
ーー 真夏ちゃんは、今夜はここにみんなと一緒に泊まってね」
文芸部の生徒たちは、大きなリビングで時間を過ごすことになった。
「あなたたち、シャワー浴びる?」
「先生、いいんですか?」
夢乃真夏、白石陽子、日向黒子の三人は、昼間の部屋の大きなシャワールームの更衣室に向かった。
残った女性たちは、飲み会の支度をしている。
「わらわの今夜のお酒は何があるのじゃ、夕子」
「三日月姫さまには、シャルドネの白ワインを考えています」
「夕子、地酒じゃないのじゃな」
「いいえ、ワインのあとで地酒にします」
三日月と夕子の堂々巡りの会話がひと段落したころ、湯上がりの女子生徒三人がシャワールームから出て来た。
「先生の所の大きな湯船、温泉みたい」
「真夏ちゃん、気に入ってくれたの」
「ええ、だって最高ですから」
日向と白石が真夏の胸を見ながら言った。
「先生、真夏ちゃん一年には、見えない巨乳なのよ」
「白石、じゃあ、先生とどっちが大きい」
「先生、殿方がいますよ」
夕子は、照れて、星乃紫と朝霧美夏に助け舟を求め相槌をした。
「昼間先生、駄目ですよ。
ーー 生徒とは向き合わないといけませんよ」
星乃は、そう言ってにやりと夕子に笑いかけた。
朝霧は、いつもの二人のやり取りに微笑んでいる。
安甲兄弟と酒田の男性たちは、聞こえない素振りをして明日の予定を話あっていた。
「神主さん、女神降臨は、明日の何時がよろしいでしょう」
「昼間先生のご都合にお任せしますので」
精霊が囁く。
[女神のご都合]
「精霊さん、ありがとうございます」
[正午]
精霊は時間を指定して消えた。
「と言うわけで、神主さん、明日の正午にしましょう」
「昼間先生、じゃあ、明日」
「神主さん、飲み会は・・・・・・」
「今夜は、やめておきます。
ーー 先生、また、誘ってください」
安甲兄弟は昼間に別れを言って、神社に戻ることになった。
「ヒメは、前世か・・・・・・。
ーー 誰か残っているのかな」
夕子は、手酌しながら呟いた。
未来が言った。
「帝の側室と帝のお子たち、そして帝がいるのじゃ・・・・・・」
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三日月未来




