第六十話 東富士見町マンションの時空の歪み
昼間夕子のマンションには、チートレベルな秘密があった。
夕子の父が漫画家で母が作家だったのだが、父の功は昼間財閥の次男だったのだ。
その関係で夕子の父は、東富士見町のマンションといくつかの不動産を夕子の祖父から渡されていた。
夕子が、父、功からマンションを渡され一番大きな部屋に住んでいるのも、秘密の賜物だった。
功の父は、漫画家では食べて行けないと思い、功に不動産を手渡した。
昼間財閥から見れば、夕子が父、功から渡されたマンションは、普通の一戸建てと変わらないレベルだった。
イラストが関係者を東富士見町マンションに集めたのも偶然でない気がする夕子だった。
夕子が、星乃、朝霧をキッチンで手伝っている時だった。
リビングにいる白石陽子の携帯電話が鳴った。
「もしもし、白石ですが、あっ、ヒメ、どうしたの」
「真夏がね、先輩と会いたいとか言っているんだよ」
「じゃあ、真夏ちゃんに代わって」
「もしもし、真夏です。
ーー ちょっと先輩の顔が見たくなって・・・・・・」
「真夏ちゃん、今、昼間先生のマンションにいるの」
「ええ、そうなの。じゃあ、ヒメ兄と一緒に行っていい」
「昼間先生に聞いてみるわ。ちょっと待ってね」
白石陽子は、キッチンにいる昼間先生に伝えた。
「昼間先生に代わるね」
「昼間です。真夏ちゃん、いいわよ。
ーー どれくらいで来られる」
「今、自宅の三階だから、五分もあれば、行けます」
「じゃあ、待っているわね。真夏ちゃん」
「先生、ありがとうございます」
夕子が白石に携帯を返して、しばらくすると、インターホーンが鳴った。
「朝霧先生、悪いけど、出てくれない。
ーー 営業なら追い返してね」
体育教師の朝霧美夏は、腕捲りして玄関に向かった。
「真夏です・・・・・・」
「あら、真夏ちゃん、ヒメは?」
「僕は、ここです」
「あら、影が薄いわね」
「そうなんです。最近、よく言われます」
「まあ、いいわ。二人とも上がって」
夢乃真夏と兄のヒメが上がって、白石陽子と日向黒子とリビングで合流した。
「日向部長と白石副部長がいるだけで、文芸部の部室にいる錯覚になります」
「真夏ちゃんは、たまに面白いこと言うわね。
ーー ところで、ヒメは来ているの」
「日向先輩、僕はさっきからいますよ」
「ヒメ、いたのね。気付かなくてごめん。ごめん」
日向がヒメに謝った。
「先輩、悪いのはヒメ兄よ。だって影薄いんだもの。
ーー さっきだって、朝霧先生に同じこと言われていたじゃない」
「真夏、そんなこと言ったって、僕の性じゃないよ」
キッチンから、夕子がリビングに来て真夏に声を掛けた。
「あら、思ったより早いわね。
ーー 今日は、ヒメと一緒じゃないの」
「先生、そこにいますが」
ヒメは、ソファで首を項垂れていた。
「ヒメ、すまん。先生も疲れが溜まっているのかな」
「先生、最近、影が薄いとよく言われるんですよ」
「分かったわ。神主さんに聞いてみよう。
ーー 安甲神主!」
昼間夕子は大声で神主を呼んだ。
安甲神主がヒメ見るなり表情が変わる。
「変だな。どうして、こうなるのか」
安甲は夕子を窓際に呼び小声で伝えた。
「あの子、消えかかっているよ。多分、長く持たない」
「神主さん、何とかして上げてください」
「そう言っても、こればかりは難しいが・・・・・・。
ーー 昼間先生、兄に聞いてみる」
安甲次郎は、兄の一郎の携帯に連絡を入れた。
「・・・・・・。
ーー もしもし、兄さん、そう言う訳だから、
ーー 昼間先生のマンションに来てもらえますか?」
「分かった、次郎。
ーー それは大変だ、すぐ行くから待っていてくれ」
神主は、携帯を切り、夕子に告げた。
「もうすぐ、兄が来るから、秘術で対応できるかも知れない。
ーー 多分、その子はエネルギーを吸い取られている可能性がある」
「神主さん、吸血鬼みたいにですか?」
「例えは、正確じゃないが理屈は似ておる」
「じゃあ、ヒメの所のイラストですか?」
「イラストが原因なら、妹も一緒のはず」
「じゃあ、この子だけ・・・・・・」
と夕子は言って思い出した。
「神主さん、この子、前に次元スリップして、
ーー 神主さんに見てもらったことがありました」
「昼間先生、それ、それ」
精霊が夕子の耳元で囁く。
[次元スリップ・・・・・・元に戻る]
声は途切れた。
「神主さん、精霊も次元スリップと言ってたわ。
ーー そして元に戻るとか」
「昼間先生、その子だけ、時空の落とし穴の影響を引き摺っている可能性がありそうだ。
ーー 兄が着いたら、念のため、その子の部屋で対処して見よう。
ーー ここじゃ危険だから」
夢乃神姫の耳にも聞こえヒメが神主に言った。
「神主さん、僕の自宅でお願いします」
「分かったが、妹さんは、この部屋にいてもらうよ」
「神主さん、よろしくお願いします」
ヒメが神主に挨拶している時、玄関のインターホーンが鳴り、朝霧美夏が神主の兄に対応した。
「兄さん、早かったね。
ーー 今から、この子の部屋で施術をしてみたいと思います。
ーー いいですか」
「そうだね。前回の例もあるから、人は少ない方がいい」
夢乃真夏は兄を励ましていた。
「じゃあ、昼間先生、
ーー しばらく、この子の部屋に行って来ますので、お待ち下さい」
安甲一郎と神主の次郎に支えられて、夢乃神姫は自宅に戻ろうとしていた。
昼間夕子は、夢乃真夏と会話をしている。
「先生、あの部屋、最近、異次元ぽっいんですが・・・・・・」
夕子は慌てて、神主たちのあとを追いかけ、エレベーター前で追いつく。
「神主さん、妹の真夏ちゃんが、部屋が“異次元ぽっい”って、言ってました」
「昼間先生、前回のトラブルの副作用かも知れない。
ーー 今日は、この子の部屋だけにするから、
ーー 部屋から出ないようにお願いします」
「分かったわ。神主さん」
夕子は再び慌てて部屋に戻って行った。
安甲一郎と神主の次郎は、夢乃神姫の部屋の前で、時空の渦を見て呆然と立ち尽くす。
「兄さん、これは・・・・・・」
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三日月未来




