第五十八話 前世と現世の契り
昼間夕子は東富士見町のマンションに戻って星乃紫と朝霧美夏に、その日の出来ごとを話さずにはいられなかった。
「美夏、そんな訳で、偶然とは思えない展開でしょう」
「夕子、その時また、精霊の囁きが聞こえたのよね」
二人のやり取りを聞いていた紫が夕子に言った。
「今までは生まれ変わりがあっても現世では他人の関係だったわ。
ーー けれども、白石親子の場合は、強い絆を感じるわね」
「でも、紫、夢乃兄妹も側室のお子の前世よね。
ーー そこが大きく矛盾しない」
「夕子、女には、墓場まで持って行くような大きな秘密があるのよ」
美夏はライトグリーンのシャツの袖をたくし上げて言った。
「あっ、美夏、そのシャツ、買ったの?」
紫だった。
「やっと気付いたわね。えへへ。
ーー 衝動買いも、女の秘密ね」
「で、美夏、女の秘密は、さて置いてね。
ーー 側室の三人のお子の生まれ変わりの続きよ」
夕子は、美夏に言うと紫を見て、目で質問をしていた。
夕子は閉口すると、他人に振る癖があったのだ。
「そうね、分からないわよ。そんなこと・・・・・・」
紫は夕子を見て言った。
「じゃあ、夕子、本人に聞いてみたらどうかな」
美夏は時より大胆なことを言うようになっていた。
夕子に性格も似て来たようだ。
夕子たちが雑談していると奥の部屋から、三日月姫と妹と未来が出て来た。
奥の部屋といくつかの部屋は、独身の夕子には広過ぎて未使用のままになっている。
とても高校教師の住まいには見えない広さだ。
その中の大きな部屋に三日月姉妹と従者の未来が住んでいる。
戸籍を持たない三人の住民登録はされていない。
「夕子、悩みがあるのじゃな?」
三日月姫は、夕子を見て尋ねた。
前世の未来が厳しい表情で夕子を睨んでいる。
「夕子、三日月姫に、ご心配をおかけするのじゃあな、
ーー 未来に頼れば良いのじゃが」
「未来、聞いてくれる。
ーー 今日の会議室で帝の側室の生まれ変わりにお会いしたでしょう」
「うん、覚えておる。白石親子じゃあな」
「帝の側室には三人のお子がいて、一人だけが前世の親の元に生まれ変わっているの。
ーー でも、他の二人は別のところに生まれ変わったのね」
「夕子、それ、どうでもよいのじゃよ。
ーー 人が死んで何処に生まれ変わるのも縁なのじゃ」
前世の未来の言葉を聞いていた三日月姫が言った。
「側室のお子じゃよ。それに紫も美夏も、別々に生まれ変わったじゃから。
ーー 白石親子の絆がおかしいのじゃな」
「夕子、白石親子は前世の契りじゃないかな」
未来が言った。
「未来の御伽噺と逆の意味であるかもしれないわね」
精霊が囁く。
「夕子、未来・・・・・・ 契り、大切」
精霊は一言呟き消えた。
夕子、紫、美夏の三人は目の錯覚かと目を擦る。
「夕子も見た、精霊さんの姿」
「なんとなく、ぼんやりと」
夕子の言葉に紫も頷いた。
「夕子、精霊も契りと言っていたのじゃ」
前世の未来は大きな胸を誇張するように胸を張って自慢していた。
朝霧美夏が昼間夕子のシャツの袖を掴み言った。
「夕子、前世の未来は、あなたと似て胸が大きいわね。
ーー あのワンピースじゃ、小さくない」
「私のワンピースでも小さいなら、私より大きいわよ。
ーー ところで、美夏、白石親子の件、安甲神社の神主に相談してみようか」
「うん、それがいいわよ。きっとね」
夕子は離席してマンションの窓側に行ってバッグから赤い携帯電話を取り出した。
遠くにはカーテン越しに東富士見町駅とスーパーマーケットが見えている。
日没には遠い時間帯、強い日差しが窓ガラスを熱くして、夕子は少しだけ後退りした。
安甲神主に連絡を入れると、すぐに繋がった。
「昼間ですが、ちょっと、ご相談が・・・・・・」
「気にすることじゃないけど、念のため白石さんも見て置こうか」
「あと、言い忘れてましたが・・・・・・。
ーー 帝のイラストと白石陽子の絵が繋がりました」
「昼間先生、そっちの方が重要ですよ。
ーー 今回の超常現象はイラストから始まっているのですからね」
「そうですね。じゃあ、明日、白石のスケッチブックを見て上げてください。
ーー 白石の部屋と一緒に」
「じゃあ、昼間先生、明日」
夕子は、みんながいるダイニングテーブルに戻り、大きなため息を吐いた。
前世の未来が夕子の失礼な態度を見逃すことはなかった。
「夕子、今夜は、どうされるのじゃあな」
「三日月姫さま、まだ早いので、お買い物に行きませんか」
「夕子、わらわも妹も未来も夕子と一緒じゃ」
前世の未来が、お出掛け用の野球帽と日傘を奥の部屋から持って来た。
「夕子、今の時代の大和の国は暑く感じるのじゃが」
「姫さまの仰る通りです」
「夕子も、そう思うのじゃな」
星乃紫と朝霧美夏が先頭を歩いて、その後ろに三日月姉妹と前世の未来が歩いていた。
昼間夕子は最後尾を歩いている。
緩やかな下り坂を進み東富士見町スーパーマーケットに到着した。
「じゃあ、みんな、食品売り場の前に婦人服売り場に寄るわよ」
夕子は前世の三人に新しい洋服をと考えていた。
「夕子、予算大丈夫?」
朝霧美夏と星乃紫が心配している。
「当分、大丈夫よ。副業が順調ですから・・・・・・」
婦人服売り場のレジ前に、白石陽子と日向黒子が並んで支払いをしている。
「白石、日向、なんで、ここにいる」
「先生、偶然会ったの」
「そうか、今夜も先生たち飲み会だが、一緒にどうだ」
「未成年ですよ。でも舐めるくらいならいいかな」
黒子はそう言って舌を出し笑った。
黒子の笑いを見て黒子の前世の零を夕子は思い出す。
夕子の前世の妹の零をすっかり忘れていた夕子だった。
「先生、どうかしましたか」
「日向、零、見なかった?」
「零ちゃんなら、神社じゃないですか?」
「そうだったわね・・・・・・」
昼間夕子は、少し疲れていた。
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三日月未来




