第五十七話 神社のイラストと白石親子
昼間夕子は、自問自答していた。
白石陽子の前世は、帝の側室のお子で、夢乃兄妹も同じ。
白石は前世で帝の部屋の絵を書いていた。
じゃあ、父が書いたイラストは、どう言う流れになるのだろう。
側室は、生まれ変わっているのだろうか。
父と白石の前世に接点があったのだろうか。
考えても分からない、取り留めのないことに夕子は悩んでいた。
星乃紫、朝霧美夏も例外に漏れず夕子と同じ思いを共有している。
前世の未来と三日月姫がワンピース姿で夕子を呼びに来た。
夕子は打ち合わせを思い出し白石に急いで連絡を入れる。
「白石、これから出版社で打ち合わせをしに行く。
ーー 都合は大丈夫か」
「先生、今日は学校も無いので問題ありません。
ーー 一階のエレベーター前でいいですか。
ーー 私は、ジーンズとブラウスですが」
「白石、服装は気にしなくて大丈夫だ」
「じゃ、先生、あとで」
「三日月姫、未来、行くよ」
「夕子、私もいい・・・・・・」
三日月姫の双子の妹が夕子に尋ねた。
「いいに決まっているわよ。
ーー じゃあ、みんな行くよ」
四人が一階に降りると白石がスケッチブックとトートバックを持って待っていた。
「白石、待たせたな。じゃあ、行こう」
五人が東富士見町駅の自動改札を抜けた時、酒田昇が追い駆けて来た。
「昼間先生、待って! と言ったのに」
酒田は息を切らしながら夕子に話し掛けた。
「酒田、聞こえなかったわよ」
「え、そんな」
「まあ、いいじゃない、間に合ったのだから」
と言いながら、夕子の中のもやもやした出来事がバラバラのままバランスを見失っていた。
ガラスのパズルかと思ったことが、早とちりかと夕子は考えていた。
「昼間先生、どうされましたか?」
酒田だった。
「今回の色々な出来事の繋がりが整理出来ないで、悩んでいるんですよ」
「先生、それは意外と今回の物語の中にあるかも知れませんよ」
「そうね、そうなればいいわね。
ーー でもね、白石の絵と、父が書いた下書きの偶然が分からないのよ」
「それも、時間が解決すると思いますが」
「酒田って、意外にクールね」
「そうですかね。
ーー 僕は面倒なことは考えない質なだけですよ。
ーー 帝の部屋の絵を前世の白石が書いたにしても、
ーー 今の白石とは関係ないじゃ無いですか」
「そうね。そのうち分かる時が来るわね」
酒田と夕子の会話が終わらないうちに、酒田の会社に到着した。
飯塚編集長とアシスタントが夕子たちを会議室に案内した。
三日月姉妹は、初めての会議室に驚いている。
神社の座卓と違う大きな大理石のテーブルに驚いていたのだ。
「夕子、これは、石のようじゃが」
「三日月姫、本物じゃありませんから」
「本物に見えるのじゃが」
と三日月姫の妹も呟く。
「三日月姫さま、お元気でしたか?」
飯塚編集長が言った。
前世の未来が姫と編集長の間に入った。
「姫さまは、ご機嫌麗しくされてござります」
飯塚は、頭を掻いて失態を悟っていた。
「編集長、今日は下書きの打ち合わせですが」
酒田が飯塚をフォローする。
「酒田さん、ありがとう。そうだったな。
ーー ところで、昼間先生、今回は、どうですか?」
「私たちから見れば、御伽噺ですが、
ーー 三日月姫や前世の未来の中ではノンフィクションです。
ーー ある意味、新しい展開になりそうです」
「そうですか。じゃあ、白石さんは、どうですか?」
白石は、スケッチブックを取り出し、編集長に見せた。
飯塚の隣のアシスタントも横から覗く。
「これは、どう書かれたのですか」
「はい、未来さんに教えてもらいながら、ペンを走らせた結果です」
「そうですか。これは、この段階で完成原稿に近い」
三日月姉妹と未来もスケッチブックを覗き声を上げる。
「白石は、絵が上手じゃな」
三日月姫が目を潤ませて言った。
三日月妹も姫を見ながら大きく頷く。
前世の未来も白石の絵の出来栄えに納得していた。
次に夕子の三日月姫のストーリー展開の下書きを見て、三日月姫が未来と夕子に言った。
「この時は、こうすると良いのじゃ」
「三日月姫さまの仰せのままで良いでござります」
前世の未来は、三日月姫の要望をすべて受け入れた。
そのやり取りを見ていた飯塚も変更箇所に異論がなかった。
白石陽子は、思い出したように最後のページの絵を開いた。
妖精が囁いた。
[帝の部屋の絵]
飯塚の隣のアシスタントが口元を両手で押さえて言った。
「この絵、私のうちにある絵と似ているわ」
昼間夕子も、白石の絵を見た。
そこには、父が書いたイラストと瓜二つの絵があった。
妖精が囁いた。
[そこの女、帝の側室の生まれ変わり]
夕子の中でガラスのパズルが一枚加わった。
昼間夕子は、まさかと思いながらアシスタントに尋ねた。
「私たち、東富士見町のマンションから来たんですが・・・・・・」
アシスタントが答える。
「私も東富士見町ですが、何か。
ーー そうそう、娘がお世話になっています」
白石陽子は、母の声が聞こえないほど緊張していた。
「母さん、どうして、ここに」
「最近、転職したのよ。白石陽子の母の白石式子と申します」
隣にいた飯塚編集長も驚いていた。
「私は、偶然同じ名前かと思っていましたが、
ーー 言われて見れば親子ですから似ていますね」
飯塚は、辿々しい口調でアシスタントに言った。
「今日は、休日出勤で偶然、アシスタントになりました。
ーー 普段は総務課で勤務しています」
飯塚は、思い出したように言った。
「白石さんは、総務課からのヘルプで、私もよく知らないのです・・・・・・」
昼間夕子は、白石親子を見てニヤリと微笑んでいた。
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三日月未来




