第四十五話 夕子の部屋のイラストが
かぐや姫を乗せた大型ワゴンタクシーが昼間夕子の東富士見町のマンションに到着した。
かぐや姫、星乃紫、酒田昇、零、日向黒子、昼間夕子、朝霧美夏、の七人がマンションのエレベーター前にいる。
夕子がかぐや姫に今後のことを説明した。
「姫さま、今夜から、
ーー 姫さまは私、昼間夕子の部屋で生活して頂きたいのですが」
「未来、世話になる・・・・・・」
「姫さま、零もご一緒ですから、
ーー ご安心ください」
かぐや姫はエレベーターを見て訝しげな表情を浮かべた。
「未来、この入れ物は、何かな?」
「人や物を運ぶ箱でございます」
「未来、案内しておくれ」
夕子は、かぐや姫の手を引き、エレベーターの中に案内した。
かぐや姫はエレベーターの中の大きな鏡に驚く。
「未来、こんな大きな鏡を見たことないが・・・・・・」
「姫さま、この時代では、どこにもある鏡です」
「そうか、珍しくないのだな」
「はい」
夕子は、しばらくの間、姫のお守りで大変になるかも知れないと思っていた。
「未来、あなたが何を考えているかくらい
ーー 私にはお見通しよ」
かぐや姫の言葉に星乃紫が笑っている。
「夕子、甘いわね。
ーー かぐや姫はあなたの性格をすべて知っているのよ」
かぐや姫は、紫の言葉を聞き流している。
「未来、この光は何かな」
かぐや姫がエレベーターの天井を指で差した。
「姫さま、私たちは蛍光灯と呼んでいます。
ーー 蝋燭の代用とお考えください」
「よく分からないが、未来が言うなら信じよう」
エレベーターが四階のフロアに到着した。
七人は白い壁に囲まれた内廊下を通り夕子の部屋の前に到着した。
「未来、ここか?」
「はい、姫さま」
夕子は、かぐや姫を招き入れた。
「朝霧、姫とシャワーを浴びるわ。
ーー みんなと居間で待っていてくれる」
零の時と同じように、一緒にシャワーを浴びることにした。
かぐや姫の姫の衣装を一枚ずつ丁寧に折りたたみ、かぐや姫は全裸になった。
夕子は、従者として姫の背中を優しくシャワーで洗い流す。
「姫さま、湯加減は、熱くありませんか?」
「未来、大丈夫よ。
ーー 未来は、昔から優しいわね。
ーー 未来は、今も御伽噺を書いているの」
「はい、姫さまの御伽噺を」
「未来は、変わらないわね。
ーー 現世に未来がいて助かるわ」
「姫さま、狭い家で申し訳ございません」
「未来、ここ素敵よ。
ーー 零もいるし、困ることないわ」
かぐや姫は、すべてに驚き、全裸でいることを忘れがちだった。
シャワーのあと、夕子は姫の髪の毛をタオルで優しく拭った。
零の時と同じくドライヤーは使用しない。
夕子は湯上がりのかぐや姫に夕子の黄色い浴衣を貸し与えた。
「未来の好きな色ね。
ーー 三日月もこの色が気に入っているわ」
「姫さま、夕子は再会出来て魂が慄えております」
「未来、三日月も同じよ」
夕子とかぐや姫の着替えが終わり、居間で待っていた五人がダイニングテーブルに集まる。
朝霧美夏と星乃紫がキッチンで食材をキッチン台に並べていた。
酒田、零、黒子はダイニングテーブルで待っている。
この日からテーブルの指定席が変わった。
大きなダイニングテーブルの壁側が、かぐや姫、零、昼間夕子が並ぶ。
向かいの席が、星乃紫、日向黒子、朝霧美夏、かぐや姫と星乃の間の席に酒田が着いた。
朝霧がテーブルにお箸とビールグラスを並べている。
星乃紫が料理を並べ、日向黒子が手伝っていた。
夕子は日本酒の地酒を朝霧美夏と|昼間夕子《三日月の従者の未来の転生者》の間に置いた。
朝霧が冷蔵庫から缶ビールを出しテーブルに運んだ。
「みんな、聞いて、今夜は三日月姫、つまりかぐや姫との再会を祝うわよ」
かぐや姫は夕子の話の意味が分からずに酒田の顔を覗き込む。
帝の前世を持つ酒田が姫に優しく教えていた。
かぐや姫の妹の前世を持つ朝霧が、かぐや姫のビールグラスにビールを注いだ。
姫は、その金色の飲み物と香りに驚いた顔に変わる。
星乃紫が、姫の前に朱色の盃を置いて、日本酒の地酒を注いだ。
夕子が言った。
「みんな、今夜は、乾杯は省略ね。
ーー 好きに飲んでください。
ーー 三日月姫さま、お酒、大丈夫?」
「未来、私がお酒強いの忘れたの?」
夕子の中に前世記憶は残っていない。
「申し訳ございません。三日月姫さま」
夕子のたじたじの失態に星乃紫が笑っている。
星乃紫は前世の自分と対面して上機嫌だった。
日向黒子も前世の自分と対面してにこやかな笑顔を浮かべていた。
かぐや姫は両手で盃を持ち口の中に一気に入れた。
「良い香りと味じゃな」
姫の口調が変わる。
「このお酒はどこのじゃ」
星乃紫が答える。
「越後杜氏が造られた越後のお酒でございます」
「左様か、未来、美味しいぞ、其方も飲まれよ」
かぐや姫の言葉を受けて、日本酒を飲み始める夕子。
「三日月姫さま、姫の物語を沢山の作家が書いているのよ」
「左様か。未来も書いておるのか?」
「はい、私も三日月姫の物語を書いています」
「それは、未来、嬉しいぞ」
「三日月姫さま、ありがとうございます。
ーー 未来は姫さまと再会出来ただけで満足しております」
「ところで、未来、分からぬことがある。
ーー 神社にあった、あの絵、なんで未来のところにもあるのかな」
「三日月姫さま、ここにいる者、全員の部屋にございます」
「それは、珍しいの」
「未来のところの絵も色が付いておるの」
かぐや姫以外の全員が戦慄した。
夕子の部屋のイラストはモノクロの下書きだった筈。
夕子は、あのイラストの悪戯を怖れている。
夕子は、携帯電話を持ち窓際に行って神主に連絡を入れた。
「もしもし、神主さん、夕子ですが・・・・・・」
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三日月未来




