第四十四話 かぐや姫と帝の再会
神社の神主を交えた飲み会は、遅くまで続いた。
神主の提案で、テーブルを囲んだ夕子、零、朝霧、酒田、黒子、星乃の六人は再び神社に行くことになる。
翌日、学校帰りの教師三人と酒田は、東富士見町のスーパーマーケットで晩酌の準備を済ませる。
「これで、バッチリね、美夏」
星乃紫だった。
「明日の週末の買い出しもしたから、神社のあとで飲み会できるわね」
朝霧美夏が言った。
夕子と酒田は、日本酒を見て迷っている。
星乃が、後ろから現れて日本酒の一升瓶を指で示す。
「夕子、これしかないでしょう」
酒田が言った。
「昼間先生、今日の買い物、いつもより多くないですか?」
「酒田さん、明日のことは分からないからね」
「なるほど・・・・・・」
週末の土曜の午後、昼間夕子、朝霧美夏、星乃紫、酒田昇の四人に日向黒子が加わり陰陽師の神社への路地を歩いている。
「昼間先生、今日は大丈夫そうです」
「酒田さんの濡れ衣は判明していますからね」
夕子が言うと美夏も続く。
「そうよ、酒田さんは冤罪レベルね」
「美夏、とにかく何も起きなければいいわ」
星乃がぼっそと付け加えた。
五人の視界に神社の小さな森と鳥居が見えて来た。
鳥居の下で陰陽師の神主と零が出迎えて手を振っている。
夕子も零に手を振った。
五人が、神社の鳥居をくぐり境内に入った時だった。
時空の歪みが微弱ながら起きていることを全員が感じる。
また何かが起きるのかと夕子たちが思った時、大きな地響きがした。
酒田が大声を上げ、その場にしゃがむ。
「地震ですよ」
酒田を見た教師三人も上半身を屈めていた。
携帯電話の緊急地震速報は通知されていない。
揺れは更に大きくなり鎮まった。
神社の境内の真ん中に姫の姿をした女性が突然、現れた。
零は倒れていたが姫の姿をした女性は立っている。
衣装も零の巫女装束とは明らかに違っていた。
姫の姿をした女性は酒田を見るなり駆け寄り酒田を強く抱き締めた。
「帝さま、ご無事でしたか。
ーー 三日月は心より心配しておりました」
神主も夕子も美夏も紫も、三日月の次元スリップに困惑している。
零と黒子の場合は女神の太鼓判があったが・・・・・・。
一番、困惑しているのは酒田自身だった。
酒田の前世が帝であることを知っていても、目の前に前世の絶世の美女が現れ酒田に抱き着いている。
夕子が三日月に向かって言った。
「あなた、かぐや姫ね」
姫が答える。
「あなた、未来ね。
ーー 私は三日月の姉、でも世間の人は“かぐや姫”と呼んでいるわ」
星乃紫が三日月に言った。
「姫、私がわかる?」
「あなたは来世の私ね。
ーー 同じ魂の波動を感じるわ」
美夏も姫に質問した。
「私が誰かわかる」
「三日月ね、私の妹よ。
ーー 元気だったかしら」
かぐや姫と零の二人は大昔からタイムスリップしていた。
かぐや姫が現れて時空の歪みが止まり、地震も消えている。
神主が、安全を考えて全員を神社の社務所に上がらせることにした。
神社の巫女が奥座敷へお茶を運んで来た。
かぐや姫は酒田から離れようとしない。
酒田の脳裡にかぐや姫と過ごした前世の記憶が昨日のように甦る。
かぐや姫の波動を感じた影響のようだ。
酒田も気付くとかぐや姫の小さく柔らかな手を握り締めている。
雪のように真っ白な小顔の肌が眩しく輝いていた。
酒田が握っているかぐや姫の手はしなやかで透き通るように真っ白い。
漆黒のような長い髪も輝きを放っている。
社務所の奥座敷に金色の眩い光が溢れ、光の中から精霊が現れた。
精霊の声が部屋に響く。
「姫、どうされますか」
かぐや姫は、黙っている。
「三日月姫、どうされますか」
かぐや姫である三日月は精霊に答えた。
「私は、帝と一緒がいい・・・・・・」
「分かりました。女神さまにお伝えしましょう」
精霊は消えて光になった。
夕子、美夏、紫の三人と酒田は頂上現象に慣れ始めていた。
日向黒子も零の件で、目には見えない世界の存在を否定していない。
けれども、憧れのかぐや姫が目の前にいるチートぶりに夢と現実が分からなくなっていた。
かぐや姫が、急に立ち上がり、部屋のイラストを指で指す。
「あの絵、宮殿の私の部屋にあった絵と同じ絵・・・・・・」
かぐや姫の口から絵の謎解きの断片が始まった。
謎のイラストはかぐや姫の時代と現世を結ぶ次元トンネルかも知れない。
神主が処分出来ないと言った理由にも繋がる。
しかし、神主が言っていた時期は、到来しているのだろうか。
夕子は不可解な頂上現象の中で謎解きを考えた。
前世の三日月妹、前世の未来、前世の帝の三人はタイムスリップしていない。
前世の三日月姉であるかぐや姫と前世の未来の妹である零の二人だけが現世にタイムスリップして前世から神隠しのように消えた。
夕子は、整理し直してみた。
かぐや姫は死んでいない。
タイムスリップして消えたのだ。
しかし矛盾が残る。
星乃紫と日向黒子は生まれ変わりの説明だ・・・・・・。
夕子の人間の常識の中では矛盾が付き纏う限界があった。
夕子は、かぐや姫を東富士見町のマンションに連れ帰ることにした。
夕刻、神社の前に大型のワゴンタクシーを神主が手配してくれた。
かぐや姫は、初めて見るワゴンタクシーの大きさに驚いている。
かぐや姫と酒田、零と黒子、夕子、美夏、紫の七人はワゴンタクシーに乗り自宅のある東富士見町マンションに向かった。
綺麗な現世の夕焼け空が広がっている。
かぐや姫はタクシーの窓から空をボーと空を眺めてながら終始微笑んでいた。
その頃、神社の神主は、時空の歪みの影響を懸念しつつ、零と同じく姫の処遇に頭を抱え込んだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです。
投稿後、追記と脱字を修正をする場合があります。
三日月未来




