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第四十二話 鏡の中の零と黒子

「先生! 先生! ・・・・・・」

 昼間夕子が振り返ると、視線の先に零の生まれ変わりとされる日向黒子(ひなたくろこ)がいた。

アイボリーのワンピースを着ている。


「日向じゃないか」

「先生たち三人は、ここで何をしてたんですか」


「いやな、星乃先生と朝霧先生に誘われて夕飯の買い物をしているところだ」

「先生、その買い物カゴのカート、夕飯ですか?」


「不経済でな、夕飯は、晩酌を兼ねているんだよ」


 夕子のしどろもどろの言い訳に耐えられなくなった朝霧と星乃の前世の姉妹が笑い転げていた。


「朝霧先生、星乃先生、そんなに可笑(おか)しいことですか」

「昼間先生、だって可笑しいものは可笑しいのよ」

朝霧美夏だった。


「ところで、日向は、なんでここにいるのかな?」

「親の都合で、最近、この近くのマンションに引っ越したんですよ」


「そうか、偶然だな・・・・・・」


 夕子は、そんな偶然あるのかと心の中で(つぶや)いた。


「先生、今、なんか言いました?」

「日向、お前、特殊能力あるのか」


「たまに、聞こえることがあるの」

「たとえば、どんなこと」


「前世のこととか」




 昼間、朝霧、星乃は、日向黒子の話を聞いて夕子のマンションに誘うことにした。


 四人は、レジを済ませて緩やかな上り坂の道を進む。


「先生のところも、こちらなんですか?」

「日向も、こっちかな」


 夕子は、背筋に冷たいものを感じる。

朝霧と星乃も同じことを考えていた。


「昼間先生! 昼間先生! ・・・・・・」


 朝霧が最初に気付き夕子に言った。

「後ろで、酒田さんが吠えてますよ。昼間先生」


 酒田が朝霧に近寄りため息を漏らすように言う。


「朝霧先生も、(ひど)いな。

ーー 呼んだだけで吠えていませんよ」


 星乃紫は酒田に笑みを浮かべている。


「昼間先生、僕も今夜の ・・・・・・」

酒田の言葉を夕子が(さえぎ)る。


「あっ、すみません。

ーー 生徒さんもいたのですね」


日向が酒田を見て言う。

「ご無沙汰しています」


酒田は照れながら頭を()いた。




 酒田を含めた五人は、東富士見町のマンション前に到着した。


「日向、ここに住んでいる。

ーー 星乃先生が一階で、朝霧先生が二階

ーー 酒田さんが三階で、私が四階だ」


「先生、私もここの四階です」

 夕子が想像していた偶然がまた重なった。


 不思議な世界の色取り取りのパズルが()まるように縁で結ばれた(きずな)の仕業だ。


 誰にも説明出来ない()()()()()()()()()()に、迷い込んだ子羊の気分を五人は体験している。


 日向黒子は、昼間先生の部屋番号を聞いた。

「先生、じゃあ、スーパーのレジ袋を置いて来ます」

「分かった。あとでな」


 朝霧、星乃、酒田の三人は、通い慣れた夕子の部屋に入った。

レジ袋をキッチン台に置いて、ダイニングテーブルの席に着く。


「人って、不思議よね。

ーー 最初に決めた席にこだわりがあるみたいに、

ーー 同じ席を選ぶわよね」

朝霧が言った。


「単に面倒くさいからじゃないかしら」

「星乃先生、そんなことないわよ。

ーー 通勤電車だって、いつもの車両にいつもの顔触れよ」


「朝霧先生の言う通りだ。

ーー 私なんか、いつも同じ場所にこだわっている」


「昼間先生が言うと信憑性(しんぴょうせい)が増すな」

酒田だった。


 


 井戸端会議をしているとドアチャイムがなった。

昼間夕子はインターホンで確認して日向黒子を迎え入れる。


「日向さん、上がって」

「お邪魔します」

日向が元気な声で言った。


 日向が呟く。

「ここ夢で来たことあるわ。

ーー この大きなテーブルにも見覚えがあるわね。

ーー そして、私はそこの席にいたのよ。

ーー でもね、今は反対側に座るわね」


 日向黒子は、零を意識するように零の席を避けた。


 酒田と星乃の間の席に黒子は座った。


「日向さん、何を飲みたい?

ーー コーヒー、オレンジジュース、何が好き」


「はい、オレンジジュースを頂きます」


 夕子は、冷蔵庫にあるジュースを黒子のグラスに注ぐ。

酒田、星乃、朝霧、そして夕子はビールをグラスに注いだ。


「じゃあ、よく分からないけど、

ーー 今夜も乾杯ね」

 夕子の合図で飲み会が始まる。


「日向ね、今から大事なお話があるの。

ーー それは、とっても不思議な話なの。

ーー 女神さまの許しもあるの。

ーー 精霊が、黒子を名指ししたのよ」


「先生、お話が見えて来ないのですが?」


 星乃紫が、夕子の話を引き継いだ。

「あなたの前世の名前は零なのよ。

ーー その零がタイムスリップして現世(うつしよ)に来ているの」


 星乃が言葉を切ると、夕子が続ける。

「零は前世の私の妹なの・・・・・・」




 その時だった。

 玄関のドアの開閉音が聞こえて全員が玄関方向を見た。

「夕子姉さん、ただいま」

黄色いワンピースの零が立っていた。


「零、お帰りなさい」

夕子が、挨拶を返すと、黒子が急に立ち上がり零の元に寄る。


「零さん、私、日向黒子よ。

ーー あなたの生まれ変わりよ」


 黒子の本能が頭で考えるように先に行動していた。

前世も後世も同じ魂を持つ二人が双子の姉妹のように時を共有している。


「零じゃ、黒子か、よろしくじゃ」

零が黒子の顔を覗き込むように見ると、黒子も同じ仕草で返す。

二人は鏡の中の自分を見ている錯覚を覚えた。



 零は朝霧と夕子の間の席に着いた。

対面には黒子が座っていた。


 夕子は、零の前にお猪口(ちょこ)を置き地酒を入れた。

「黒子、何歳じゃ」

「十八歳です」


「夕子姉さん、黒子とお酒が飲みたいじゃ」

朝霧と星乃が夕子にアイコンタクトをして許可をしている。


 夕子が黒子の前に別のお猪口(ちょこ)を置くと零と同じ仕草でお酌を求めていた。




黒子が急に立ち上がり唐突に呟いた。

「あのイラスト、うちにもあるわ」


 夕子は、神社の神主に携帯から電話を入れた。

昼間夕子は窓際に移り、カーテンの隙間から日没前の夕日を眺めていた。

夜の(とばり)が東の空を紫色に染め始めている。


「あっ、もしもし、神主さん・・・・・・」

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三日月未来(みかづきみらい)

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