第三十五話 前世の仲間で飲み会が始まる!
四人はマンションのエレベーター前で、どの部屋で飲み会にしようかと考えていた。
酒田昇、星乃紫、朝霧美夏の三人が昼間夕子を指で差し示す。
夕子は大きなため息をして、この状況が最初から分かっていたことを悟る。
「昼間先生、降参ね」
「朝霧先生、そんなにハッキリ言わなくてもね」
星乃が夕子を庇いながら微笑んだ。
「星乃先生、ありがとうございます」
酒田は、星乃の脇で落ち着かない様子。
美人教師三人とお酒を飲む機会なんて普通はないからだ。
しかも、ステルス作家の昼間先生の部屋に行く事になっている。
「昼間先生、僕、お邪魔して、邪魔じゃないですか?」
「酒田さん、大丈夫よ。心配無用よ」
「じゃあ、お邪魔しますけど・・・・・・。
ーー 一旦、部屋に鞄を置いて来ますね。
ーー 先生のお部屋は?」
「エル字マンションのエレベーターを降りて左側の端よ」
「僕は降りて右側ですから反対側ですね」
エレベーターは、エル字マンションの中央のエル字の角にあった。
酒田はエレベーターを三階で降りて夕子たちと別れた。
酒田が消えると夕子たちは前世名で呼び合う。
「夕子、すっかり忘れていましたね」
「なにをですか?紫」
「このマンションの構造ですよ」
「そうね、あまり無い構造ね」
「風水では、エル字の間取りとか敬遠されますし・・・・・・」
「迷信でしょう」
「夕子、そうでもないのよ。
ーー 家相に関係する専門書は沢山あるのよ」
「紫、その分野が専門ですものね」
「私は、ちょっとだけ偏っているだけよ。
ーー 気にしているなら、ここに住んでいないわ。
ーー けれど、偶然が次々に重なると・・・・・・。
ーー もうホラーレベルね」
「それを言っちゃったら、私たち自身がヤバイわよ」
三人は、マンションの白い扉を開けて賑やかに昼間夕子の部屋に入った。
「お邪魔します!」
「お邪魔します!」
「あら、これ何かしら・・・・・・」
「最近出来た、お寿司の宅配じゃないかな」
「そうなの、美夏?」
「私の所にもあったわよ」
「紫も、じゃあ、酒田さんが、来たら聞いて見ましょうか?」
「なにを・・・・・・」
「お酒のつまみよ」
紫と美夏は顔を見合わせて呆れている。
二人は、まだ素面だが、夕子のお酒のスイッチは既に入っていたからだ。
美夏と紫は隣室にバッグを置き、キッチンで夕子のお手伝いを始めた。
ドアホーンがなり三日月が未来の代わりに扉を開けて出ると・・・・・・。
「あら、酒田さん、早いわね。
ーー 昼間先生は、キッチンで支度をしています」
酒田は、駅前のスーパーで購入した九州の焼酎を朝霧先生に渡す。
「酒田さんは、焼酎派なの」
「いえね・・・・・・この間、試飲したら、喉越しが良かったのでつい
ーー 今日、買って見た訳ですよ 」
酒田は美夏を見ながら照れている。
後ろから、夕子と紫が現れて揶揄う。
「な〜に、お二人で、お見合いしているのよ」
夕子の言葉に酒田の顔は茹で蛸ように赤くなったが怒ってはいなかった。
「さあ、酒田さん、上がってください」
酒田はバリアフリーのフローリング玄関を上がってダイニングルームに案内された。
「酒田さん、このチラシの寿司屋知っている」
「この間、小腹が減ってオーダーしましたが、そこそこいいですよ」
「そう、じゃあ、お酒の肴が足らなくなったら、みんなでオーダーを考えましょう」
「昼間先生、今日は、何から始めますか」
「そうね、チリワイン、どうかしら」
紫は渡された赤ワインの葡萄を見て喜ぶ。
「これ、シラーよ。
ーー ブルゴーニュのピノ・ノワールも良かったけど。
ーー この葡萄は期待できるわ」
「紫、期待しすぎよ」
酒田が不思議そうな顔をした。
「酒田さん、紹介するわ、ここでは私たち、ニックネームで呼び合っているのよ」
「そうなんですか・・・・・・?」
酒田は、星乃紫と朝霧美夏に名刺を渡した。
「星乃紫です。
ーー ニックネームはケイです。よろしくね」
「朝霧美夏です。
ーー ニックネームは三日月です。よろしく」
「そして、私は未来です。
ーー ニックネームはここだけの秘密にしてください。酒田さん」
「未来先生、ニックネームに秘密ありそうですね」
「そうよ。だから、それは秘密なのよ」
夕子が、シラーの赤ワインをみんなに注ぐ。
美夏も、みんなのビールグラスにエールを注いだ。
紫は、小皿にチーズを乗せ終えた。
「じゃあ、みんな、ビールグラスを持って、お疲れ様の乾杯ね」
グラスが軽い音を立て四人の乾杯の声が響く。
「乾杯ーー 乾杯ーー 乾杯ーー 乾杯」
ビールを飲み干し、酒田が夕子に尋ねる。
「あそこのイラスト、今日の神社の境内ですよね」
「酒田さん、何で」
「だって、そのイラスト、色が違うけど、僕も持っているから」
「凄い偶然ね、ケイ」
「そう、私も持っているの。でも未来のとは違うわ」
「僕のも違う」
「私のは、父が書いた下書きですからモノクロ版ね」
「そうか、違和感は色の違いですね」
酒田はシラーを飲み終え、持参して渡した焼酎を開ける。
未来と三日月が、別のグラスを取りに行く。
「酒田さん、焼酎の飲み方は?」
「僕はストレートが好きです」
「あら、私もよ」
「ケイさんもですか?」
「ケイでいいわよ」
三日月と未来が、二人の様子を見ながらケイに微笑んだ。
「明日も、お天気良さそうね・・・・・・」
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三日月未来




